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シズク

桜鉄工所、深夜の工房。

シズクはメインスクリーンの前に座ったまま、目を閉じていた。

ハッキングの興奮が冷めやらぬ中、ふと、指先が古いデータフォルダに触れる。

パスワードはシンプル――「クゥちゃんにゃん」。

画面が淡く光り、2075年の記録が浮かび上がる。

ジャンク・クレーターの最下層、ネオンが届かない暗闇のスラム。

当時12歳のシズクは、まだシルバーヘアではなく、煤けた灰色の髪だった。


回想。

雨が降りしきる廃墟の路地。

シズクは濡れた段ボール箱の中で膝を抱え、震えていた。

両親はナノ・カタストロフの余波でエコー・ロスに飲み込まれ、

「人間」ではなくなって、彼女を置いて消えた。

残されたのは、古いタブレット一台と、

「これで生きろ」という最後の言葉だけ。

タブレットに映るのは、ヴォイド・コロシアムのストリーミング。

義体たちが血と火花を散らす光景。

シズクはそれを、ただ見つめていた。

戦う者たちではなく、

それを操る「Net」の存在に、目が釘付けになった。

「…あの人たち、全部、繋がってる」

画面の端に映るハッカーのシルエット。

コロシアムの環境を投げ銭で変え、戦いを操る影。

彼らは肉体を持たずとも、戦場を支配していた。

シズクはタブレットを握りしめ、初めて指を動かした。

闇市の安いジャンクコードを拾い、

コピーしたスクリプトを、試しに走らせる。

最初の一撃。

近所の闇市の監視カメラが、突然ブラックアウト。

その隙に、食料を盗むことができた。

「…これなら、私も」

それから、シズクはNetの世界に落ちていった。

廃墟のネットカフェを転々とし、

拾った知識を貪るように吸収。

ファイアウォールを破る快感、

データを操る支配感。

それは、孤独を埋める唯一の温もりだった。

しかし、ある夜――

シズクは強引に大企業のバックドアをこじ開け、

報酬として得たデータが、実はIron Legionアイアン・レギオンの初期テストログだったことに気づく。

追っ手が来た。

クロームの義体兵が、路地を埋め尽くす。

シズクは逃げ惑い、雨に濡れたまま転がり落ちた。

そこで、初めて出会ったのがレンだった。

金髪のメカニックが、廃墟の影から現れ、

シズクを抱き上げた。

「…大丈夫? もう、追われてるの?」

レンの声は優しく、

シズクの震える体を、コートの内側で温めた。

「私、Netやってる子……危ないことばっかりで……」

「知ってるわ。

でも、Netだけじゃなくていい。

一緒に、咲かせてみない?」

レンはシズクの手を取り、

桜鉄工所の扉を開いた。

そこにいたのが、サクラ。

まだIron Rankにも上がっていない頃の、

赤黒のオッドアイが、シズクをまっすぐに見つめた。

「新しい妹分、来たんだね。

一緒に、散っても咲こうよ」

その日から、シズクの髪はシルバーに染められた。

Netの力は、ただの逃げ道から、

「守るための武器」へと変わった。

――回想終わり。

工房の現在。

シズクは目をゆっくり開く。

スクリーンには、ヴェラのメモがまだ表示されたまま。

「…レン姉、サクラ。

あたし、Netに落ちたのは、孤独だったから。

でも今は違う」

クゥちゃんが膝に飛び乗り、「にゃーん」と喉を鳴らす。

シズクはクゥちゃんを抱きしめ、微笑む。

「今は、家族がいる。

だから、Iron Legionアイアン・レギオンなんかに、

絶対負けない」

彼女はキーボードに手を戻す。

今度は、ヴェラのトラップを逆手に取るコードを、

静かに、しかし確実に書き始める。

散っても咲く絆は、

シズクの過去さえも、強く繋いでいた。

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