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祝勝飯

桜鉄工所、地下工房「桜の間」。

薄暗い照明の下、溶接の火花が散った後の熱気がまだ残る中、

勝利の余韻が、甘い匂いとともに広がっていた。

テーブルにはレンが急ごしらえで用意した祝勝飯。

ジャンク・クレーターの闇市で仕入れた合成肉のステーキ、

ネオンカラーのエナジードリンク、そしてシズクが「これ絶対ウケる!」と持ってきた桜餅風のゼリー。

クゥちゃんはテーブルの上でくるくる回りながら、「にゃーん! にゃんにゃん♪」と勝利のダンスを披露中。

サクラはバトルスーツを脱ぎ捨て、いつものかわいいサイバーファッションに戻っていた。

ただし、右腕の義肢はまだメンテナンスハッチが開いたまま。

赤と黒のオッドアイが、疲れと達成感で少し潤んでいる。

「…ふぅ。やったね、レン」

レンは白いメカニックコートを羽織ったまま、サクラの隣に腰を下ろす。

金髪ロングが肩から滑り落ち、柔らかな光を反射していた。

「本当によくやったわ、サクラ。

あの最後の一撃……紅桜斬撃、完璧だった」

彼女はそっとサクラの開いた義肢ハッチに手を伸ばす。

指先が内部の回路に触れると、サクラの肩が小さく震えた。

「ん……レン、そこ、ちょっとくすぐったい」

「ごめんね。でも、熱暴走の兆候が出てるの。

このままにしておくと、次に繋がらないわ」

レンは工具を手に取り、丁寧に冷却ジェルを塗り込む。

その動きは、まるで恋人の傷を癒すように優しく、

時折、指先がサクラの皮膚部分に触れるたび、

二人の間に甘い沈黙が流れた。

シズクは向かいの椅子でゼリーを頬張りながら、

ニヤニヤと二人を観察している。

「ねぇねぇ、レン姉。

今日のサクラ、めっちゃカッコよかったよね〜!

あの黒コート翻して桜吹雪舞わせるとこ、完全に百合アニメの主人公じゃん!」

「シズク、黙って食べなさい」

レンは頰を少し赤らめながらも、笑みを浮かべる。

そして、再びサクラの義肢に集中する。

「…痛かった? あのChrome Talonクローム・タロンのハンマー、

直撃寸前だったわよね」

サクラは首を振って、柔らかく微笑んだ。

「大丈夫。レンがいつも完璧に調整してくれるから、

信じて突っ込めたんだよ」

レンの手が、一瞬止まる。

彼女はサクラの顔をじっと見つめ、

そっと、もう片方の手でサクラの頰に触れた。

「…サクラ」

声が、少し震えていた。

「あなたが散っても、私は絶対に咲かせてみせる。

どんなに壊れても、どんなにエコー・ロスが進んでも……

この手で、ずっと繋いでいるから」

サクラの赤黒のオッドアイが、レンの瞳を映す。

そこには、ただのメカニックと義体の関係以上の、

熱くて柔らかい何かが宿っていた。

「……レン」

サクラはレンの手を握り返し、

そのまま、額を寄せ合う。

クゥちゃんがテーブルの上で「にゃんにゃーん♡」と鳴き、

シズクが「きゃー! やばい! これは録画案件!」とスマホを構えるも、

レンが鋭い視線で睨むと、慌てて引っ込めた。

工房の片隅で、桜のロゴが静かに光を放つ。

錆びた鉄板の上に舞う赤い花びらが、

二人の影を優しく包み込んでいた。

「…おめでとう、Chrome Rank昇格おめでとう」

レンは囁くように言い、

サクラの額に、そっと唇を寄せる。

それはキスというより、約束の証のように。

「次はもっと、もっと高く。

一緒に、咲き続けようね」

サクラは目を閉じて、ただ頷いた。

「うん。

レンと、シズクと、クゥちゃんと……ずっと」

祝勝の夜は、まだ始まったばかりだった。


挿絵(By みてみん)




照明を少し落とし、桜色の間接光だけが柔らかく二人を包む。

テーブルの祝勝飯は半分残ったまま、シズクは

「ちょっとトイレ!」

とクゥちゃんを抱えて席を外し、

工房には静かな余韻だけが残っていた。

サクラは椅子に浅く腰掛け、右腕の義肢ハッチを全開にしたまま。

機械むき出しの内部が赤く脈打ち、冷却ジェルの冷たさがまだ皮膚に染みている。

レンはその前に跪き、工具を置いて両手でサクラの義肢を優しく包み込む。

金髪がサクラの膝に落ち、さらさらと滑る感触が心地いい。

「……レン」

サクラの声が、少し掠れる。

赤と黒のオッドアイが、レンの顔をじっと見つめている。

レンはゆっくりと顔を上げ、

サクラの頰に指先を這わせる。

親指が唇の端をなぞり、まるで壊れ物を扱うように。

「サクラ……今日のあなた、本当に美しかった」

言葉が、吐息のように零れる。

「黒コートが翻って、桜吹雪が舞う瞬間……

心臓が止まるかと思ったわ。

あなたが散るんじゃないかって、怖くて」

サクラは小さく首を振り、レンの手を自分の胸に導く。

心臓の鼓動が、義肢越しに伝わる。

「散らないよ。

レンがいる限り、絶対に」

レンの瞳が潤む。

彼女はサクラの膝の間に身を寄せ、

そのまま上体を起こして、額をサクラの額に重ねた。

二人の息が混じり合う距離。

レンの金髪がサクラの頰をくすぐり、

サクラの黒髪がレンの首筋に触れる。

「……もっと近くに」

レンが囁く。

サクラは目を閉じ、そっとレンの腰に腕を回す。

義肢の冷たい金属と、温かな皮膚が混ざり合う感触。

レンはサクラの唇に、指で軽く触れる。

そして、ゆっくりと自分の唇を重ねた。

それは最初、ただの触れ合い。

優しく、確かめるように。

でも、次の瞬間、

レンはサクラの首の後ろに手を回し、

深く、熱く、キスを深めた。

サクラの息が漏れ、

小さな吐息がレンの唇に溶ける。

「ん……レン……」

サクラの声が甘く震え、

レンはさらに強く抱き寄せる。

金髪と黒髪が絡み合い、

桜の残光が二人の影を優しく染める。

キスが離れると、レンはサクラの耳元で囁いた。

「あなたは私のものよ、サクラ。

どんなに壊れても、エコー・ロスが進んでも……

この手で、ずっと守る。

ずっと、愛してる」

サクラのオッドアイが、涙で輝く。

彼女はレンの頰を両手で包み、

今度は自分から唇を重ねた。

二度目のキスは、もっと深く、もっと長く。

工房の静寂に、二人の息遣いだけが響く。

やがて唇が離れ、

額を寄せ合ったまま、

レンが微笑む。

「Chrome Rank、始まったばかりね。

でも……あなたとなら、どこまでも行ける気がする」

サクラは頷き、レンの首に腕を回して抱きつく。

「うん。

レンと一緒に、ずっと咲き続けたい」

工房の隅で、桜のロゴが静かに脈打つ。

錆びた鉄板に舞う赤い花びらが、

二人の絆を、優しく、永遠に祝福するように。

挿絵(By みてみん)



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