S3:世界の真実
「世界の管理って、本当に面倒なんですよねぇ〜」
アイシアが少し疲れたような表情を浮かべる。
「面倒……女神がそんなこと言っていいの?」
「まぁ、大丈夫でしょう。」
「はぁ、適当な女神だなぁ〜」
「私たち女神の役割は、数多ある宇宙を管理することです」
アイシアが手に持つ優美な杖を振ると、目の前に無数の光球が浮かび上がった。
「でも、宇宙によって物理法則が異なります。魔法がある世界もあれば、ない世界もある。時間の流れ方も、生命の形態も、全てが違う。これを一つ一つ個別に管理するのは、不可能に近いのです」
「それは……確かに大変そう」
「ええ。そこで、私はあるシステムを開発しました。全ての現象を『スキル』として定義し、統一的に管理するシステムです」
アイシアの説明が続く。
「このスキルシステムのおかげで、異なる宇宙をスムーズに管理できるようになりました。そして、日常的な管理は精霊の王に任せることにしたのです」
「精霊の王?」
「ええ。管理者権限という特別な権限を与えました。既存の全てのスキルを使え、新しいスキルを生み出すことも、誰かにスキルを与えることもできる。この権限があれば、何か問題が起きても対処できると考えたのです」
アイシアは満足げに微笑んだ。
「完璧なシステムでした――問題が起きるまでは」
「問題?」
「ええ。それが『支配者階級スキル』の出現です」
アイシアの表情が曇る。
「ある日突然、誰も作っていないスキルが現れました。私が作ったわけでもない。精霊の王が作ったわけでもない。それなのに、確かに存在していたのです」
「勝手に……生まれた?」
「はい。なぜ誕生したのか、今でも分かりません」
アイシアは杖を軽く握りしめた。
「そして、このスキルは管理者権限でも制御できませんでした。使うことも、消すことも、奪うこともできない。ただ観測することしかできないのです」
「それって……まずくない?」
「ええ。もし世界を滅ぼすほどの強力なスキルが現れたら? 止める手段がありません」
アイシアは深刻な表情になった。
「スキルシステムそのものを停止しようとしました。でも、システムは既に生物の魂の深くまで浸透していた。止めれば、無数の生命がどうなるか分からなかった」
「それは……止められないね」
「だから、別の方法を取りました。支配者階級スキルを得た者には『支配者権限』を与え、世界の秩序を守るよう伝えたのです」
「支配者権限?」
「配下を召喚したり、配下のところへ瞬時に転移したり、配下と感覚を共有したりできる能力です。世界を守るための力ですね」
アイシアは少し安心したような表情を見せた。
「こうして、世界は再び平和になりました――蟲魔王が現れるまでは」
「蟲魔王の暴走で、人の世界の文明は崩壊し、純粋な人間のほとんどが死んでしまいました」
アイシアが悲しそうに語る。
「人の世界には吸血鬼が暮らしています。彼らは人間の血を糧に生きる種族です。純粋な人間が激減したことで、深刻な食糧不足に陥ったのです」
「それで……地球?」
「はい。地球を管理している女神と交渉し、地球から人間を転移させる許可をもらいました」
「でも、突然『異世界に来ませんか?』と言っても、誰も信じないでしょう? だから、『新作ゲーム』という形にしたのです」
「なるほど……確かに、ゲームなら興味を持つ人はいるか」
「ええ。ただ、地球人が異世界という概念に慣れていないと混乱します」
アイシアは少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「そこで、日本全体に『異世界ものの小説を書きたくなる』という、とても軽い暗示をかけました」
「暗示って……」
「本当に軽いものです! 強い暗示だと人格に影響が出ますから、元々創作に興味がある人の背中を少しだけ押しただけです」
アイシアが弁解する。
「おかげで大量の異世界作品が生まれ、人々は異世界という概念に慣れました。ただ……」
「ただ?」
「暗示の影響を受けやすかったのが、明確な目標や信念を持たず、惰性で生きている人たちだったようで……」
アイシアは困ったような顔をした。
「だから世の異世界作品には『力はあるけど責任は取りたくない』とか『目標もなくただ自由に生きたい』という、中途半端な主人公が多いんですよね」
「ひどいこと言ってない?」
「事実ですから」
「それで、この『ゲーム』はどういう仕組みなの?」
「異世界に身体ごと転移するには、とてつもないエネルギーが必要です」
アイシアが説明を始める。
「でも、記憶と意識だけを送る量子テレポーテーションのような仕組みを使えば、必要最低限のエネルギーで済みます」
「つまり……地球の私はどうなってるの?」
「地球のあなたは、VR機器をつけて眠っている状態です。意識だけがこちらに来ています」
「意識だけ?」
「ええ。こちらのあなたは、地球のあなたの記憶と意識を完全にコピーして作られた存在です。でも、本物のあなたと何も変わりません」
アイシアは続ける。
「そして、ログアウトすれば、こちらでの記憶が地球のあなたに送信されます。地球のあなたは『ゲームをプレイした』という記憶を持って目覚めるのです」
「なるほど。つまり、通常のVRMMOと同じ感覚でいいってこと?」
「その通りです。いつでも帰れますし、地球のあなたは無事です」
「なら、いいか」
少し安心した。
「あ、でも、ゲームの公式HPにはほとんどがAIが作成したゲームって説明されてたけどあれは嘘ってこと?」
「人工知能のAIではなく、アイシアのAIなので何も嘘はついてませんよ?」
「はぁ、細かいことはどうでも良いか…」
「そんなことより、あなたに提案があるのです。」
アイシアが真剣な表情になった。
「提案?」
「この世界、アルヴァリアの管理者となり、この異世界で暮らしてみませんか?」
「え?」
予想外の言葉に、私は固まった。
「管理者権限を、あなたに与えたいのです」
「ちょ、ちょっと待って。なんで急にそんな話に?」
「あなたには、プレイヤーをこの異世界に招待する役割を担ってほしいのです」
アイシアが説明を続ける。
「先ほど説明した通り、人の世界では純粋な人間が不足しています。ゲームという形でプレイヤーを招待していますが、10年後、20年後、人々がこのゲームに飽きてしまったら?」
「また人間が減って、吸血鬼が困ると」
「その通りです。だから、このゲームを本当に魅力的なものにしたい。プレイヤーが『ここで暮らしたい』と思えるような世界にしたいのです」
アイシアの目が真剣に輝く。
「公式イベントを企画したり、運営したり、この世界を盛り上げる。そして最終的には、プレイヤーたちがこの世界の住人として定住してくれれば、純粋な人間が増え、吸血鬼の食糧問題も解決します」
「なるほど……でも、なんで私がやる必要があるの? あなたがやればいいじゃん」
「それはめんd……ではなく」
アイシアが咳払いをした。
「私は女神として、他にも管理しなければならない宇宙がたくさんあります。それに、私は地球のゲーム文化についてあまり詳しくありません」
「確かに……」
「地球人であるあなたが企画や運営をした方が、プレイヤーが本当に楽しめるイベントができると思うのです」
アイシアが期待の眼差しを向けてくる。
「まぁ……楽しそうではあるけど」
私は少し考えた。
「でも、世界の管理者って何をしたらいいのか全然わかんないんだけど」
「大丈夫です。サポートをつけます」
アイシアがパンと手を叩いた。
「エレン! 出ておいで」
その呼びかけに応じて、空間がキラキラと輝いた。
現れたのは、ピンク色の髪をした小柄な少女。いや、少女というより妖精? 背中には透き通るような美しい羽があり、全身が淡いピンクと白を基調としたドレスで包まれている。花冠のような装飾が頭に乗っており、まるで花の精霊そのものといった姿だった。
「花の上位精霊のエレンです。これからよろしくお願いします」
エレンが可愛らしくお辞儀をした。声も見た目通り、柔らかくて優しい。
「エレンは、先ほどまで蟲魔王の封印を監視していた精霊です。仕事がなくなってしまったので、あなたのサポート役として働いてもらいます」
「監視……あ、もしかして一時退避した?」
「は、はい……申し訳ありません」
エレンが恥ずかしそうに頬を染めた。
「あの時の異臭は本当に強烈で……つい……」
「あはは、気にしないで。私も覚えてないし」
「ありがとうございます! これからよろしくお願いします、サラ様!」
エレンが嬉しそうに微笑む。その笑顔は、本当に花が咲いたように明るかった。
「様はいらないよ。サラでいい」
「では、サラさん!」
「うん、それでいい」
「それと、もう一つ」
アイシアが杖を振った。
「あなたの服装が初期装備のままで、管理者らしくありません。ふさわしい装備を与えましょう」
光が私を包み込む。
次の瞬間、私の服装が変わっていた。
深い青と鮮やかな赤を基調とした、優雅なドレス。青いジャケットの上に赤いマントが翻り、白いスカートが足元まで広がっている。黒い手袋をはめた手には、黒い爪のような装飾。そして髪には、紫と黒の蝶のアクセサリー。
「これ……」
「蟲魔王の権能を持つあなたにふさわしい、管理者の装束です」
アイシアが満足げに微笑む。
「かっこいい……」
思わず自分の姿を見つめる。銀髪に赤い瞳、そして蝶の装飾。初期設定で適当に作ったアバターが、こんなに映えるなんて。
「似合ってますよ、サラさん!」
エレンが嬉しそうに言った。
「ありがとう」
「では、サラさん」
アイシアが改めて問いかける。
「あなたは、この世界、『アルヴァリア』の管理者となり、この世界を盛り上げてくれますか?」
私は少し考えた。
開始5秒で蟲魔王になって、いきなり世界の管理者に任命される。
普通なら「無理です」と断るところだろう。
でも――。
「やってみる」
私は答えた。
「どうせなら、面白いことをしたい。ただプレイするだけじゃなくて、この世界を作る側になるのも悪くない」
「ありがとうございます!」
アイシアが嬉しそうに微笑んだ。
「では、正式に――」
アイシアが杖を掲げる。
「私、女神アイシアの名において、サラに管理者権限を授けます」
光が私を包み込む。温かくて、優しい光。
「エレンが使い方を教えてくれます。分からないことがあれば、いつでも私を呼んでください」
アイシアが優しく微笑む。
「はい。ありがとうございます」
「では――」
アイシアが手を振った。
「新たな蟲魔王にして、この世界の管理者、サラの活躍を期待しています」
光が消え、アイシアの姿も消えた。
残されたのは、私とエレンだけ。
「さて、と」
私は深呼吸した。
「これから、何をすればいいの?」
「とりあえず、人の世界の支配者である、真祖吸血鬼に挨拶に行きましょうか。」
「え?」
「では、早速真祖吸血鬼の所へ転移しますよ!」
「えっ!ちょっと待っ……」
こうして、私の管理者としての生活が始まった。
開始5秒で魔王になり、さらに世界の管理者になった私。
この先、どんな冒険が待っているのか。
それは、私自身にも分からない。
でも――きっと、退屈はしないだろう。
とりあえずキリの良いところまで投稿しました。
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