外伝:異邦人誕生物語
本編より先に外伝を投稿するスタイル。
龍の世界、獣の世界、海の世界、蟲の世界、精霊の世界、悪魔の世界、天使の世界――。
様々な世界がある異世界『アルヴァリア』。その中のひとつ、吸血鬼が支配する世界には、吸血鬼が生きていくために多くの人間が暮らしていた。
人間たちのほとんどは、吸血鬼の存在を知らなかった。彼らは魔法やスキルのある、現代地球に似た文明的な生活を送っていた。吸血鬼たちは影から世界を支配し、人間たちはそれと知らずに平和な日々を過ごしていた。
しかし、ある日。
蟲の世界の支配者、蟲魔王が突如として吸血鬼の世界に侵攻した。
圧倒的な力を持つ蟲魔王とその眷属の前に、人間たちは無力だった。ほとんどの人間が殺され、文明は瞬く間に崩壊した。
世界の裏側で支配者として君臨していた真祖吸血鬼が、ついに姿を現した。
真祖は持てる力のすべてを振り絞り、激戦の末、蟲魔王とその眷属を封印することに成功した。だが、その代償はあまりにも大きかった。真祖の力はほとんど失われ、かつての威厳ある姿は小さな子供のような体へと変わり果ててしまった。
世界は救われた。しかし、代償として失ったものも大きかった。
ほとんどの人間が死に絶え、吸血鬼たちは深刻な問題に直面した。血を吸うための人間が、圧倒的に不足したのだ。
真祖吸血鬼は決断した。
力を振り絞り、様々な世界の支配者たちに呼びかけた。「人間と交配してほしい」と。
世界を救った真祖の願いを、支配者たちは受け入れた。
こうして、吸血鬼の世界に新たな種族が誕生した。龍と人間の子である龍人。獣と人間の子である獣人。海の民と人間の子である魚人や人魚。精霊の血を引くエルフやドワーフ。悪魔の血を引く魔族。天使の血を引く天族。
多様な種族が共存する世界へと、変貌を遂げたのだ。
それから約二千年。
世界は少しずつ復興し、文明は中世ヨーロッパほどの水準まで回復した。各地に様々な国家が誕生し、多種族が共存する新しい時代が訪れていた。
だが、以前とは決定的に異なる点があった。
世界各地に「ダンジョン」と呼ばれる場所が存在していたのだ。
ダンジョンとは、蟲魔王やその眷属が封印されている場所である。封印からわずかに漏れ出る魔力によって、ダンジョン内には様々な魔物が自然発生し、同時に宝箱や貴重な素材も生まれた。
危険と引き換えに富を得られるダンジョンには、冒険者たちが集まるようになった。
世界最大のダンジョン。それは「原初のダンジョン」と呼ばれていた。
その最下層には、蟲魔王自身が封印されている。
原初のダンジョンを領土内に持つ国、それが神聖国である。神聖国は、二千年前に世界を救った真祖吸血鬼を教祖とする宗教を国教としていた。
世界には他にも様々な国があった。実力主義を掲げる帝国。単一種族だけで構成された国家。様々な種族が対等に暮らす共和国。それぞれが独自の文化と価値観を持ち、時に協力し、時に対立していた。
だが、原初のダンジョンは特別だった。
真祖吸血鬼は、蟲魔王を封印した当初からこう考えていた。「封印に何かあってはならない」と。そのため、一般人による立ち入りを厳しく禁止していた。
封印直後は、真祖に認められた強者たちが定期的にダンジョンに入り、発生する魔物を討伐していた。封印の状態を確認し、魔物が溜まりすぎないよう管理していたのだ。
しかし、二千年という時が流れる中で、人々の危機感は薄れていった。
「封印は絶対だ」
「蟲魔王が復活するはずがない」
そう考える者が増え、原初のダンジョンの管理は次第におろそかになっていった。ダンジョンに入って魔物を討伐する者は年々減少し、やがてほとんど誰も入らなくなってしまった。
そして、ある日。
原初のダンジョンから、魔物が溢れ出た。
長年放置され、討伐されずに増え続けていた魔物たちが、ついにダンジョンの外へ溢れ出したのだ。
蟲魔王の魔力を直接浴び続けた魔物たちは、他のダンジョンの魔物とは比較にならないほど強力だった。神聖国の街に襲いかかった魔物の群れは、次々と人々を殺戮していった。
街は阿鼻叫喚に包まれた。
幸いだったのは、ここが真祖吸血鬼の住まう神聖国だったことだ。多くの吸血鬼たちが街に暮らしており、彼らが総力を挙げて戦った。
激戦の末、何とか魔物を殲滅することができた。
だが、神聖国に暮らしていた純粋な人間の多くが命を落とした。
吸血鬼たちにとって、これは深刻な問題だった。
他の国に行けば、エルフやドワーフ、獣人や魔族など、様々な亜人の血を吸うことはできる。だが、やはり純粋な人間の血が最も美味なのだ。吸血鬼たちは、できることなら人間の血を吸いたいと願っていた。
真祖吸血鬼は頭を抱えていた。
魔物の氾濫で多くの人間を失った。原初のダンジョンの管理体制を立て直さなければならない。だが、それを担える強者は少ない。人間の数も減ってしまった。
どうすればいいのか。
真祖が思案していたその時、突如として光が降り注いだ。
光の中から現れたのは、神々しいオーラをまとう女性だった。
「私は女神」
そう名乗った存在は、真祖吸血鬼に提案した。
「この街に、たくさんの人間を召喚してあげましょう。その代わり、彼らのサポートをしてください」
純粋な人間を必要としていた真祖吸血鬼は、即座に同意した。
こうして、神聖国の人々は、後に「異邦人」と呼ばれる者たちを迎え入れることになった。




