外伝:蟲魔王誕生物語
世界観の説明なども含みます。
龍の世界、獣の世界、海の世界、人の世界、精霊の世界、悪魔の世界、天使の世界――。
数多の世界が存在する異世界『アルヴァリア』。
その中のひとつ、蟲の世界では、たくさんの種族が暮らしていた。蝶、蟻、蜂、蜘蛛、ムカデ、クワガタ、カブトムシ。これら七つの種族の代表は「支配者階級のスキル」と呼ばれる特別な力を持ち、蟲世界の七大種族として君臨していた。
支配者階級のスキルは、普通のスキルとは一線を画す存在だった。数多ある世界の中でも、同じ名のスキルを持てるのはただ一人。その力は代々引き継がれ、継承の方法は二つ。スキル保持者を殺して奪うか、保持者に認められて受け継ぐか。
もし誰にも引き継がれぬまま保持者が死ねば、そのスキルは世界を巡り、自らにふさわしいと思う者に宿る。ふさわしい者がいなければ、スキルは永遠にさまよい続ける。
そして、これらのスキルには小さいながらも自我があった。
引き継ぐ者は、とても強い心の持ち主でなければならない。もし弱い心の持ち主にスキルが宿れば、スキルがその身体を乗っ取り、どんな惨劇が起こるか分からない。ただ、スキルたちは弱い者には興味がないため、そのような事態はめったに起こらなかった。
保持者が誤って弱い心の持ち主に継承しない限りは。
だからこそ、保持者は慎重に次の継承者を選ばねばならなかった。
これは大昔の蟲の世界で、その判断を誤ってしまい、世界が崩壊しかけた悲劇の物語である。
クワガタとカブトムシの種族は、長年ライバル関係にあった。
しかし最近、クワガタの王に選ばれた者は、類まれなる強さと才覚を持つ人物だった。その力の前に、カブトムシの種族は次第に危機に瀕していた。
カブトムシの支配者が持つスキルの名は「憤怒」。
このスキルは、怒りなどの負の感情を魔力に変換する。
怒り、憎しみ、恐怖、悲しみ――そういった感情が強ければ強いほど、魔力が無尽蔵に生み出される。だが同時に、理性をどんどん失ってしまう。ハイリスク、ハイリターンな力だった。短時間の使用なら何とか理性を保てるが、長時間使えば理性を失い、最終的にはスキルに身体を乗っ取られる危険があった。
支配者階級のスキルの多くは、このように強力な効果がある反面、使うリスクも大きかった。
そして時は流れ、カブトムシの王の引退が近づいていた。次の王を決めなければならない。
支配者階級のスキルは、その名の通り支配者が持つスキル。従う者が多いほど、効果は強力になる。スキル「憤怒」なら、支持者が多いほど理性を保てる時間が増える。
慣例では、支持者の多い者を次の王に選ぶ。今回の王もその慣例に従った。
だが、クワガタに負けることを恐れたカブトムシの民が次の王に望んだのは、ただ一つ。
「強さ」だった。
こうして、カブトムシの中で最も強い者が、次の王に選ばれた。
新たなカブトムシの王は、自分こそ最強だと思い込んでしまった。そして、調子に乗ってクワガタの王に勝負を挑んだ。
しかし、クワガタの王は想像以上に強かった。
追い詰められたカブトムシの王は、スキル「憤怒」を発動した。短時間で決着をつけるつもりだった。だが、勝負は互角。戦いは長時間に及んだ。
なぜスキル「憤怒」を発動したにも関わらず互角だったのか、それはクワガタの王が強かったことも理由だが、支配者階級スキルというものは、従う者が多いほど強力になるものであり、まだ王になりたてだったカブトムシの王は、表面上は従う者が多かったが、心から従っている者はまだ少なく、数も質も大切である支配者階級スキルである、「憤怒」を発動したとしても、互角程度にしか、力を伸ばすことができなかったのである。
しかし、体力勝負なら、無尽蔵に湧き出る「憤怒」の力を持つカブトムシの王が有利だった。 不利を悟ったクワガタの王は降伏し、カブトムシの王の支配下に入った。
勝負は決した。
だが、長時間「憤怒」を発動していたカブトムシの王の理性は、とっくに失われていた。
獣と化した王は、次の獲物を探した。
次に見つけたのは、蝶の女王だった。戦闘が得意ではない彼女は、降伏を宣言する間もなく瞬殺された。カブトムシの王は、蝶の女王が持っていた支配者階級のスキル「艶美」を継承した。
スキル「艶美」は、常に軽度の「魅了」状態異常を魔力消費なく、周囲に振りまく力だが、自力で解除することができない。しかしこのスキル「艶美」は、「憤怒」に飲み込まれたカブトムシの王には、もはや効果はなかった。
こうして、二つ目の支配者階級のスキルを手に入れたカブトムシの王は次の獲物を求めた。
カブトムシの王が暴走しているという報せは、蟲の世界の隅々まで広がっていた。
この暴走を止めるため、蟻、蜂、蜘蛛の三人の女王が立ち上がった。普段は仲が良くない三人だったが、世界の危機にそんなことは言っていられなかった。
三人は、もし負けて支配者階級のスキルを奪われたら取り返しのつかないことになると考えた。そこで自らのスキルをまだ幼い娘たちに預け、ムカデの王のもとへ向かわせた。
ムカデの王は、別世界へ行くことができる次元の扉の管理をしているため、その場を動くことができなかった。
三人の娘たちは、母たちの勝利を信じてムカデの王のもとへ向かった。
そして女王たちは、強大なオーラを放つカブトムシの王のもとへ向かった。
その場にいたのは、カブトムシの王だけではなかった。支配下に置かれたクワガタの王もいた。二対三の戦いが始まった。
最初は互角だったが、カブトムシの王が先ほど手に入れたスキル「艶美」が常に発動しているので、時間が経てば経つほど、三人の女王は不利になっていき、やがて一人が倒れ、残る二人も力尽きた。
三人の女王は、全員が命を落とした。
だが、時間は十分に稼げた。娘たちは無事にムカデの王のもとへたどり着き、現状を伝えることに成功していた。
そして現状を知ったムカデの王は、次元の扉を開く準備を始めた。
カブトムシの王は、三人の女王のスキルを手に入れることはできなかった。だが、大量の蟻、蜂、蜘蛛を支配下に置くことには成功した。
その軍勢を駆使し、クワガタの王とともに、ムカデ以外のほとんどの種族を支配下に置いた。
そしてムカデの王のもとへ向かったが、意外なことにムカデの王はすぐに降伏した。三人の娘たちも降伏し、カブトムシの王は蟲の世界のすべての種族を支配下に置いた。
王は自らを「蟲魔王」と名乗った。
ムカデの王のもとを離れようとした蟲魔王に、ムカデの王は別世界の存在を伝えた。興味を持った蟲魔王は、蟻、蜂、蜘蛛の軍勢と、三人の娘、そしてクワガタの王を引き連れ、人の世界へ旅立った。
本当はムカデの王も連れて行きたかったが、「蟲の世界の管理をする者も必要だ」と説得され、諦めた。
蟲魔王たちが人の世界へ行ったことを確認すると、ムカデの王はすぐさま次元の扉を閉じた。簡単には戻れないように。
蟲魔王を追い出すことに成功したのだ。
実は、蟲魔王が数多の種族を支配していく最中、ムカデの王は三人の娘たちに頼んでいた。
「この蟲の世界の平和のために、犠牲になってほしい」
娘たちは、戦いに向かった母たちの姿を思い浮かべ、自分が犠牲になることを了承した。
本当は、こんな幼い娘たちを犠牲にしたくなかった。だが、蟲魔王を説得して娘たちを残すことは不可能だとムカデの王は判断した。
蟲の世界の平和のためとはいえ、ムカデの王の心には深い罪悪感が残った。
しかしこうして、蟲の世界の混乱は何とか収まった。
面白いと感じましたら、ブクマ、評価、コメント等をよろしくお願いします。




