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多元宇宙の管理者  作者: 黒海苔
本編

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10/10

S7:魔王と勇者と聖女

世界の設定の説明は今回で終わりです。次回から本格的に物語が始まる予定です。

 会議は順調に進んでいた。

 アキがラスボスとしての役割を引き受け、異邦人たちを迎え入れる準備も整いつつある。

「それでは、アキ様」

 サキが真面目な顔で言った。

「具体的には、どのような活動をしていただくことになりますか?」

「えっと」

 私は少し考えた。

「異邦人の前に、突然現れてほしいんです」

「突然?」

「はい。街中でも、ダンジョンでも、フィールドでも。予想外の場所に現れて、意味深なことを言う」

 私は説明を続ける。

「『この世界の真実を知りたくば、力をつけよ』とか、『いずれ、全てが明らかになるだろう』とか」

「なるほど……謎めいた存在として、異邦人たちの興味を引くわけですね」

 サキが理解したように頷いた。

「その通りです。そして、時々ヒントを与えたり、イベントのきっかけを作ったり」

「ラスボスというより、案内役のような?」

 エレンが尋ねる。

「うーん、両方かな。最終的には、アキさんと戦うイベントもあるかもしれないけど、基本的には世界の謎を導く存在」

 私は続けた。

「だから、威厳を持って、魔王らしく振る舞ってほしいんです」


挿絵(By みてみん)


「魔王らしく……」

 アキが呟いた。

 そして、ふと疑問を口にした。

「でも、魔王は既にこの世界にいるのでは?」

「え?」

 私は思わず声を上げた。

「魔王? この世界に?」

「はい。南の大陸に、魔王様がいらっしゃいます」

 アキがきょとんとした顔で答える。

「ですから、別に私が魔王を演じる必要はないのでは……」


「ちょっと待って」

 私は混乱した。

「この世界に、本物の魔王がいるの?」

「ええ、もちろん」

 ミレイユが当然のように答えた。

「魔王、勇者、聖女。この世界には、古くからその三者が存在しているわ」

「勇者と聖女まで!?」

「はい。お姉様、ご存知なかったのですか?」

「全然知らなかった……」

 私は頭を抱えた。

 ゲームの公式HPには、魔王のことは書かれていなかった。勇者も、聖女も。

 でも、既にいるなら、これは大きな問題だ。

「エレン」

 私は精霊に尋ねた。

「魔王、勇者、聖女について、詳しく教えて」

「はい。それでは説明しますね」

 エレンが真剣な表情になった。


「その前に、まず亜人の誕生について説明した方が良いでしょう」

 エレンが前置きした。

「亜人?」

「はい。魔族、獣人、エルフ、ドワーフ、龍人、人魚、海人、天族……これらの種族は、二千年前に誕生したのです」

「二千年前……蟲魔王が封印された時?」

「その通りです」

 ミレイユが少し寂しそうに微笑んだ。

「蟲魔王を封印した時、人の世界の純粋な人族のほとんどが死んでしまいました」

「それで、吸血鬼たちが困ったと……」

「ええ。私たち吸血鬼は人間の血を糧に生きています。でも、人間がほとんどいなくなってしまった」

 ミレイユは続ける。

「そこで私は、様々な世界の支配者たちと交流しました。そして、人間と交配してほしいと頼んだのです」

「交配……」

「はい。悪魔の世界の住人と人族の間に生まれたのが、魔族」

 エレンが説明を続ける。

「獣の世界の住人との間の子が、獣人。精霊の世界の住人との間の子が、エルフやドワーフ。龍の世界の住人との間の子が、龍人。海の世界の住人との間の子が、人魚や海人。天使の世界の住人との間の子が、天族」

「つまり、この世界の亜人たちは、みんな二千年前に生まれたんだ……」

「はい。そして、これらの種族は総称して『亜人』と呼ばれています」

 エレンが頷いた。

「純粋な人族ではないけれど、人族の血を引く者たち、という意味です」


「そして、亜人たちが誕生してしばらくした後……」

 エレンの表情が曇る。

「突然、スキル『魔王』、スキル『勇者』、スキル『聖女』を持つ者が現れたのです」

「突然?」

「はい。なぜこれらのスキルが生まれたのか、今でも分かっていません」

 エレンは首を横に振った。

「女神アイシア様も、精霊王様も、これらのスキルを作った覚えはないとおっしゃっています」

「じゃあ、誰が……」

「分かりません。まるで、世界そのものが生み出したかのように、突然現れたのです」

 不気味だ。

 支配者階級スキルには謎が多い

「そして、これらのスキルは、他の支配者階級スキルとは異なる特徴を持っています」


「まず、スキル『魔王』の効果ですが」

 エレンが指を立てた。

「スキル『勇者』を持つ者に対して、特効があります。勇者との戦闘において、攻撃力と防御力が大幅に上昇するのです」

「勇者特効……」

「しかし、その代償として、純粋な人族から忌み嫌われるようになります」

「純粋な人族?」

「はい。亜人ではない、元々この世界にいた人間たちです」

 エレンは説明を続ける。

「亜人や、人族ではない吸血鬼には、この効果はありません。ただ純粋な人族だけが、魔王を無条件で嫌悪するのです」

「それって……」

「理由もなく。ただスキルを持っているというだけで、嫌われるのです」

 エレンは悲しそうに目を伏せた。

「そのため、魔王とその一族である魔族たちは、純粋な人族が多く住む中央大陸では暮らせません」

 エレンが部屋の壁に、地図を浮かび上がらせた。

 古びた羊皮紙のような地図。そこには、大きく分けて三つの陸地が描かれている。

「これが人の世界の地図です」


挿絵(By みてみん)


 エレンが説明する。

「上部の大きな大陸が『中央大陸』。私たちが今いる神聖国は、この大陸の北西部にあります」

 左上に、小さな城の絵が描かれている。それが神聖国だ。

「中央大陸には、純粋な人族が多く住んでいます。そして、亜人たちも共存しています」

「そして、左下の大陸が『南の大陸』。魔族たちが住む土地です」

 確かに、南の大陸は中央大陸と同じくらい大きい。

「魔族たちは、スキル『魔王』の効果により、純粋な人族と共存できません。だから、南の大陸に移住したのです」

「移住……」

 追いやられた、というより、自ら選んだ道なのかもしれない。


「次に、スキル『勇者』です」

 エレンが続ける。

「これは、スキル『魔王』に対して特効があり、魔王との戦闘において攻撃力と防御力が上昇します」

「魔王特効……」

「しかし、その代償として、魔族から忌み嫌われます」

「魔族だけ?」

「はい。獣人や、エルフや、龍人などには効果がありません。悪魔の世界の住人と人族の間に生まれた魔族だけが、勇者を嫌悪するのです」

 なるほど。魔王と対になっているんだ。

「そのため、勇者は神聖国で保護されています。魔族の多い南の大陸には、決して行けません」


「そして最後に、スキル『聖女』です」

「聖女は……どんな効果?」

「とても強力な治癒能力が使えます。どんな傷も、どんな病気も治せるほどの力です」

「それはすごい……」

「でも、その代償は非常に重い」

 エレンが真剣な目で私を見た。

「聖女は、自分が生まれた国から外に出ると、大幅に弱体化します」

「弱体化?」

「はい。身体能力が著しく低下し、治癒能力も弱まります。魔力も減少し、場合によっては立っているのもやっとという状態になります」

 エレンは続ける。

「国境を越えれば越えるほど、その効果は強くなります。隣国程度なら何とか動けますが、遠く離れた土地に行けば、ほとんど無力になってしまうのです」

「それって……」

「事実上、自分の国から出られないということです」

 エレンは悲しそうに目を伏せた。

「強制的に国に縛り付けられる。それがスキル『聖女』のリスクなのです」

「そんな……」

 あまりにも重すぎるリスクだ。

 どんなに強力な治癒能力があっても、国から出られないなら、世界中の人々を救うことはできない。

「だから、聖女も神聖国で保護されています。外に出ることは、ほとんど許されません」

「許されない……」

「正確には、出ることはできます。でも、出れば弱体化してしまう。だから、事実上、神聖国に留まるしかないのです」


「そして、これらのスキルには大きな問題があります」

 サキが口を開いた。

「スキル『勇者』や『聖女』を持つ者が、誰にもスキルを引き継がずに死んでしまうと……」

「スキルは、世界中の誰かに勝手に渡ってしまいます」

 ミレイユが続ける。

「支配者階級スキルは、自らにふさわしいと思う者を選び、宿るのです」

「もし、一般市民にこれらのスキルが宿ってしまったら……」

 サキが深刻な表情になった。

「聖女なら、国から出られず、一生幽閉されるような生活を強いられます。勇者なら、魔族と戦うことを運命づけられ、常に命の危険に晒されます」

「それを防ぐため、神聖国は定期的に試験を行っています」

 ミレイユが説明する。

「スキル『勇者』や『聖女』を持つにふさわしいと思われる希望者を選び、計画的に継承しているのです」

「なるほど……」

 システムとしては合理的だ。でも、選ばれた人たちは、重い運命を背負わされることになる。


「それと、もう一つ」

 ミレイユが付け加えた。

「吸血鬼は、スキル『魔王』の効果を受けません」

「受けない?」

「ええ。私たちは人族ではありませんから。魔王を忌み嫌う感情が湧かないのです」

 ミレイユが微笑む。

「同様に、亜人たちもスキル『魔王』の効果を受けません。獣人も、エルフも、龍人も、みんな魔王と普通に接することができます」

「じゃあ、魔王を嫌うのは……」

「純粋な人族だけです」

 エレンが頷いた。

「そして、その純粋な人族が多く住んでいるのが、中央大陸。特に神聖国周辺です」

「だから、魔族は南の大陸に……」

「はい。そして、私たち吸血鬼は、南の大陸と中央大陸の橋渡しをしています」

 ミレイユが地図を指差す。

「定期的に南の大陸に行き、魔族に食料を援助しています。魔族たちも、南の大陸だけでは食料が不足することがありますから」

「そんなことを……」

「二千年前、私が亜人の誕生を手伝ってから、魔族とは良い関係を保っています」

 ミレイユが優しく微笑む。

「魔族は、悪魔の世界の住人と人族の間に生まれた子供たち。ある意味、私が生み出した種族でもあるのです」

「だから、責任を感じてるんだね」

「ええ。せめて、彼らが安心して暮らせるよう、サポートしたいと思っています」


「つまり……」

 私は整理するように言った。

「魔王は、別に悪い人じゃないってこと?」

「はい」

 エレンが頷いた。

「魔王は、ただスキルを持っているというだけで、純粋な人族から嫌われています」

「でも、魔族を守るために、魔王として振る舞っている」

 ミレイユが続ける。

「現在の魔王は……とても立派な方よ。私も何度かお会いしたことがあるけれど」

 ミレイユは少し寂しそうに微笑んだ。

「スキルに振り回されているだけの、被害者なのです」

「被害者……」

 胸が痛む。

 私は、アキに「魔王らしく振る舞って」と頼んだ。

 でも、本物の魔王は、望んでその立場にいるわけじゃない。ただスキルを持って生まれただけで、人生を縛られている。

「なぜ、こんなスキルが生まれたんだろう」

 私は呟いた。

「分かりません」

 エレンが首を横に振った。

「女神様も、精霊王様も、理由を知りません。まるで、世界が意図的に対立を生み出そうとしているかのように……」

「世界が……」

 不気味な話だ。

 でも、もしかしたら、何か理由があるのかもしれない。

「何とか……救えないかな」

 私は呟いた。

「救う?」

 ミレイユが驚いたような顔をする。

「うん。だって、魔王が悪いわけじゃないんでしょ? ただスキルのせいで苦しんでるだけなら、何とかしたい」

「お姉様……」

 ミレイユの目が、潤んだように見えた。

「でも、どうやって?」

「分からない。でも、まずは会ってみないと」

 私は決意した。

「南の大陸に行って、魔王に会いたい」


「南の大陸に?」

 サキが少し驚いたような顔をした。

「はい。魔王がどんな人なのか、どんな状況なのか、実際に会って確かめたいんです」

「それは……」

 サキが少し考えるような表情をした。

「危険ではないと思いますが……お姉様が行かれるなら、魔王様もお喜びになるでしょう」

「喜ぶ?」

「ええ。魔王様は、中央大陸との関係改善を長年望んでおられます」

 サキが説明する。

「お姉様が管理者として訪問されれば、それは大きな意味を持ちます」

「確かに……お姉様なら、大丈夫ですね」

 ミレイユが微笑んだ。

「では、私も同行します」

「ありがとう、ミレイユ」

「私もです!」

 エレンが元気よく手を上げた。

「サラさんのサポート役ですから!」

「エレンも、ありがとう」

 こうして、私たちの新たな旅が決まった。

 南の大陸へ。

 魔王に会いに。

 そして――この世界の歪みを、少しでも正すために。

「それでは、準備を整えましょう」

 ミレイユが立ち上がった。

「南の大陸への転移には、少し時間がかかります。それに、魔王様にも事前に連絡を入れた方が良いでしょう」

「分かりました」

 私も立ち上がる。

 地図を見つめる。

 中央大陸から、南の大陸へ。

 そこには、どんな世界が待っているのだろう。

 どんな魔王が、どんな魔族たちが暮らしているのだろう。

「楽しみだね」

 小さく呟いた。

 不安もある。でも、それ以上に期待が大きい。

 新たな出会い。

 新たな発見。

 そして――新たな、解決すべき問題。

 管理者として、この世界を良くしていきたい。

 そう強く思いながら、私は次の一歩を踏み出す準備を始めた。

とりあえず区切りの良いところまで投稿しました。

次話は大分先になりますので楽しみにお待ち頂けたら幸いです。

面白いと感じましたら、ブクマ、評価、コメント等をよろしくお願いします。

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