夜間の危機
女の子の手からは長く鋭い爪が生える。
危険を察したエルンとリリンは、即座に立ち上がる。
「ふふふ......。おいしそうな食事がたくさん......」
「ライトさん! 起きてください!」
「そんなことしていいの? 起こしちゃうなら、殺しちゃうよ?」
女の子は即座にライトの首に爪を当てる。
少しでも動かしたら、ライトは死んでしまうだろう。
「貴方たちの戦いを見たりお話を聞いて、ある程度特徴がわかったの。予想だけど、エルンはライトが居ないと戦えないんでしょ? だから、自発的に戦わずに、ライトの指示を受けて、魔法でエルンは動いてた。違う?」
「くっ......! リリンさん。どうしますか......!?」
危機的状況に、リリンに助けを求めるエルン。
「......リリンさん?」
こんな状況なのにも関わらず、リリンの表情は先ほど火を囲っていた頃から変わらなかった。
「そろそろ......かな......」
「そ、そろそろってなんですか!?」
「まぁ、見てなって......」
リリンがそう言った直後、女の子が突然膝を地面に着いた。
「な、なに......?」
女の子が目を閉じそうになりながら、リリンを睨む。
「な、何をしたんですか! リリンさん!」
「私はあの子が怪しいと思って、あの子の干し肉にだけ睡眠薬を混ぜたんだよ。さっき危ないかもって言って交換してわざわざ私が分けたのも、睡眠薬を入れるため。どうせ君たちに相談したところで、そんなことやめろと言ってくるだろうし......」
「な、なんで私が怪しいってわかったの......!?」
今にも倒れそうになりながら、リリンに聞く。
しかし、リリンが返答する前に、女の子は眠気に負け、倒れてしまった。
リリンは女の子に歩み寄る。
「私はね。この子が道がわからないって言った時、怪しいと思ったんだ。だって、村から別の場所へ逃げたのにその道のりが分からなくて、その逆が分かるなんておかしいと思わない?」
「言われてみれば......!」
「だから、ライト君が眠ってる時に悪さをしないように睡眠薬を混ぜておいたんだけど......」
リリンはリュックサックからロープを取り出し、女の子を縛りあげていく。
「その子はどうするんですか......?」
「とりあえず縛り上げておこうか。ついでに口も塞いでおこう。仲間でも呼ばれたらたまったもんじゃないし」
女の子をきつく締めあげ、口に布を詰め込んで塞いだリリンは、エルンの隣へ戻り、腰を下ろす。
そして、エルンの羽を一枚だけ掴み、思い切り引っ張る。
「いたぁ!」
羽が抜けた瞬間、大声で叫ぶエルン。
「な、何するんですか!?」
羽が抜けた部分を手で撫でつつ、リリンに問う。
「睡眠薬で眠らせて、みんなを守った手柄の対価として貰っておくね。この羽は錬金術に使わしてもらうよ」
そう言いながら、リリンは羽をポケットにしまった。
「そうだ。エルンちゃんはあの女の子の上に座っててよ。突然起きて、縄抜けされたら大変だし。上に乗ってれば起きた時に動くから気が付きやすいでしょ?」
「はーい......」
羽を抜かれ、露骨に落ち込んでいるエルンは、渋々女の子に腰を下ろした。
そして、エルンとリリンは二人で雑談をしつつ、一夜を明かした。
「うーん......。もう朝かぁ......」
葉の間から差し込む日の光が顔に当たり、俺は目を覚ました。
目をこすり、大きな欠伸をする。
土の上に直接寝たので、腰が少し痛い。
「おはようリリン......。エルン......。......って、何してんだ!」
目の前では、縛り上げられた女の子の上に、エルンが座っていた。
衝撃的な光景を見て、俺の目は一気に覚めた。
「あ、ライトさん! おはようございます!」
「おはようございますって......! 徹夜しておかしくなったのか!?」
俺はエルンの下の女の子を指差す。
「あ......。誤解です! 誤解! これには理由があって......!」
俺は慌てているエルンから夜間の出来事を聞いた。
「なるほどな......」
エルンから話を聞き、状況に納得がいく。
「で、この子はどうするんだ?」
「起きたら何か情報を持っていないか尋問しようと思う。もしかしたら、村を襲ったやつの情報を持っているかもしれないし」
「わかった。じゃあ、朝食を取りつつこの子が起きるのを待つか」
俺がそう言うと、リリンはリュックサックから魚の干物を取り出した。
俺とエルンは魚を受け取る。
魚を食べつつ、俺は女の子の見張りを、エルンとリリンは周辺の見張りをすることにした。