代わりの食事
「リリン。そのー......。何か錬金術の材料は無いか?」
これ以上傷付けないように、遠回しに何か食べれそうな物を持っていないか聞く。
「あるけど......。何に使うの......?」
「いや、少しだけ錬金術に興味があってさ。どんな材料でどんな物を作れるのかなーって......」
勿論、これはリリンを傷つけないための嘘だ。
リリンはリュックサックを漁り、色々な物を取り出し始める。
「えーっとね......。私は動植物の素材を使った錬金術が得意なんだけど。そういうのってすぐにダメになるから、長期保存できる物しか持ってこなかったんだよね。例えば、木の実とか干し肉とか魚の干物とか......」
そう言って、小さな麻の袋で小分けにされた素材をどんどん出していく。
「って、食べ物あるじゃないですかー!」
エルンが素材を指差しながらリリンに言う。
「む......! さっきの栄養食を食べ物じゃないみたいな言い方して......!」
「エルン、一旦落ち着いて......。リリン、お願いなんだけど、これらを少し分けてくれないか?」
「錬金術に興味があるってことは、試してみたいの? でも、錬金術ってそんなすぐにできるもんじゃないよ?」
「そ、そうだけど......」
「......ま、いいよ。あげる」
リリンは少し考えてから、俺に袋を差し出した。
「ほ、本当か! ありがとう!」
俺はリリンに感謝し、素材を頂いた。
「......どうせライトくんも私の食事は食べれないとか、そういう感じでしょ? だから、錬金術に興味があるなんて嘘ついて......」
「うっ......!」
上手く誤魔化せたと思ってたが、バレていた。
「ふーんだ。どうせ私はロクに料理ができないダメ女ですよーだ」
リリンは不貞腐れ、そっぽを向いてしまった。
「す、すまん......。お詫びに錬金術の手伝いとかするから、許してくれ......」
すると、リリンはまた少し考え始めた。
「じゃあさ。今度、料理教えてよ」
「料理?」
「うん。ボロクソに言われっぱなしで悔しいからさ......」
リリンは、エルンのことを睨む。
睨まれたエルンは、少し落ち込んでしまった。
「俺もあまり得意ではないけど......。基本的なことなら教えられると思う。それで良ければ......」
「......まぁ、それだけでもありがたいよ。誰かさんからしたら、私の食事は食べ物ですらないらしいからね」
「......本当に申し訳ない」
「ごめんなさい.......」
俺とエルンは心の底から謝った。
俺は受け取った干し肉をエルンと女の子に分けようとした。
「あ、ちょっと待って......。さっき渡したやつ、作ってからしばらく経った奴だから、ちょっと危ないかも。別のを用意するね」
リリンがそう言うと、リュックサックから別の袋を取り出した。
そして、空の袋を三枚取り出し、干し肉を分けていく。
「はい」
リリンは俺に袋を三つ手渡した。
「ありがとう」
俺は受け取った袋を、エルンと女の子に渡した。
「ありがとう......!」
「ごめんな。俺たちも食事に困ってて、多くは食べさせてやれないけど......」
女の子は干し肉を嬉しそうに頬張った。
俺も干し肉を一口食べる。
食事用ではなく素材用なので、味付けは特にされていなかった。
だが、それでも先ほどの黒い塊を食べるよりは全然良かった。
「味は素朴ですけど、やっぱりお肉はいいですねー」
エルンも満足そうに干し肉を頬張っている。
「......ふんっ」
その隣で、リリンはエルンを睨みつけながら、自作の栄養食を食べている。
干し肉は三人で分けたので、一人の量は多くなかった。
そのため、数口食べるとあっという間に食べ終えてしまった。
食事を終えた俺は、早めに寝ることにした。
「寝るの? だったら、私のリュックサックを枕にしていいよ。女の子と一緒に枕にして休みなよ」
「いいのか? ありがとう」
俺はリリンのリュックサックを借り、枕にして寝ることにした。
今日は色々な出来事があり、疲れていた。
そのため、数分ほど目を閉じていると、いつの間にか意識を失っていた。
「......寝ちゃいましたね」
「そうだね......」
「そうだ。火、付けませんか? 暗くなって少し冷えてきましたし、暗闇から襲われる可能性もありますし......」
「うん。付けよっか」
リリンはライトが枕にしているリュックサックのポケットから火打石と金属、藁を取り出した。
エルンはそこら辺の木の枝を拾い集めた。
リリンは手慣れた手つきで火打石を金属で叩くと火花が藁に移り、火が付いた。
「リリンさんってこういうことになれてるんですか?」
「まぁ、素材集めとかで遠出することがあるからね......」
火を眺めながら、エルンとリリンが話している。
その隣で、女の子も同じように火を眺めている。
「君も寝ていいんだよ?」
「ううん。私はいいの。だって......」
女の子はそう言うと、突然立ち上がった。
「これから楽しい食事の時間なんだから......!」