もう決めちまった
ロイはファウナに襲いかかった。
「があああぁぁ!」
勢いよくファウナの肩に噛み付いた。ロイの八重歯がファウナに突き刺さる。
「助けてくれてありがとう、ロイ。もう、いいんだよ」
ファウナの細い腕が、ロイを包みこむ。ファウナの手から淡い光がこぼれる。暴走したロイの体に魔力が染み込んでいく。次第に体の紋様と角が消えた。
「俺は……何を……?」
「よかった、目が覚めたんですね」
ファウナの肩の傷を見たロイ。自分がやったのだと認識した瞬間、動悸が激しくなった。
「はぁ、はぁ、はぁ、また、俺は傷つけた……はぁ、はぁ、俺は、俺は……!」
「大丈夫ですよ、これくらい。すぐに治りますから」
優しさの溢れる笑顔でファウナはそう言った。
「ごめん……ファウナ」
「気にしなくていいですよ、私がロイ君に頼んだんですから。こちらこそ、ありがとう、ロイ君。命を助けてくれて」
「…………」
一寸沈黙が流れ、ロイが声をかける。
「さっきの奴らは、一体なんなんだ?ファウナ」
「そうですね、私が何故追われていたのか、説明してあげないといけませんね。ロイ君、今から私が話す内容を聞いて、私から離れたいと思ったら、迷わずそうして下さいね。遠慮はいりません。私はそういう存在ですから……ですが……少し、ほんの少しでも私の力になりたいと言ってくれるのならば……」
「なあ、さっきから言ってる事がちんぷんかんぷんでよく分からないんだが……」
「ごめんなさい。まず、見てもらった方が早いですね。私たちが逃げてきた道を振り返ってみてください」
そう言われてロイは自分たちが来た道を振り返る。
眼前に広がっていたのは、砂漠だった。
「おい、嘘だろ……」
見渡す限り荒れ果てた土地が広がっていた。草木が茂っていた山も木も、全て枯れ果てていた。
「これは一体どういう……」
荒れ果てた土地を見つめながら、ロイが質問する。
「太陽の欠片は本来、調和の象徴です。でも、四つの欠片が失われている今、私の中にある欠片は不完全なエネルギー源になっています。その不安定な力が、太陽の力だけを暴走させてしまい、水分を蒸発させ、大地を乾かし、周囲を砂漠化してしまうのです」
「この砂漠化は止まるのか?」
「いいえ、私が移動すればする程砂漠化は進行してしまいます。ですが、太陽の欠片を五つ集めれば、エネルギーは調和し、砂漠化は止まり、世界は安定します」
「そうか……」
ロイは暗くそう呟いた。
「やっぱり……ダメ、ですよね。はい、分かっていました。だって、私の力になるということは……世界から狙われる事と同義ですから……さっきみたいな人たちから四六時中狙われる事になる……それにロイ君も命が枯死するところなんて、見たくないでしょう。リスクが大き過ぎる。ロイ君が私の力になる理由なんてないのに……私が間違っていました。力になって欲しい、なんて言葉は撤回です、だから……」
その言葉に被せるようにロイが言う。
「なにバカな事言ってんだ、ファウナ」
「え?」
「そんな事言われて、逃げだす俺だと思ってんのか?俺の本心わかんだろ?」
「でも、でも……」
「はーいはい、もう何言っても俺は聞く耳持たねぇぜ。俺はもう決めちまったからな。ファウナ、お前と生きる事を」
「私、ロイ君に何もしてないのに……どうして……?」
「ファウナは、あの時、俺を抱きしめてくれた時、俺を救ってくれたんだよ。停滞して、どんよりと曇って、暗く閉ざされた俺の心を、ファウナが優しく引っ張り上げて、救ってくれたんだ。それがファウナにとって、取るに足らない、本当に些細な事だったとしても、俺にとっては命の恩人なんだ。それに、あんな事をしても、何もしてないなんて……。そんな優しい人、俺は絶対に見捨てられないね。だからファウナ、俺を頼れよ、俺を信じろよ、ファウナ」
「でも、きっと耐えられなくなる。絶対にロイ君の重荷になる……!」
「そん時はそん時だ!一人で歩ける道じゃねぇんだろ?だったら二人であるきゃあ良い。今までは一人で、頼れる人もいなくて、すごく心細かったかもしれない。だけど、これからは違う。俺がいる。俺が隣を歩く。俺はファウナと一緒がいいな」
ファウナの両手をとって、清々しい笑顔で、心の底から、ロイはそう答えた。
「ロイ君……。ありがとう……ございます……」
「泣くなって、命の恩人への恩返し、これくらい小さいもんだ。これから大変な毎日になるだろうけど、一緒に頑張ろう、頑張って生きていこう」
「はい……、ロイ君」