海野 大洋②
大洋視点です。
「父さん! 少し頭を冷やせよ!」
俺は風呂場から出て家を立ち去ろうとする父さんを必死に呼び止めた。
でも父さんは俺の声にも母さんの声にも反応せず、俺は強引に父さんの腕を掴んだ。
「うっ!」
ところが父さんは……俺の腕を乱暴に振り払い、そのせいで俺は壁に頭を強打した。
しかも父さんは俺の身を案じようともせず、背中を向けたまま家を出ていってしまった。
俺はショックだった……。
初めて父さんに暴力を受け、しかも頭を打ったというのに心配すらしない……。
父さんがこれほど冷酷な人間だったなんて……俺は父さんに幻滅した。
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後日……祖父母達が家を訪ねてきた。
続いて父さんが弁護士を連れて帰ってきた。
玄関で出迎えても、父さんは俺達を完全に無視してきた。
「これを見てください」
父さんはあの時風呂場で撮った動画をその場で公開しやがった。
俺と母さんは動画を止めるように訴えたが……父さんは聞き入れてくれなかった。
そして一通り動画を見た祖父母達は、信じられないと言わんばかりに顔を硬直させてしまった。
みんなにこんな動画を流してさらし者にするなんて……いくら家族でもやっていいことと悪いことがある!!
俺は今まで感じたことのない怒りを父さんに向けた。
「お父さんに頭を下げろ!」
「なっなにするんだよ!」
父さん側の祖父母が俺の頭を押さえて土下座を強制させ、謝罪を要求してきた。
母さんも実の父親に俺と同じ態勢を強制させられている。
どうして俺達が謝らないといけないんだ?
俺は母さんと体を重ねただけ……今一番悪いのは実の妻と息子をさらし者にし、無慈悲に家族をぶち壊そうとしている父さんだろ?
みんな認知症でも始まったのか?
「養育費は毎月払う……大洋を頼む」
それから弁護士を交えて離婚話が進み……父さんは俺と母さんを捨てて家を出ることになった。
そのことに反対する者は……俺と母さん以外に誰もいなかった。
話し合いの中で、父さんが離婚を決意した最たる理由は俺と母さんが体を重ねていたことだということは理解した。
でも納得はできなかった……。
実の親子が体を重ねたくらいのことで……どうして離婚なんて話になるんだよ。
まさか俺が母さんを寝取ったとでも思っているのか?
馬鹿げてる……。
俺は母さんに体を提供してもらっただけで、異性としての感情なんてものは一切ない。
ヤリたいなら父さんも母さんとヤればいいだけじゃないか……。
いつから父さんはそんな器の小さな男になってしまったんだよ……。
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話がまとまり……母さんと俺以外の人間が家を出て行ってしまった。
父さんはしばらくホテルに泊まり、後日荷物をまとめて田舎にある実家に帰るらしい。
結局……俺達の気持ちが父さんに通じることはなかった。
一体なんでだよ……。
あぁ……むしゃくしゃする!!
そう思っていると、ちょうどアオカちゃんの新しい動画が流れてきた。
今回の動画は、ドルフィンガールズの新しい衣装のお披露目だった。
露出こそ少ないが、アオカちゃんの生の素肌がちらほら見えるのは俺から見ればセクシーに見えた。
「やべぇ……ヤリたくなってきた」
アオカちゃんの新衣装に反応し、俺の下半身が膨張した。
ちょうど父さんのことでむしゃくしゃしていたところだし……母さんに相手をしてもらおう。
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「母さん……」
俺は寝室で落ち込んでいる母さんを背中越しに抱きしめた。
「大洋……ごめんね? こんなことになってしまって……」
「気にしないで……もう過ぎたことは仕方ないよ。
俺は母さんと一緒に生きていくから……。
2人で頑張ろうよ……ね?」
「大洋……」
将来の不安に押しつぶされそうな母さんに俺は慰めの言葉を掛けて元気づけた。
普通にヤラせてと空気を読まずに頼んだら、たぶん母さんは気を悪くしてヤラせてくれないだろうから。
今の俺にとって優先すべきなのは、今にも爆発しそうな性欲を発散することだけ……。
父さんがいなくなるとはいえ、養育費がもらえるんだから……そこまで生活が苦しくこともないだろう?
母さんはパートしてるし、俺だってバイトしてるんだから……問題なんてないさ。
「愛してる……大洋……」
「母さん……」
俺達はそのまま寝室で母さんと体を重ねた。
ここは夫婦の寝室ということもあるので、父さんへの背徳感も相まっていつもより興奮できた。
母さんも興奮して、気が高ぶっているんだろう……愛してるなんて恋人みたいなことを言い出すし……。
まあその愛のささやきをアオカちゃんの声に脳内変換することで、さらなる興奮剤になった。
母さんはやっぱり最高だ……最高の体だよ。
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「それじゃあ元気で……さようなら……」
そして……会社を退職した父さんが家の荷物をまとめて実家に帰る日がやってきた。
別れの言葉を告げる父さんに対し、俺は無言を貫いた。
くだらない理由で俺と母さんを捨てるような最低男なんて、もう父親とも思わない。
いや……俺達の心がどれだけ傷ついているのか想像すらできない男に父親を名乗る資格なんてもうない。
これからは母さんと一緒に生きていく……。
父さんと血が繋がっている俺は、定期的に父さんと面会できる機会が与えられる。
でもそれは……俺自身が拒否している限り、実現することはない。
俺は父さんと会う気はもうないからな……せいぜい養育費だけを支払って、貧乏くさい田舎で野垂れ死ねばいいさ。
”2度と俺達の前に顔を見せるな、クズ野郎!”
俺は去っていく父さんを見送りながら心の中で罵声を浴びせてやった。
次話は潮太郎視点です。
ようやく話を進めることができます。