海野 瑞希③
瑞希視点です。
「あなたお願い! 冷静になってよ! 今までずっと3人仲良くやってきたじゃない!」
潮太郎に離婚を突き付けられた私は泣きながら彼にすがりついた。
だって……私も大洋も彼のことも愛しているんだもの……。
それは潮太郎だって同じはず……なのになんで、離婚なんて話になるの?
訳がわからない!!
「だったら自分の立場になって考えてみろ。 俺達に高校生の娘がいたとしよう……俺が娘と風呂場で体を重ねている現場を目撃したら……お前、それからも今まで通り家族として俺と過ごせるのか?」
潮太郎のたとえ話に私は、一瞬妄想を膨らませた。
はっきり言って、吐き気を催しそうだった。
仮の話とはいえ……いい歳をした男が高校生の女の子と体を重ねるなんて……ましてそれが血の繋がった親子であるとすれば、それは思考回路が狂った人間以下のケダモノとしか思えない。
でもそんなことを言ったら、潮太郎は離婚の意思をますます固めてしまう。
えっ? だったらお前達もケダモノだろうって?
ちっ違う!!
私と大洋はケダモノなんかじゃない!!
私達は純粋に親子として愛を深めただけ……ただただ快楽を貪るだけの連中と一緒にしないで!
「……でっできるわよ!」
「あっそ……俺は無理だ」
偽った回答を述べてみたけど……潮太郎は見透かしたような顔ですがりつく私の腕を払い、風呂場から立ち去って行った。
「待って! 待って、あなた!」
「父さん! 少し頭を冷やせよ!」
私達は家を出ようとする潮太郎を必死に止めようとした……。
このまま彼を家から出してしまったら……もう2度と家族には戻れない……そう思ったから。
でも潮太郎は……私達の言葉に耳を傾けようとせず……それどころか、止めようとした大洋の手を 振り払い……大洋は頭を壁に強打してしまった。
しかもそんな目にあった大洋には目もくれず、潮太郎は家を出て行ってしまった。
我が子に暴力を振るっておいて……心配もしないなんて……。
いくらなんでも心が冷たすぎる!!
私はそれから何度も潮太郎にラインや電話を入れるも、返答が来ることはなかった。
※※※
「母さん……大丈夫。 俺がついてるから……」
「大洋……」
潮太郎が出ていき、孤独に押しつぶされそうな私を……大洋が抱きしめてくれた。
温かい……心地よい……。
かつては、この手で大洋を愛情一杯に温めていた私が……今、大洋の手で寂しい心にぬくもりを分けてくれる。
もっとこのぬくもりに包まれたい…ぬくもりに飢えた私は悲しい現実を忘れるように、互いの体を貪った。
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数日後……突然、私と潮太郎の両親が我が家を訪ねてきた。
みんな潮太郎に呼ばれて集まったらしく……間もなく潮太郎も弁護士を連れて家に戻ってきた。
「あなた! 今までどこにいたの!? ずっと探していたのよ!?」
「なぁ父さん。 なんでおじいちゃん達がここに来てるんだよ?」
大洋と共に潮太郎に駆け寄るも……彼は私達が認識できていないかのように無視を決め込んだ。
そして……両親達に離婚する旨を告げた。
しかもその理由が……私と大洋の不貞行為だという。
両親達は潮太郎の訳の分からない説明が当然の如く、理解できないでいた……。
しかし……潮太郎が撮った風呂場で私と大洋が行為中の動画を両親達に見せたことで、この場の空気は一変した。
お母さんは吐き気を催してトイレに駆け込み……お父さんと義両親は私と大洋に詳細な説明を要求してきた。
私達は3人の気迫に負け……動画に映し出されたことが事実であることを認めた。
でも私は信じていた……きちんと話せばわかってくれる……。
私も大洋も誰も裏切っていないと……離婚なんて馬鹿げたことを主張する潮太郎を一緒に説得してくれると……。
なのに……。
「なっ何をするのよ!?」
「黙れ、この恥知らず!!」
父は私に平手打ちをして、必死に潮太郎に頭を下げ……義両親も大洋に土下座を強要させていた。
最初こそ戸惑ってしまったけど……父は潮太郎に私との再構築を提案してくれた。
「娘がやったことは人としても母親としても最低だ……言い訳のしようもない……。
だがどうか……許してほしい。 瑞希は私達が責任を持って更生させる!
今回の要因とは言え、大洋はまだ高校生だ……どうか、家族を続けてはくれないだろうか?」
やっぱり血の繋がった親子……わかってくれたのね。
「すみません……お義父さん。 俺にはもう……2人を幸せにする自信はありません」
潮太郎にそう言われると……父はあっさりと引き下がった。
どうして!?
どうしてそんな簡単に諦めるのよ!!
娘の家庭が崩壊しようとしているのよ!?
※※※
それから離婚についての話が本格的に始まった……。
慰謝料は財産分与と相殺ということになり……大洋の親権は私が持つことになり、養育費も払われることになった。
でも私はお金のことなんてどうだっていい!!
私は……潮太郎と別れたくない!
「あなた……どうしてもだめなの? 私達ずっと一緒だったじゃない……大洋と3人で……幸せに暮らしてきたじゃない……それなのに……”こんなこと”で終わると言うの?」
「お前にとっては”こんなこと”でも……俺にとってはそうじゃないんだよ」
涙ながらにそう訴えても……もはや潮太郎の反応は素っ気ないものとなっていた。
もう何を言っても……離婚の意思は変わらないの?
「瑞希、いい加減にしろ!」
「潔く離婚を受け入れて、最低限の誠意は見せなさい」
私の両親も私の味方してくれない……。
大洋も義両親が邪魔をして発言すら許されない状況だった。
なんで?……どうしてこんなことになったの?
両親も義両親も……結婚式の時は涙を流して祝福してくれたじゃない……。
いつまでも2人で幸せになりなさいって……お父さんは優しい言葉をたくさん掛けてくれたじゃない……。
大洋が生まれた時だって……何かあったら遠慮なく頼りなさいって……お母さん、言ってくれたじゃない……。
義両親だって……いつも私達のことを気遣ってくれたじゃない……。
それなのにどうして……家族がバラバラになるこんな重大な時に……何もしてくれないの?
家族はこの世の何よりも大切なものじゃないの!?
※※※
結局……離婚という運命は避けられなかった……。
その日のうちに私の両親も義両親も帰っていった。
潮太郎はしばらくホテルに泊まり、家から荷物をまとめた後に実家へと帰る手筈となっている。
”どうしてこんなことになったの?”
何度同じ問答を自分にしただろう……。
当然、回答なんて出てこない。
大洋と体を重ねたから?……だから離婚することになったの?
でも相手は実の息子よ?
母親が息子と体を重ねることがどうして不貞行為なんてことになるの?
息子が性欲で苦しんでいると聞けば、自分の体を明け渡しても救うのが母親の務めでしょう?
もしも私が大洋の相手をしなかったら……きっと大洋は犯罪に手を染めていたわ。
そのことももちろん、潮太郎や両親に訴えたけど……誰1人として賛同してくれなかった。
『じゃあ何? 大洋が犯罪者になればよかったっていうの? それがあなたの望みなの?』
『そういうことじゃない……本当にお前は何もわかっていないな』
その時の潮太郎の目は……とても哀れみを帯びていた。
両親も義両親も私と目を合わせてもくれなかった。
一体私が……何をわかっていないっていうのよ……。
誰か……誰か教えてよ……。
※※※
「母さん……」
離婚が成立した日の夜……寝室で声を殺しながら泣いていた私に大洋が優しく寄り添ってくれた。
「大洋……ごめんね? こんなことになってしまって……」
「気にしないで……もう過ぎたことは仕方ないよ。
俺は母さんと一緒に生きていくから……。
2人で頑張ろうよ……ね?」
「大洋……」
大洋がそっと私を抱きしめてくれた……。
無慈悲に離婚を突き付けられ。悲しみと不安に打ちのめされた私の心を……大洋のぬくもりと優しさが救ってくれた。
もう私には……大洋しかいないんだ……。
大洋だけが……私の生きがいだ……。
「愛してる……大洋……」
「母さん……」
私達は唇を重ねた……。
それは親子のスキンシップではなく……1人の男と1人の女の甘い愛のキスだった。
そして……大洋に流されるがままに……その場で体を重ねた。
この寝室にある潮太郎のぬくもりを上書きするかのように……激しく快楽に身を落とした。
私の壊れかけた心を……大洋が繋ぎとめてくれたんだ。
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「それじゃあ元気で……さようなら……」
「ごめんなさいあなた……さようなら……」
会社を退職し、荷物をまとめた潮太郎が我が家を……住み慣れた町を去る日がやってきた。
私は潮太郎に別れを告げ、大洋と共に笑顔で見送った。
寂しい気持ちはあるけれど……大洋の言う通り、過ぎてしまったことはしかたない。
潮太郎が離婚を突き付けてきた訳は全く理解できないけれど……離婚した事実はもう覆らない。
もう……家族3人には戻れないんだ……。
寂しいけれど……私は新たな愛に目覚めることができた。
私は母として……1人の女として……大洋を心から愛している。
血の繋がった大洋とは法的に結婚することはできないけれど……どうでもいい!
私達は心が繋がっている……。
さよなら……潮太郎……今までありがとう。
これからは大洋と2人で……幸せに生きていきます!
次話は大洋視点です。
何度も同じ話をするのもなんなので、最初はできる限り省きたいと思います。