広田 蒼歌【完】
蒼歌視点です。
これにてこの物語は終わりにします。
その日……あたしはしおくんの実家でバイトしていた。
いつも通りの光景……いつも通りのにぎやかさ……。
この日もいつも通り過ぎ去っていく……そう思っていた。
「「「うわぁぁぁぁ!!」」」
それが突然……地獄絵図と変貌した。
お店にいきなり浜口大洋が現れ、刃物でおばさんのお腹を刺した。
床にはおびただしい量の血が溜まり……おいしい料理の匂いに包まれたこの空間を血の臭いが上書きしてしまった。
あたしは目の前で何が起きたのか理解できず、その場で立ち尽くすことしかできなかった。
「大洋ぉぉぉ!!」
お客さん達が阿鼻叫喚する中……しおくんは鯛地さんやみんなと大洋を取り押さえ、お客さんの中の誰かが救急車と警察に連絡を入れた。
それから間もなく到着した救急車によっておばさんは病院へ搬送され……大洋は駆けつけてきた警察によって逮捕された。
あまりにショッキングな出来事に、しおくんは意識を失うまでに弱ってしまっていた。
無理もないことだけど……。
※※※
あたしはその場で警察から軽く事情聴取を受けた後、1度家に帰ることにした。
もうこれで何度目の事情聴取だろう?
そもそも一体何がどうなっているのか説明してほしいのはこっちの方なんですけど……。
そして数時間後……おばさんがなんとか一命を取り留めることができたと鯛地さんから連絡をもらった。
だけど意識が戻っていないから予断を許さない状況であることには違いないんだけどね。
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そして後日……しおくんは大洋と話をするために警察署へと赴いた。
しおくんの顔色は死人のように青白く……心なしか足元もおぼつかなく、歩くたびに度々つまづきかけていた。
あたしはしおくんが心配になり……彼に付き添うことにした。
本当は面会にも同席したかったんだけど……しおくんが2人で話をさせてほしいとお願いしてきたのであたしは面会室の前で待つことにした。
『こうなったのは全部あんたのせいだよ……。
あんたが俺のアオカちゃんを奪い……俺が得るはずだった幸せを全部奪ったせいだ!!』
ドアや壁が見た目より薄いからか……単に2人の声が大きいからか……中の会話は筒抜けだった。
大洋がおばさんを刺した理由を簡単に言えば……”好意を寄せていたあたしをしおくんが寝取ったからその報復”……だとか。
報復にも関わらず、しおくんを刺さなかったのは……生きたまま苦しめるため……らしい。
全く何を言っているのかあたしには理解できない……。
自分の祖母を刺したというのに……流れて来る言葉からは反省も後悔もくみ取ることができない。
もはやしおくんが会話している相手が人間なのかどうかすら疑わしく感じる。
『俺が憎いとか……俺が悪いとか……そんなこと言う前に、もっと自分の行いを悔い改めろ!
このバカ息子!!』
それでもしおくんは大洋が改心すると信じ……声を張り上げ続けた。
望みは薄いけれど……あたしだって願えるものならしおくんの気持ちが彼に届いてほしいと思う。
だけど……。
『……で? 何が言いたいの?』
だけど……現実は非情だった。
しおくんの心の叫びを聞いてもなお……彼の心には全く響くことはなかった。
しかもしおくんだけでなく……あんなに家族思いなおばさんやおじさんまでをなじった。
「!!!」
あたしの中で何かが弾けた。
そして考えるよりも先に体が動き……ドアを勢いよく開いた。
そしてあたしの目に映ったのは……心を打ちのめされて椅子に座りこむしおくんとガラスの向こうで動揺している大洋だった。
「あっアオカちゃん……どうして……」
あたしは大洋を無視してしおくんに歩み寄って両手で顔を掴み……。
「しおくん、ごめんね?」
謝罪を口にした直後……あたしはしおくんとキスをした。
愛情表現なんてロマンチックなものじゃない……。
言ってみればこれは……凶器だ。
大洋の心を傷つけるための……凶器。
「こういうことだから……」
「は?」
キスをし終えたあたしは自分でも信じられないほどの罵詈雑言を大洋に吐いた。
しおくん達の気持ちを踏みにじったこの男の心に……癒えることのない傷を負わせたい。
そんな黒く冷たい欲望が……あたしの頭を支配していた。
「あたしはあなたになんの興味もないよ。
これまでもこれからも……たとえ何百回人生をやり直しても……永遠にあなたが大嫌い」
あたしは徹底的に大洋の心をズタボロにするために……彼のあたしへの好意を利用した。
さんざん大洋が言っていた寝取られという妄想を目の前で実際に見せつけ……好意を寄せるあたしが彼の存在を徹底的に否定した。
いびつではあるけれど、純粋な好意であるほどこういった場面は心にトラウマを植え付けるんだろう。
「行こ……しおくん。 あんな奴に傷つけられてつらかったよね?
あたしでよければ……たくさん”慰めてあげるから”……」
あたしは意味深な言葉で大洋の不安をあおり立てつつ、しおくんの腕を掴んで大洋に背を向けた。
「まっ待って、アオカちゃん! 行っちゃだめだ!!」
案の定……青ざめた大洋があたしを強く引き留めてきた。
もちろんそんな言葉に応じるわけがない。
「しおくんが父親であるあなたが、正直羨ましかった……。
だけど同時に……憎らしくも思えた。
しおくんみたいな父親がいるのに……優しいおばあちゃんやおじいちゃんがいるのに……そのありがたみを全く感じず、自分のことばかり考えているあなたが……殺してやりたいほど憎い!」
この時……自分自身の中にあった薄汚い嫉妬が口から思わず出てしまった。
しおくん達の心を踏みにじったことが許せないというのはあたしの紛れもない本心……。
でもそれと同じくらい……いや、きっとそれ以上に……あたしは大洋の恵まれた家庭環境が羨ましかった。
別にあたしの家庭環境が恵まれていないなんて思っていないよ?
お母さんも祖父母もあたしを愛してくれているから……。
でもやっぱり……あんなお父さんでも、家族が欠けてしまったという事実はずっと心に痛みとして残り続けている。
だからこそ……私利私欲のために自分から家族の絆をぶち壊す大洋のことが羨ましくもあり、どれだけ自分が恵まれているのかすら理解できないその愚かさも許せなかった。
「これが最後……もう2度と、しおくんの前に姿を現さないで。
これ以上しおくんを傷つけたら、たとえしおくんがあなたを許しても……あたしが絶対に許さない」
ドアを開いた際……あたしは大洋にはっきりと伝えた。
あたしにとって……いや、しおくんたちにとって、あなたは害悪でしかないと……。
これ以上しおくんを傷つけさせないと……。
あたしは最後の警告と現実を彼にたたきつけた。
ここまで言ってなんだけど、我ながらひどいこと……汚いことを口走ったなと思う……。
しかもあたしの胸の内はすっきりと爽快感に包まれている。
あたしってこんなに性格悪かったんだ……。
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言いたいことを言い終えたあたしは面会室からしおくんを連れ出して外に出た。
なんか大洋が大声でごちゃごちゃ言ってたけど……あたしは耳を傾けなかった。
そして警察署を出た直後……。
「蒼歌……どういうつもりだ?」
しおくんからそう問いかけられた。
まあ当然そうだよね……。
「……ごめんなさい。 親子の問題なんだから黙っていなきゃいけないって……自分を抑えていたんだけど……ドア越しに話が聞こえてきて……それでどうしても我慢できなくて……」
「お前の気持ちは嬉しいが……俺はお前にあんな真似はしてほしくなかった……。
いくら俺のためでも……俺は嫌だった」
「そう……だよね……ごめん……」
しおくんならそう思うとわかっていた。
わかっていた上であたしはあんなことをしてしまったんだ……。
しおくんの親心を踏みにじった怒り……それがきっかけではある。
でも敵討ち……なんて義理堅い理由は似つかわしくない。
もしかしたらあたしは……ただ大洋への妬みから彼を傷つけたかったのかもしれない……。
そう考えるとあたしも……嫉妬に狂った大洋とそんなに変わらないね。
「俺……父親になれなかったのかな……」
大洋の心ない言葉が本当につらかったみたい……。
しおくんは人の目も気にせず、力なく地べたに腰を下ろしてしまった。
そしてしおくんの口から漏れ出たのは……これまでの何もかもに対する失望だった。
”自分自身の父親としての存在意義がわからない”
弱々しいその姿からそんな迷いがにじみ出ているように見えた。
こんなに落ち込んでいるしおくんを……あたしは今まで見たことがない。
こういう時……どうするのが正解なのかわからないけれど……このままじゃしおくんが立ち直れなくなると思ったあたしは……無意識に手を差し出していた。
「そんなことないよ……」
「そうか?」
「そうだよ。
しおくん、家族を崩壊させられて傷ついていたのに養育費をしっかりと払い続けていたでしょう?
あたしが襲われたあの時だって……彼があれ以上罪を犯さないように必死に止めたじゃない。
さっきも彼を改心させようと必死に説得してた……。
しおくんは立派なお父さんだよ!
そばにいたあたしが保証する!
だからほら……立って」
あたしはしおくんの手を掴み、精いっぱいその手を引いた。
”もう1度、立って歩いてほしい……”
ただそれだけを願って……。
「ありがとう、蒼歌……。 少し元気が出た」
「そっか……それは何より」
しおくんはなんとか立ち上がることができた。
心なしか……少し顔色がよくなったように見えるかも?
「全く……お前は本当に強い子だな……」
「そう? あんまり自分ではそう思わないけど……もしそう見えるのなら、しおくんのおかげだよ」
「俺のおかげ? 俺、何かしたか?」
「さあね?」
何かしたか?……か。
別に記憶に残るような特別なことじゃない。
しおくんとあたしは友達になり、一緒に楽しい時間を過ごした……。
そんなしおくんとの日々があったからこそ、あたしはこうして立っていられるんだよ?
もちろん一緒に過ごしてきた友達はほかにもいるけれど……しおくんは他の友達と少し違うんだよ。
なんというか……同じ痛みを知った者同士……みたいな?
なんか自分で言ってて訳がわからなくなってきたけど……とにかく、しおくんは1番のお友達なの!
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あたし達はその足でおばさんのいる病院へと向かい、そこでちょうどおばさんが意識を取り戻したことを知った。
ケガの後遺症とかはなく、しばらく車いす生活になるみたいだけど……退院は期待できるみたい。
本当によかった……。
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そして後日……大洋の裁判が開かれ、彼は懲役25年の判決が下された。
執行猶予もないみたいで、刑期を終える頃にはほとんどアラフィフ……。
自業自得とはいえ、あたしと同い年の子が20代、30代を刑務所内で終えることになるなんて……なんだか少し悲しいかな。
そしてさらに驚くことが起きた。
なんとしおくんが、大洋と元奥さんの子供を引き取ったんだって!
里親がなかなか見つからないってことは知っていたけど……まさかしおくんが引き取るなんて思いもしなかった。
しおくんに引き取って大丈夫なの?って聞いてみたんだけど……。
『大丈夫……かどうかはわからないけれど、俺は俺の残りの人生を全て賭けてこの子を幸せにする』
力強い目であたしにそう返してきたしおくんは、なんだかとってもかっこよかったな。
おじさんもおばさんもサポートするみたいだし……子供もなついているっぽいし……しおくんならきっと、立派なお父さんとして子供を幸せにできるよ。
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それから1年後……。
あたしは今……結婚式場にいる。
そう……今日はあたしの結婚式!!
……って言いたい所だけど、あたしは招待された側なんだ。
今日の主役は鯛地さんと鮎さん。
2人は同棲の末、ようやく入籍したんだ。
んで、今日は2人の結婚式!
会場にはしおくんとおばさんとおじさんはもちろん……店に来る常連客のみんなやあちこちから集まった親戚達が参加していた。
あたしも鯛地さんの職場仲間として……招待されたんだけど、しおくんはあたしの姿を見た途端……。
『なんでお前がいる!?』
なんて言って来たけど、逆にいちゃいけないの!?
ホント失礼しちゃう!
「あうあう……」
「はいは~い……ちょっと待っててね? パパはすぐ帰ってくるから」
あたしの腕には今、しおくんの子供……奈美ちゃんがいる。
ちょうどしおくんが新郎新婦へ向けてスピーチしている所だから、あたしがその間奈美ちゃんを預かっているんだ。
「あう~」
う~ん……こうして抱っこしていると……やっぱり赤ちゃんって可愛いんだね。
母性本能って奴なのかな?
まあ単純に奈美ちゃんが可愛いって所もあるんだろうけど。
「あぶ~」
抱っこしている奈美ちゃんが物欲しそうな顔であたしの胸を揉んできた。
「もしかしてお腹すいたの?」
「あぶ~」
「ごめんね? あたしまだおっぱい出ないんだ」
「あう~」
「ちょっと待っててね?」
あたしはそばにあったしおくんのカバンから哺乳瓶と粉ミルクやお湯の入った水筒等のミルクをつくるための材料を取り出した。
ミルクの作り方はおばさんやお母さんに教わって知っている。
なんならオムツ替えだって、しおくんの代わりにしてあげるときだってあるんだよ?
「はい、奈美ちゃん」
「ちゅぱちゅぱ……」
温度を人肌で調整し、あたしは哺乳瓶のミルクを奈美ちゃんに飲ませた。
そうそう……ゲップもさせないといけないんだっけ?
フフフ……結構手慣れているでしょ? あたし!
「ママの作ったミルクおいしい?」
「ちゅぱちゅぱ……」
うん、おいしいみたい。
こつんっ!
「いたっ!」
奈美ちゃんにミルクをあげているあたしの後頭部を軽く叩いてきたのは、スピーチを終えたしおくんだった。
「いきなり何するの!? せっかくお腹を空かせていた奈美ちゃんにミルクあげていたのに!!」
「そこは感謝している……だがママはないだろう?」
「えぇ~なんで? しおくんは奈美ちゃんにパパって呼ばせようとしているんでしょう?
あたしだって奈美ちゃんのお世話たくさんしているんだから……ママって呼ばせてもいいじゃん!」
「よくない! お前がママを連呼するせいで……周りの連中がますます俺達を夫婦呼ばわりして冷かすんだぞ!?」
「しおくんが愛されている証拠じゃない」
「お前はなんでそう……物事を能天気に考えることができるんだ」
「もう……しおくんが気にしすぎなんだよ」
「お前がポジティブすぎなんだよ!」
「しぃー! あんまり大声出すと、奈美ちゃんが泣いちゃうよ?」
「だっ誰のせいで……」
「ねぇ~奈美ちゃん。 パパにはニコニコしていてほしいよね~?」
「あ~う」
「ったく……」
※※※
そして結婚式は進んでいき、いよいよ女性陣が待ちに待ったイベント……ブーケトスが始まった。
あたしだって女の子なんだから……ブーケというものに憧れはある。
「そーれ!!」
新婦の鮎さんが投げたブースは大きく弧を描き、女性陣の上を通り過ぎていった。
そして……ブーケがまるで引き寄せられるかのように、あたしの元へと飛んできた……。
「ふがっ!!」
まではよかったんだけど……飛んできたブーケが上を見上げていたあたしの顔に着地した。
ブーケを取れたのはいいけど、ブーケを顔で受け止めるなんて……結婚に憧れる乙女としてあるまじき姿だよぉぉぉ……。
「……」
奈美ちゃんを抱いたしおくんが離れたところからあたしのザマを呆れた目で見てる。
その視線には”マヌケ”だの”ドジ”だの……ムカッとする意思が伝わってくる気がする。
「「「おぉぉぉ!!」」」
あたしがブーケを手にすると、会場内の視線が一斉にあたしとしおくんに向けられた。
「おめでとう! 蒼歌ちゃん!」
「次は蒼歌ちゃんかい!? 結婚式には呼んでおくれよ?」
「おじさん! 蒼歌ちゃんを泣かせるなよ!」
なんだかしおくんやあたしに向けてお祝いの言葉が会場内を飛び回った。
「せっかくの結婚式で何を言ってるんだよ!! 今の主役は鯛地と鮎だろ!?」
「蒼歌ちゃん! 蒼歌ちゃんも結婚するならここで式をあげてね!? とっても良いところだから」
「うん! そうするよ、鮎さん!!」
まあ結婚なんていつの話かわからないけどね?
今は付き合っている彼氏もいないし……ちょっと前にようやく小さな文具関係の会社で事務として働けるようになったんだから……。
あったとしても……結婚はずっと先の話だろうしね……。
”なんてこの時のあたしはそう思っていた……”
でもここだけの話……実はこの数年後……あたしは本当にここで結婚式を開くんだ!
心から愛する旦那様と一緒に……バージンロードを歩いたり、ウェディングケーキを切ったりするんだ。
そこにはお母さんと祖父母……夫婦となった鯛地さんと鮎さん……これまでお世話になった多くの人達が参加し、あたしと旦那様を祝福してくれた。
えっ?……相手は誰だって?
……さあね?
自分の未来なんて、知らない方が楽しいじゃん。
それに引退した身ではあるけれど……アイドルは秘密が多い生き物なんだよ。
いじわるなことを言ってごめんだけど、こればかりは想像に任せるよ。
※※※
「おっおい! どういうつもりだ!?」
「いいじゃんいいじゃん、記念だよ」
盛り上がりが最高潮に達したみんなは、撮影タイムにて記念にあたしとしおくんのツーショット写真を取ろうと言い出してきた。
なんだかあたしも楽しくなってきたので、渋っているしおくんの腕を引いて会場内に飾られているハートのオブジェの前に立った。
なんでもそのオブジェの前で写真を撮ると、撮られた人は強い絆で結ばれるという言い伝えがあるんだって……。
すごい話だね……。
あっ! でもこの式場……2年前にできたばかりって聞いたような……まあ別にいいか!!
「おっおい! 蒼歌までなんのつもりだ!?」
「記念だよ記念! 結婚式場なんてそうそう来れる場所じゃないしさ。
記念撮影くらいしていこうよ!」
「それがなんでお前とのツーショットになるんだよ……」
「ツーショットじゃないよ? ほら、奈美ちゃんもいるし……」
しおくんの腕にはお腹が一杯になったせいか、虚ろな目をしている奈美ちゃんがいる。
だから厳密にはツーショットじゃない。
「それになんで鯛地が撮影係なんだ!? お前今日の主役だろう!?」
「まあまあ……細かいことは気にせず、未来の新婚夫婦の記念撮影なんだしさ」
「ったくもう……」
「ほらっ! いつまでもムスッとした顔してないで、笑顔笑顔!」
「……」
「じゃあいくぞ? 3……2……1!」
カシャ!
鯛地さんがシャッターボタンを押した瞬間……奈美ちゃんはこの上ない笑顔を見せてくれた。
あとで写真を見てみると、とっても愛らしい笑顔だった。
あたしも我ながら良い笑顔だと思う。
しおくんは無理やり笑ったせいで、すごく不気味な顔になっていたけど……。
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結婚式が無事終わり……あたしとしおくんは帰路についていた。
辺りはまだ明るいが、少し日が傾き始めている。
「あっ! ここ……」
その道中、通りかかったのは……しおくんと初めて出会った公園だった。
「なんだか懐かしく思えるな……」
「そうだね……」
思えばしおくんと出会ってもう3年以上経つ……。
時間が過ぎるのは本当に早いものだね……。
ってなんか年寄りっぽいなあたし。
「まさかこんなところで、息子と同い年の女の子と友達になるなんて……夢にも思わなかったよ」
「あたしだってお父さんくらいの歳の男性と友達になるなんて思いもよらなかったよ」
親子ほど年の離れた男女の友情……そんなの創作の中の話だと思ってた。
でもね?
あたしは今、思うんだ……。
友達に年齢も性別も関係ない……一緒にいて楽しければそれでいいんだって……。
「ねぇしおくん……1つ聞いていい?」
「なんだ?」
「しおくんはあたしが友達で嬉しい?」
唐突な質問だけど……これはずっとあたしが心に秘めていたこと。
あたしはしおくんを友達に持ててよかったと思っている。
でもしおくんはどうなのか……ちゃんと聞いたことがなかったから……。
「そうだな……口やかましいのが玉に瑕だが……」
「むっ!」
「俺にとって……お前は最高の親友だ」
「!!!」
最高の親友……そう言った時のしおくんの顔はとても朗らかに見えた。
そしてそう言われたあたしは……胸になにか熱いものがこみあげてくるような気がした。
「そっか……じゃあこれからもずっとよろしくね! しおくん」
「あぁ……こちらこそ、よろしくな! 蒼歌!」
あたし達は互いの絆を確かめ合うように握手を交わした。
なんだか照れるけれど、しおくんの手はとっても温かかった。
きっとこれが、友達の手であり……父親の手でもあるからだ。
「さあ、帰るか……」
「うん……」
「あう~」
これから先……どんな未来が待っているのかはわからない……。
でも2人でいれば、きっとどんなことでも乗り越えられる。
今までずっとつらいことや苦しいことの連続だったけど……あたしは信じている。
この先にきっと……幸せな未来が待っているって……。
そして願わくば……その未来でも、あたしの隣にはしおくんがいてほしい。
それはどうしてかって?
だってしおくんは……あたしの大好きな親友だもん!!
遂に完結しました!!
思ったよりも長くなってしまいました。
本当なら年末で終わらせたかったのに……。
まあやりたいことやって完結できたのでよしとしましょう。
最後は潮太郎と蒼歌を結ばせてもよかったのですが、タイトルに”友達”と書いているので、友達のまま完結させることを選びました。
完結後は、放置していたマインドブレスレットシリーズの続きを書こうと思います。
それでは皆様……ここまで読んで頂いて、ありがとうございました!!




