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海野 潮太郎⑩

潮太郎視点です。

やたらと長くなったのでいったん区切ります。

 瑞希のあの事件から何日か過ぎ去った……。

彼女は自ら犯したヤケによって、長い時を刑務所で過ごすハメになった。

まあ同情はできないがな……。

そして俺はというと……相変わらずの生活を送っている。

いつもと変わらない日常……見慣れた光景……。

それでも時間は前に進んでいる。

だけど俺の心はどうにも……過去にしがみついているみたいだ。

毎日ふと思い浮かぶ……。

大洋のこと……そしてあの子……奈美のこと……。

もうそろそろ刑期を終えた大洋が出所する時が来る。

あいつは心を入れ替えて、これから真っ当に生きてくれるだろうか……。

親に恵まれなかった奈美は……幸せな家庭に入れるだろうか……。

そんな不安や心配がチラつくたびに……俺は自分に問い掛けられる。


”俺自身にできることはないのか?”


 俺はその問いに答えられたことがない。

だって……今の俺に一体何ができる?

あいつらに何をしてやれる?

そう思うたびに……俺は無性に空しくなる。

せめてこれ以上……つらい出来事が起こらないことを祈る。

俺にできることなんてせいぜいそれくらいだ……。


--------------------------------------


 だけど……そんな俺の祈りは天に届かなかったみたいだ。

それは大洋が出所した翌日の事……。

俺はいつも通り自分の仕事をしていた。

でも正直……あまり仕事に集中できてはいなかった。

大洋のことが頭にチラついていたからな……。

昨日……親父とお袋が出所した大洋を迎えに行き、家に送り届けた。

本当は俺も同行したかったが……大洋が快く思わないだろうと思い、断念した。

我ながら薄情な父親だと思う……。

そして……大洋は1人になりたいと言って2人を帰し、家に閉じこもってしまったらしい。

こういうとき……どんな行動をすれば正解なのか、全くわからない。

だから俺と両親はせめて大洋が立ち直れるよう……定期的にあの子の様子を見に行くということで話し合いがまとまった。

あの子が真っ当に生きていくというのなら……当分の生活費も工面してやろうとも考えていた。


「しおくん、どうかした? なんかぼんやりしてるけど……」


「えっ? あっ、いや……なんでもない……」


 蒼歌が心配そうに俺の顔を覗いてきた……。

普通に仕事をしていたつもりだったが……大洋のことが顔に出ていたのか?


「こらっ潮太郎! ぼやぼやしてないでさっさと仕事しな!

蒼歌ちゃんばかりに働かせるんじゃないよ!」


「俺もやることはやっているはずなんだが……」


「いやぁ……相変わらず蒼歌ちゃんはよく働くねぇ、みっちゃん」


 みっちゃんというのはお袋のあだ名だ。

同級生や常連客達はみんな、お袋をそう呼んでいる。


「当たり前さ、ウチの自慢の娘だからね!」


「ハハハ!! 果報者だね、潮太郎君は。 こんなに可愛くて働き者な嫁さんをもらえたんだからな!」


「……」


 俺は最近……蒼歌との関係に関しての話に対し、何も言わないようにしている。

言った所で照れ隠しだのなんだの言われて、さらに冷かされるからだ……。

しかも蒼歌は元々ノリが良いところがあるからか……まんざらでもない反応を示すため……周囲がますます付け上がってくる。

まあ簡易的にまとめるのであれば……”無駄なことはしない”……だ。


「みんな相変わらずだね~……」


「呑気な事言ってる暇があるならこれからのことを考えたらどうだ?」


「これからって?」


「就活のことだ。 いつまでもバイトって身分の訳にはいかないだろ? 

そろそろ安定した職場に就かないと……貯金だってままならないんじゃないのか?」


 蒼歌は今年で20歳を迎える。

すでに高校は卒業してはいるが、肩書きを言えばフリーターだ。

フリーターのことを悪く言うつもりはないが、やはり今後のことを考えると……安定した環境と収入が整っている職場に行くべきだ。

アラフィフの俺には実家の手伝いだけでどうにかなるが、これから何十年もの時間を生きる蒼歌には多くの金が必要だ。

だが俺の実家でバイトをしているだけでは、蒼歌の人生を安定させられる収入を与えることができない。

彼女の人生を考えれば……就職するのが一番だ。


「う~ん……就活頑張ってはいるんだけど……なかなかうまくいかないんだよね」


「そもそも大学に行くことは検討しないのか? 大学を卒業すれば、就職先の範囲がより広まるぞ?」


「いやぁ……赤点ギリギリを維持していたあたしの頭じゃ大学なんて無理だよ」


「あぁ、それもそうだな……」


「ひっど! そこは普通慰めるところでしょう!?」


「無理だと言ったのはお前だろう……」


「そうだけど……っていうか、しおくんだってこれからのこと考えているの?」


「これからのこと?」


「えっとね……再婚とか?……」


「ないない……結婚なんてもうコリゴリだ。 俺は一生独身を貫いて、好きなように生きていく」


「寂しいこと言うね、しおくん」


「お前も大人になればわかる……」


「むっ!! 私は大人だよ! 今年で20歳なんだから!」


「世間から見れば20歳なんてまだまだ子供だ、俺なんてもうすぐ50歳だぞ?」


「あたしからすれば最近までブルートゥースも知らなかったしおくんの方がまだまだお子様だよ」


「ぐっ!」


 最近、蒼歌からブルートゥースなるものを教えてもらって以降……たびたび彼女はこのネタでおれをいびるようになっていた。


「そんなもの知らなくても生きていける。 無駄口叩いてないでさっさと手を動かせ」


「な~に~? 負け惜しみ?」


 嫌味ったらしい笑みに思わずカチンとなりそうになったその時……。


「うわぁぁぁぁ!!」


 グサッ!!


 突然、轟くような雄たけびが鼓膜を揺らした……。

そして振り向いた瞬間……俺は目を疑った。

そこには腹を刃物で刺されたお袋の姿が……そしてお袋を刃物で刺す大洋の姿が……そこにあった。


 ”これは一体……なんなんだ?”


 脳が目の前で起きた出来事を処理しきれず、俺は金縛りにでもあったかのようにその場で立ち尽くしてしまっていた。

それは俺だけでなく、近くにいた鯛地や蒼歌も同じだったみたいだ。


「「「うわぁぁぁぁ!!」」」


 常連客達の悲鳴が店内に響き渡った瞬間……。


「大洋ぉぉぉ!!」


 俺は我に返ることができ、考えるより先に鯛地達と共に大洋をその場で取り押さえていた。

そして取り押さえる際……お袋の返り血が手や顔に飛んできた。

独特の臭い……不愉快な肌触り……それらが俺の脳にこう告げてくる。


 ”大洋がお袋を刺した”


 そう理解した瞬間、俺は無意識に大洋へ言葉を発した。


「大洋……なぜこんなことを!! 答えろ!!」


 お袋を刺した理由……俺には全く理解できなかった。

俺が刺されるのなら理解はできる……大洋にとって俺は蒼歌を奪った男……らしいからな。

自分が殺されるかもしれないと覚悟していた分、自分以外の人間が刺されたという現実が俺には信じられなかった。


「全部お前のせいだよ……」


 大洋から返された言葉は……それだけだった。

俺のせい?……俺のせいでお袋が刺された?

一体どういうことなんだ?

どういうことなんだよ!!


「殺人未遂の現行犯で逮捕する!!」


 駆けつけてきた警察によって、大洋は逮捕され……連行されていった。

昨日出所したばかりなのに……また大洋は警察に連れて行かれる。

しかも本人には、全くと言って良いほど反省も後悔も顔から見て取れない。

せっかく得た自由を……やり直すチャンスを……こんな短時間で簡単に捨てたことを……あいつはなんとも思っていないのか?


ドサッ!


 俺は訳がわからなくなり……意識を失ってその場で倒れてしまった。


※※※


 そして気が付くと……俺は自室で寝ていた。

壁の時計を見上げると、あれからすでに1時間も経過していた。


「おじさん……大丈夫か?」


 心配そうに顔を覗きこんでくるのは鯛地だった。


「俺は……あれからどうなったんだ?」


「おじさん気絶したんだよ。 あんなことになったんだから無理もないだろうけど……」


「そうか……!! お袋は!?」


「救急車で病院へ運ばれて行ったよ。

大将が付き添ってる。

俺は大将におじさんを見てろって言われたから……」


 鯛地の言う大将というのは親父のことだ。


「お袋は助かるのか?」


「わからない……でもきっと大丈夫だよ。 いつも元気なおばさんがそう簡単に死んだりするもんか!」


「そう……だよな……。 大洋は……どうしたんだ?」


「大洋は……わからない。

警察に連れて行かれて……それからはなんとも……。

おじさん……なんで大洋はおばさんと刺したりしたんだろう?」


「……わからない」


 そう……わからないことだらけだ。

ここでどれだけ頭をひねっていても答えは出てこない。

答えを得る方法はただ1つ……本人に直接聞くほかない。


--------------------------------------


 後日……俺は事情聴取を終えた大洋との面談にこぎつけることができた。

お袋の方は手術自体は成功したものの、まだ予断を許さない状態で意識も戻ってはいない。


「しおくん……大丈夫?」


 俺を心配して蒼歌も着いてきてくれていた。

本人は面談に同席させてほしいと言ってくれていたが、俺はそれを断った。


「あぁ……どうしても大洋と2人で話をしたいんだ」


「……わかった、じゃあここで待ってるから」


「ありがとう……」


 俺は1人で、面談室に足を踏み入れた。


--------------------------------------


 面会室に入って数分後……ガラスの向こうにふてぶてしい笑みを浮かべた大洋が現れた。

腰を掛けた椅子の背もたれに寄りかかるその堂々とした姿には……罪悪感など皆無である大洋の心が透けて見えるようだった。


「大洋……なぜこんなことをしたんだ? お前の口から聞きたい」


 開口一番に俺はずっと聞きたかったことを尋ねた。


「こうなったのは全部あんたのせいだよ……。

あんたが俺のアオカちゃんを奪い……俺が得るはずだった幸せを全部奪ったせいだ!!」


 愚問だと言わんばかりに鼻で嘲笑う大洋……。

だがその返答は……俺の想像通りの内容だった。


「あぁ、そうだ! どうせ母さんを寝取られたとか……被害妄想を膨らませて俺に逆恨みしていたんだろう?

はっきり言うけどな、俺にとってあんたはもう父親なんかじゃない!

ただの寝取りクソ野郎だ!!」


 バンッ!!


 俺はにじみ出る怒りを吐き出すように目の前のテーブルを両手で叩いた。

大洋の言葉の何もかもが……俺が想像していた通りのことばかり……。


「だったら……だったらどうして……俺を刺さなかった!? お前が憎いのは俺なんだろう? だったらあの時……どうして俺を刺さなかったんだ!? 答えろ!!」


 想像通りの答えだからこそ……お袋を刺すという予想外な行動を取った大洋の本心が理解できなかった。

俺を殺したいほど憎いというのであれば……俺を刺せば済む話だ。

それが何をどうなったら……お袋を刺すなんて結論に結び付けることができるんだよ……。


「だって……つまらないじゃん」


「何?」


「あんたを殺した所であんたが死んでそれで終わり……そんなつまらないやり方で、俺の気持ちが晴れるわけがないだろ?

俺はさ? あんたに死んでほしいんじゃない。

あんたにとことん苦しんでほしいんだよ……この先死ぬまで永遠にな……」


「……」


「あんたは俺から大切なアオカちゃんを奪った……だから俺もあんたの大切な人を奪ってやった……それだけの話だ」


 大切な人を奪われる苦しみを味会わせたかった……それが大洋の言い分だった。

俺が死ねば俺がこれ以上苦しむことがなくなる……それを望ましく思わない大洋が選んだ復讐……。

それがお袋を刺すということだったらしい。

しかもチャンスがあれば親父も刺してやりたかったと舌打ちまでした。

あまりに……あまりに身勝手すぎる……。

逆恨みという形になっていても、俺を恨むのであれば恨んでも良かった……。

俺が蒼歌を奪ったというのが大洋自身の事実であれば……それでもよかった。

だけど……大洋のことを心の底から想い愛していた親父やお袋の真心を踏みにじるその態度に……俺はこの上ない怒りを覚えた。


「じいちゃんとばあちゃんは……お前を愛していたんだぞ?

逮捕された後もずっと!!

服役している間……2人は何度もお前に会いに行っていただろう?

過ちを犯した人間なんて……子供だろうが孫だろうが……見捨てられたって文句は言えない!

動機が不純ならなおさらだ!!

それでも2人はお前の身を……ずっと案じていたんだぞ!?

それに……お前は知らないだろうが、じいちゃんとばあちゃんは毎日毎日……神社に行っては神様にお前が無事に出所できますようにって……手を合わせ続けていたんだ。

お前が改心して、真っ当に生きてくれると……ずっと信じていたんだ!!

そんな2人の気持ちをこんな風に踏みにじって……何も感じないのか?」


「……」


「じいちゃんとばあちゃんだけじゃない!! 瑞希の両親だって……お前のことを信じて待っていたんだぞ!?

世間に何を言われようと……赤ん坊を押し付けられようと……お前を想っていてくれたんだ!!

そもそもお前は俺を苦しめるために……傷つけるためにばあちゃんを刺したと言ったな?

でもあの場にいた鯛地だって……常連客のみんなだって……お前の愛しい蒼歌だって……心に深い傷を負ったんだぞ!?」


 俺は弁の立つ方ではないけれど……それでも感情のまま大洋に言葉を投げ続けた。

瑞希と関係を持った時も……蒼歌を襲った時も……俺は心のどこかで大洋への親心を捨てきれずにいた。

我ながら甘いとは思いはしたが……俺は大洋が真っ当な人生を歩んでくれると信じたかった。

だけど……それは間違いだったのかもしれない。

俺のその甘さが……この悲劇を生み出すきっかけを作ってしまったのかもしれない。

だけど……親父やお袋の想いを踏みにじり、蒼歌達の心を大きく傷つけた大洋をこれ以上擁護するわけにはいかない。

それは優しさとは違う!!


「俺にも悪いところはあった……お前をこんな風にしてしまったのは俺にも責任はある。

もちろん瑞希にもだ……。

だけどお前はもう子供じゃない……自分の行動に責任を持つべきだ!

俺が憎いとか……俺が悪いとか……そんなこと言う前に、もっと自分の行いを悔い改めろ!

このバカ息子!!」


 俺は自分の想いを出せるだけ出し切った……。

大洋がどう感じるかは知らないが……少しでも俺やお袋たちの想いが届くと信じて……。


「……で? 何が言いたいの?」


 だが……俺達の想いは大洋には全く届かなかったみたいだ。


「何が悔い改めろだ……あんたこそ俺にした仕打ちを悔い改めろよ。

だいたい……じいちゃんとばあちゃんが手を合わせていたからってそれが何?

俺を想っていたから何?

それでアオカちゃんが俺の元に来てくれるの?…俺の人生が元通りになるの?……無理だろ?クッソ無駄だしどうでもいい。

そもそも2人がきちんとあんたにまともな教育を施していれば……こんなことにはならなかったんだ。

言ってみれば……あの2人も同罪だよ」


「お前……そこまで……」


 俺はあまりに冷たい大洋の言葉に愕然とした……。

ここまで言っても……ここまで堕ちても……大洋には何も響かないのか?

そこまで大洋の心は腐ってしまったのか?

そこまで大洋の頭は狂ってしまったのか?

救いようのない現実に打ちのめされ……俺は絶望した。

もう何をしても……何を言っても……大洋はもう何もわかってくれないんだ。

だったら俺は……一体どうすればいいんだ?

どうすれば……。


 バタンッ!!


「しおくん、ごめんね?」


 後ろから勢いよくドアが開く音がしたと思ったら……いつの間にか蒼歌に顔を掴まれていた。

彼女は悲し気な顔を俺に近づけ……俺とキスを交わした。


「なっ……なっ……」


 突然のことに大洋は困惑していたが……俺はさらに困惑していた。


「こういうことだから……」


 それから蒼歌は大洋に対して罵詈雑言を吐き……俺の手を引いて面会室を出てしまった。

部屋を出る際、横目で大洋の顔を見たが……ひどく慌てふためいていた様子だった。

愛しい女に罵声を浴びせられたことがよほどショックだったのか?

父親の言葉よりも好きな子の言葉に心を揺さぶられるなんて……父親として不甲斐なさを感じる。


-------------------------------------


「蒼歌……どういうつもりだ?」


 警察署から出たところで蒼歌は俺の手を離した。

俺はすぐさま彼女に真意を問いただした。


「……」


「俺の……ためか?」


 俺がそう問いかけると、蒼歌は小さく頷いた。


「……ごめんなさい。 親子の問題なんだから黙っていなきゃいけないって……自分を抑えていたんだけど……ドア越しに話が聞こえてきて……それでどうしても我慢できなくて……」


「お前の気持ちは嬉しいが……俺はお前にあんな真似はしてほしくなかった……。

いくら俺のためでも……俺は嫌だった」


「そう……だよね……ごめん……」


「いや……謝るのは俺の方だ。 悪かった……蒼歌」


 本来……大洋に言い聞かせるべきだったのは父親である俺だった。

大洋を傷つけることになろうとも……自身の犯した罪をわからせる……それが俺の役目だった。

でも俺は……大洋の狂気に満ちた言葉に言い伏せられてしまった……。

父親として……踏ん張ることができなかった……。

俺が不甲斐ないせいで……蒼歌が声を上げてしまったんだ……。

全くざまぁないな……たった1人の息子すらまともに教育できなかったなんて……。

いや……結婚当時は瑞希に大洋のことを任せっきりだった節があったからな……。

もともと父親としての役割なんて果たしていなかったのかもしれない……。


「俺……父親になれなかったのかな……」


 そう思った途端……なんだか体中の力が抜けて地面に腰を落としてしまった。

俺は俺なりに努力した……なんて自分に言い聞かせてきたけど、その結果がこれだ。

大洋は改心不能なまでに狂ってしまい……お袋は重傷を負ってしまった……。

やっぱり俺には……父親の資格なんて……。


「そんなことないよ……」


 これまでの何もかもに打ちのめされ……立ち上がる気力すら湧かず、自分を責め続けていた俺に手を差し伸べてくれたのは……蒼歌だった。


「しおくんは今までずっとお父さんとして頑張ってきたよ?」


「そうか?」


「そうだよ。 

しおくん、家族を崩壊させられて傷ついていたのに養育費をしっかりと払い続けていたでしょう?

あたしが襲われたあの時だって……彼があれ以上罪を犯さないように必死に止めたじゃない。

さっきも彼を改心させようと必死に説得してた……。

しおくんは立派なお父さんだよ!

そばにいたあたしが保証する!

だからほら……立って」


 その時、蒼歌が俺に見せてきた笑顔は……あまりに眩しかった。

まるで暗闇のどん底に沈んだ俺を照らしてくれる太陽のように見えた。


「……」


 俺の手を掴んでくれた彼女の手……そこから伝わるぬくもりが妙に心地よく思えた。


「!!!」


 不思議と力が戻り、俺はどうにかその場で立ち上がることができた。


「ありがとう、蒼歌……。 少し元気が出た」


「そっか……それは何より」


「全く……お前は本当に強い子だな……」


「そう? あんまり自分ではそう思わないけど……もしそう見えるのなら、しおくんのおかげだよ」


「俺のおかげ? 俺、何かしたか?」


「さあね?」


 蒼歌の意味深な言葉の意図はつかめなかったが……とりあえず彼女のおかげで完全に自分を見失わずに済んだ。

蒼歌には……感謝してもしきれないな。



次も潮太郎視点です。

あと少しなので、早めに更新します。


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