一話 あるのみ
「それじゃ席着け席ぃ」
先生のいかにも怠いという声が教室に響く。
その束の間、クラスメイト達の先生を上回るだらけた合唱が呼応する。
不協和音の方がもっと耳障りが良い。
「おいララ、次の授業何?」
行動にも出てるようだ。おいおい。
「おい、今準備すんのかよ。数学だぜ。」
という風にてきとうに済ます。
突然だが俺の名は権辺河原羅々威羅。東京都檜原村在住。ヤクザ夫婦の一人息子。高校一年バキバキの16歳。
そんな俺は今、人生の重要な局面を迎えている。高校をやめようと思っている。
理由は単純、
「先生!何故俺たちはこんな勉強するんだ!俺から言わせれば、現代の超能力社会において意味がない!」
そう、ただいま現在、超能力社会。人間は超能力を使えるようになったのだ。
いつからというと1980年。俺が生まれた年である。キリのが良いね。
だがちょうど小学校高学年くらいから景気の様子もおかしくなり、超能力の発現より時代は混沌をさらに混ぜまくっている。
「またかうるせぇ!大事なんだよ!社会に出てねぇ子供のくせに偉そうな口聞くな!ただやりゃいんだよ、やりゃ。」
口を開くたびデコにしわが生成されていく。あわれ滑稽。人相悪し。
「あぁん?超能力を使えば今ある仕事は無くなって、新たな仕事が生まれるだろうが!そん時に今のままの学校でええんか!ええんかい!」
「うるせぇ小僧だ。ほんとにお前は!えぇじゃないか、えぇじゃないか、えぇじゃないか!もう無視する。授業始める!」
という風な会話を最近先生、いや先公と繰り広げる。だから中退しようとしてるんだ。
最近まではある程度まじめにやってたがもう我慢ならん。納得できん。なんでこんな生活をしなければならないんだ。もっと良いやり方があるはずだ。
◇
「何だありゃ?」
下校途中。今俺が歩いてんのは商店街。右前方の服屋から、怪しげな男とそれを追いかける全身紫の服に包まれたおばちゃんがこちらに向かってくる。
明らか犯罪。拳確定。
そう思いながら怪しげな男めがけて走り、顔面に俺の超能力[拳]で
「おりゃぁぁぁー!」
[2乗×加重拳]右ストレート
「うおへぇ、ぶぼぶべらびゃー」
と悶えながら後ろに吹っ飛ぶ。決まったぜ。
俺の能力は単純。拳を重くする、硬くする。
加重拳は単純にパンチの威力を上げる。だからダメージを敵に与えやすい。
加硬拳は物を壊すときなどに使う。人間に対して使うと外傷を与えやすい。
基本的に使うのは加重拳だ。
「ありがとねぇ。ララくん。その男がレジの金を私が気をそらしてる間に盗んだのよ。」
心の底から感謝してると言わんばかりの表情。
まぁ気づいたら動いてその後の事は何も考えてなかったけど。これが人助けの醍醐味だな。
「どうってことねぇよ。」
そして犯人を確認。うつ伏せだが今にも起き上がろうとしてる。逃がさねぇぞあんぽんたん。
「おのれ、お前は許さん。カンサーの名において。」
「んだ?カンサーって?」
「はっ、知らなくてよいわ。我が組織の素晴らしさはいずれ世界のだれもが認める。お前なんぞにわからんでよいわ。」
犯罪組織か。近頃、犯罪件数増えてるもんな。しかも超能力がらみの。
それを取り締まるはずの警察もまだ対応しきれてない。世紀末3歩手前だな。
誰かどうにかしてくれ。
「あぁわからんでよいわ。お前なんぞが入れるものはさほど凄かないだろ。」
その組織の一般兵がこの程度なら上も大したことはないだろうと思う。下が上を表すよなぁ~。と、思う。
店員の態度が悪いとその店自体を嫌いになるあれだ。
「ふっ、ほざけ。貴様に、って、おい!なにをするー!。」
体をまさぐり金を発見&確保、おばちゃんにぶん投げ、こいつは警察に連行っと。
一件落着。
◇
「おい先公!さっさと明確に説明しろや!」
今日も今日とて傍から見れば反抗まがいの事をする。
さっきはチョークを投げてきたが俺の反射神経には無意味。空中でつかんでやったぜ。
「だからよぉ、学校は社会に出るために必要なんだよ。わかんねぇのか?」
と言いながら近づいてきて頭を叩いてきた。だが俺の頭は固い。
「痛ってっぇぇ!」
と言いながら右手首をつかみながら苦悶の表情で手のひらを見つめる。
ほらな。無駄無駄。
「だからなんで社会に出るために必要なんだよ?」
これは会話じゃねぇな。そんな高尚なもんじゃない。なんかズレてる。
「まったく聞いていられませんわ。蚊のごとく。あぁ蚊のごとく。うるさいですわねぇ。いいですの?先生の経験した(笑)社会とこれから私たちが経験する社会は違うんですの。時代は変わるものですわ。」
なんだこの癖の強い娘は!?と思った人が多数だろう。
彼女は斎間箱子。財閥の娘。特徴的なのは美貌。あいつの周りだけオーラが出現してる。髪が何気に金髪だし、ツインテールだし。しかもその二本の尻尾は縦にロールしてる。
「まず第一に教師は明らか社会人ではございませんのよ。でもそれは置いといて。先生の生きた20代に超能力はなかったんじゃありませんの?というか確実に。今そのための変革が起きている真っ最中ですのに。そんなことも認識しないで、っぱーー。笑えますわー!」
先公は苦虫を嚙み潰した表情をしながら黙り込んでいる。なぜなら彼女はお金持ち。それだけで説明つくだろう。
「おい、ハコ。なかなか良いこと言うじゃねぇかよ。」
皆は親しみを込めてハコと呼んでる。金持ちだが庶民の俺たちにも優しいので人気者だ。
皆に心地よい学校生活を送ってほしいからと親に頼み、公立だがそうとは思えないほど机や椅子、空調設備が整ってたり制服の質感が高級感があったりするのも彼女のおかげだ。
でもこんな面白れぇ奴だったとわ。知らなかった。気に入ったぜ。
「あら、当然ですのよ。CUZ私ですものーー!そして気に入りましたわ。あなた、ついてきなさい。こんな愚者の授業詰まりませんわ。私についてくればつまりますの。どん詰まり!」
なんか急展開だが、面白そうだ。レッツゴー!
「あぁついてくぜ!」
二人で授業を抜け出した。青春って感じだぜ!うひょー!
◇ 盗んだバイクで走りだして15分。ハコの家に到着。
ただいま現在大広間のソファーに着席中。
「それで一体これからナニするんだ?」
「ナニを想像してるかわからないのですけど、これからするのは作戦会議ですの。」
純粋に疑問を抱いた表情をしながらハコは言った。
ナニもないのか。いや別にそこまで期待してたわけじゃないけど。
ほら、ねぇ、でしょ?男女が二人きりだぜ?
「あなたも知ってる通り、日本は今。というか世界中ですけど、超能力を使用した犯罪事件が加速して増加していますわ。これは由々しき事態。解決必須。」
世界的に安全と言われてる日本でさえ、ここみたいな田舎でも日常的に犯罪を目撃してる。
「あぁ、その通りだ。俺も何とかしなきゃなとは感じてた。心が納得できねぇ。」
昨日の商店街のやつは俺が偶々歩いていたから良かったけど、あんなことは日本中で起きてる。まったく目が回りそうだ。
「しかも犯罪組織が結成されたとか、そんな話もありますわ。」
「カンサーってやつか」
「そうですわ。」
「昨日、その組織に入ってると自称する奴を懲らしめただけだ。」
するとハコは悪戯が成功した子供のような顔をする。
何よ、何なのよ。あーしはなにかしましたかね。
「そのすったもんだは存じていますわ。服屋のおば様の店を微々たる規模で経済支援してますの。」
誇らしげな表情で腕を組みながら言う。
なるほどね。そういうことか。
「まじか!」
「地域活性!」
と言いながら顎に手を添えて高らかにおーほっほっと笑う。
こいつ良い奴だな、純粋に。真っすぐに育てられたのだろう。気品もあるし、何よりもあの言葉遣い。
「そしてそのカンサー含め犯罪組織を潰してく。それが私があなたを連れてきた理由ですの。協力してほしいのですわ。やりますわよね?当然のごとく。」
ここに連れてきたのは俺だけどな。バイクに初めて乗りましたわー!と俺の背で大声でハシャいでいた。まぁ俺もあのバイクは初めて乗ったけど。
「あぁ!する。それ以外にやりたい事が分かんねぇ、それ以外の生き方想像できねぇ!」
自分の国は自分で守らねぇとな。どうやってするか分かんねぇけどハコには何か策があるんだろう。
超能力による犯罪はやっぱり暴力的なことが多い。なら俺の超能力の出番だな。
自分の持ってる物は人の為に使ってなんぼよ!
「驚きませんわ。やはりこの私が見込んだ男、あっぱれですわー!そして、我が組織の名前はもう決めてありますの。その名も[オートファジー]。さぁ新しい世界を整備していきましょう!」
◇
「ここが私たちのアジト、という言葉が適切かしら。」
そこはデカいモニターとそのわきに無数の小さいモニター。デカいテーブル、デカい冷蔵庫、デカい電子レンジ。デカいソファー。本当にアジトって感じだ。
どんぎゃー!すげぇ!
「すげぇな。やっぱ金大事だな。何するにも。」
「えぇ。それと警察とお父様の人脈のおかげですの。警察とは前から協力させていただいてますの。」
「させていただいてる?」
「そうですの。私から協力したいと警察に交渉しましたの。」
「なるほどな。」
それなら俺と先公と会話を聞いてあの反応と今の状況になるわけだ。
自分の才能と恵まれた環境をここまで世の為にするとはな。前からその兆候は見えてたけど。
「そして、このモニターらには監視カメラなどの対犯罪組織に向けた機能が搭載されてますの。犯罪を感知しますわ。これで事件が起きたらすぐに現場へ行けますの。最新技術ですわ。」
凄すぎやろ!初めて見た。ドラマでもこんなのでねぇよ。想像つかないな。
「そして活動するにあたって邪魔なことがありますの。」
「学校だな。」
どちらにしろ辞めようとは思ってた。このまま通っても駄目だ。そう感じたんだ。これは駄目だと。
「ジャストピッタリそれですの。そして気配りのできる私はここまで考えていますの。あなた高校を辞めたとして仕事はどうするのか、考えてますの?」
顎を少し突き出し眉を少し上げ優美に俺の顔をのぞき込んでくる。
なんだかズルい表情だ。自分の思いを素直に話したくなっちゃう。
「うーん……」
仕事か。そうかこの活動は金にはならないもんな。困ったな。それも問題だよな。どうしよう。
「ふふん。私は思考済み。私のお父様の会社の社員にしてあげますわ。まぁ犯罪組織潰しなど諸々が終わってからですけど。」
「どっひゃー!まじか!?ありがとう。ハコ!一生懸命頑張るよ。この活動も仕事も。」
マジでありがたい。最&高。これは本当に頑張ろう。
「そう言ってもらえて嬉しいですわ。そして、ここでお互いの超能力を紹介するのが最適だと思いません?私の能力は[鏡]。今わかっている実証済み活用可能的確能力は、私を軸に半径5mの範囲で使用可能。その範囲で鏡を自由自在に動かしたり、鏡がある程度大きくて2枚以上あればワープもできたりするわ。疑似瞬間移動ができるのよ。」
「かなり強いな流石だ。[オリジナル]を持ってるだけでも特別だが、能力もそれとわ。」
説明しよう。実証済み活用可能的確能力とは、自分でそれが可能だと理解していて、条件が整っていれば自由に使える能力。と、規定されている。要は今使える能力で、超能力はまだまだ未知数で何ができるかわかっていないのだ。
[オリジナル]は自分しか持っていない能力だ。それはとても珍しく、日本には3000人くらいしかいない。
大多数の人たちは共通の能力を一つ持っている。それはレプリカと呼称されいて、多いのが電子レンジや冷蔵庫くらいのパワーのサーモキネシス。バックやリュックくらいの重さを動かせるサイコキネシス。
「俺は[拳]。今の実証済み活用可能的確能力は拳を固くする、重くする、だ。今も強いがこの先成長すればもう無敵だ。」
「頼もしいですわね。」
目を鋭くし光らせてニヤつきながら言う。
容姿と相まって表情がとてもかっちょえぇ。
「ビービー、事件発生。○○区○○通り○○―○○。」
「早速ですのね。アズスンアズで向かいますわよ!」
ハコは特に驚いていない。いきなりこんな音なったらビックリするのに。
ってことは前からここで一人で活動してたのか?覚悟が違うぜ。
「やるんだな、箱子。今からそこで!」
「えぇ戦いは今、ここから始まりますわ。」
◇
状況は立てこもりである。住宅街のある一軒家。犯人が母娘の親子を人質にしているらしい。
「ここか。」
警察がもう取り込み中のようだ。立ち入り禁止のテープを貼り、その手前に数人の野次馬がいる。よくある刑事ドラマのワンシーンみたいだ。
「なぁハコ。俺の事をララって呼んでくれないか?俺はもうハコって呼んでるし。しかもその方がなんか良いだろ?」
「……良い案ですわ。ララ。」
そう言いながら髪を手で靡かせて立ち入り禁止テープを潜り抜ける。
警察も事情をすでに把握しているようで何も言わぬ。
「へっ。決まってるね。」
いちいち行動がカッコいいのである。そこに痺れる憧れる!という奴だろう。小学校の頃によく友達と真似した。
「オラぁ!早く金を用意しろ!!!さもないとこいつらどうにかしちゃうぞ!」
と犯人は狂気を知らせてくる。あと、なんだ、どうにかしちゃうって。
黒いニットに黒マスクとサングラスに上下の黒ジャージ。いかにもだな。いかにも過ぎるけど。
「いつものはございます?」
とハコが警察に尋ねる。
「こちらです。」
警察官は盾を2枚渡す。しかも透明。なるほど鏡としての機能を持ってるのか。
「ありがとう。」
ハコは目くばせをして丁寧にお礼を伝える。
「あれ?箱子ちゃんじゃないか!」
何だかハコの後ろから迫力のある警察官が迫ってくる。
「あら、真律さんではありませんか。こんにちわ。」
どうやら知り合いのようだ。
やはり先ほどの何も言わぬ警察とから考えるに前から警察と協力してこういう活動をしていたんだろう。
「こんにちわ。箱子ちゃん、また協力してくれるんだね!有難い!今回もよろしく頼む。」
「えぇ、もちろんですわ。私たちのようなオリジナルを使える人は社会貢献をしなくてはならない。そう考えていますの。ノブレスオブリージュですわ~!」
「うむ!僕もそれに賛成する。そしてこんにちわ!初めまして。隣の男子くん。僕の名前は真律直念。よろしく。」
「よ、よろしくお願いします。俺は権辺河原羅々威羅って言います。」
印象としてまずガタイがいいな。服もピシッとしてるし、しっかりとした人なのだろう。
「うん!個性的だね!見たところ箱子ちゃんに協力してくれているんだね。でもそれは許可できない。君は未成年だし一般人だ。この現場はいつも通り箱子ちゃんに行ってもらう。」
まじか。そうかそうだよな。普通の男子高校生がこんな危ない事件に関われる訳がない。
「真律さん。彼も[オリジナル」です。そして最近には強盗犯を捕まえていますわ。」
「何!?!?[オリジナル]で最近強盗犯を捕まえた?君は噂の謎の青年か。強盗常習犯を
というかやっぱり迫力が凄いな。喋るたびに圧が顔面から放たれてる。
矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛
「ララ、真律さんは、前に私が超能力関係の事件に解決のため協力したい、という話をお父様と警察庁に交渉した際、偶然警視監の補佐役で交渉を有利に運んでくれたのですわ。しかも26歳で警部補、異例ですわ。彼も[オリジナル]を使えますの。」
エリートすぎるやろ。あの圧はエリートが放つ圧だったのか?
あとこの人も[オリジナル]!?マジで偶にしか見ないのに。
「そう!だが話もここまでにしよう!速く犯人の魔の手から被害者を救出するんだ。」
「確かにごもっともだ。だがどうやって救出するんだ?」
するとすぐにハコが自信満々の表情で人差し指を上に指し、
「まず一回目のワープは盾を二階の窓より少し上まで、そして正面に限界5m移動させた場所へ。そこは空中ですから、瞬時に二階の窓にワープする必要がありますの。まぁ余裕ですわ。」
と先ほどまでの顔つきと変わり一気に真剣な表情をするが徐々に自身が満ち溢れた表情に変わっていく。考えれば考えるほど成功しか想像できないのだろう。
そして、まじまじ見ると改めてガチで綺麗だな。とぅ、とぅんく♡……冗談だ。
「わかった。そこまでいけば今度は俺だな。よし、任せとけ。俺の拳でダウンしなかった奴はオヤジとお袋くらいだぜ。」
因みにそれぞれヤクザの現総長である。経験による技術と元からの体の丈夫さでいなされる。
ハコはニヤリと笑い、
「えぇちゃっちゃと終わらせましょう。それでは、3、2、1、GO!」
俺のパンチくらいの速さで盾を移動させて、気づいたら空中。そしてまた気づいたら、部屋の中だ。
「ぬわんだぁー!お前ら!なんでいきなり!」
ご対面だ。
自分的に人気が出たなと思ったら、即座に続きをバチコリ描きます。