見習いカメラマンの朱里と春奈
9月2日。宮内朱里と吉野春奈はカルーン公国にいた。カルーン公国はメビソア公国の隣国で2人の目的はお姫さまたちの撮影。14歳で第一王女のソーニャを朱里が。12歳で第二王女のターニャを春奈が受け持つ。ソーニャたちは魔法戦士の正規のコスチュームであるチアを身にまとって撮影に臨む。王族の間でも魔法戦士は大人気。朱里たちはすでに上司のアミエルとテレンスに連れられてソーニャたちを撮影していた。でも2人だけで王族たちを撮るのは今日が初めて。朱里たちは朱里の部屋でアミエルたちに教わった呪文を唱えた。「キスイダコッべケス、キスイダコッべケス、キスイダコッべケス」すると目の前のゲートが開き、2人は異世界にいた。ジメジメした名古屋と違い、まとわりつくような湿気はなくカラッとしている。カルーン公国の首都パッサはさほど開けていないが、空気が澄み、交通マナーがいい。朱里たちは自転車が脇からビューッと突っ込んでこないことに驚いた。つい先日魔法戦士振興会事務員のマクダに「そんなバーバリアンは日本人だけよ」と笑い飛ばされたばかりだ。「つくづく日本って底辺なのね」「異世界の民度ランキングで日本なんか毎年ランク外なのもわかるわあ」2人はソーニャたちのマンションに着いた。お姫さまたちはまだ私服姿。「朱里、少しは上達した?」「まさか。最近やっとフィルムカメラを使えるようになったばかりよ」「春奈は?」「私もよ。大して変わらないわ」ソーニャたちは魔法戦士の大ファンなので日本語が少し話せる。4人は1階のリビングで雑談に花を咲かせた。お姫さまたちはミニスカート姿だが、もちろんブルマーは履いていない。白のTシャツからはブラジャーが透けて見える。朱里たちはソーニャたちのほのかな色香が好きだ。つけすぎない香水の香り。金髪碧眼で整った顔立ち。抜けるような白いもち肌。さすがに王族だけあって気品がありスタイルも悪くない。雑談が終わるとお姫さまたちはまず赤を身にまとった。朱色に近くて派手さはない。素材がチープなのにそれがかえってソーニャたちの魅力を存分に引き出している。白のアームカバーはなし。2人が所属するメビソア公国は新国家のせいか段取りがすごく下手だ。アームカバーがあればもっと映えるのに。朱里たちはローアングルからの撮影は控えた。さすがに王族の下着姿を撮るわけにもいかない。そこで2人は下着が見えるか見えないかの[絶対領域]を追求することにした。この取り組みはお姫さまたちを安堵させた。すでにソーニャたちは下着姿を撮られて公にされる覚悟を固めていたからだ。アミエルたちからは異論が出そうだが、朱里たちはあえて己の信念を貫くことにした。2人はポラロイドカメラで撮るため、すぐ写真が出てくる。朱里たちはまだ技術がないのでポラロイドにしたのだが、これまたお姫さまたちには大好評。2人は確かな手応えを感じた。続いてパープル。薄紫に近くてソーニャたちによく似合う。お姫さまたちは発育が遅れ気味だが、異世界のチアはふくらみが小ぶりな子にもちゃんと映えるよう設計されていた。つなぎではなくセパレートタイプ。上はブラジャーがギリギリ隠れるくらい短め。ミニスカートは10代向けから三十路向けまで3タイプあるが、10代向けは一番丈を短くされた。それでもなおソーニャたちはどんどん開放的になっていった。やはり同性同士で男の子の目に触れない安心感は絶大。しかもローアングルから撮られないのだ。休憩に入るとお姫さまたちは朱里たちとの雑談に花を咲かせた。「朱里は参戦しないの?」「玲子からもせっつかれるけどね。さすがに三十路にもなってチアはないでしょ?」「春奈は参戦しないの?」「美月からもせっつかれるけどね。私たちもう三十路だからね」休憩が終わると最後はブルー。紺色に近くてソーニャたちは凛々しく見えた。朱里たちはお姫さまたちの勇姿を撮ることに熱中した。撮影が終わってもなおソーニャたちは着替えることすら忘れていた。なのでなし崩し的に撮影が続行された。リアルに戻った2人は上司たちに絶賛された。てっきり怒られるかと思ったが、アミエルたちは意外なほどゆるい。「現場の仕事はそれでいいのさ。上司の判断は絶対じゃないよ」「相手は王族だからね。下着姿は必要ないさ」このあたり異世界は柔軟だ。これが日本なら違っただろう。「異世界は覗き見主義を蛇蝎のごとく忌み嫌うんだ」「そうなの?」「日本と同じじゃ滅びるだけさ」彼らは決して覗き見主義に走らない。お茶の間で王室や皇室を覗き見するような国は品性下劣に決まっている。「僕たちが品性下劣じゃダメなんだよ」「確かにね」朱里たちは過激なまでにアンチ日本ではないが、異世界の世界観は深く共感できるし極めて健全だと思う。2人は単価の高さも魅力だが、異世界の世界観が好き。もはや日本は滅ぶのみ。朱里たちは日本から出たいと望んだ。