マグマより炎の方が最高温度は高いがどっちも燃やすには十二分だ。
ここではない世界。
昼間だというのに薄暗い、重い灰色の雪雲に覆われた極寒の海、
遠方から流氷がたどり着いたのか水平線から白い塊が黒い海の上を漂っている。
鳥は羽音を灰色に溶かし、獣は鳴いて森の静寂を強調していた。
突如として海岸の方から地鳴りが轟く。
青白い氷塊が突き出し、雪煙を上げ、深緑の森を削っていた。
雪の積もった巨大な氷塊は、まさに雪山といったところか。
この雪山が他と違うのは意思を持って人の命を奪うということだ。
それは巨大な亀のようなものだった。
よく見ると頭と尾、手足が歪な円錐から伸びていて、
頭ある丸い眼はぼんやりと空を眺めている。
口にペンチのように閉じる顎があり木々を刈り取っている。
このような生物は一般的に【魔物】と呼ばれるもので、
その名の通り、魔力を持ち魔法を操り、魔力を欲する化け物だ。
どんな生き物も変質しうるし、【魔物】として生まれるものもいる。
魔力は主に他者を食らうことで増加できるため、
とりわけ、魔力がありながら脆弱な人間を好んで襲う。
魔物の前に人影が一つ現れた。
それなりに魔力があるようで、丸い眼が自分より矮小な影に意思を向ける。
--美味そうだ。--
魔物に対峙した人間が大きく詠唱する。
「契約者たる我が呼びかけに異界より応え給え!」
虚空に魔力の光が軌跡を描き魔法陣を形作る。
魔法陣を中心に力場が発生し、空間を歪めながら煌めく。
溢れる魔力に興奮したのか喉を鳴らし、大地を四足で踏み砕く魔物。
瞬間、眼前に現れたエサに襲い掛からんと、
巨体から想像できないほど鋭く伸びた!
「出でよ、召喚獣! 炎の化身 -イフリート- !!」
炎が溢れ、赤い奔流が雪山を焦がす。
汗か溶けた氷か、辺りに撒き散らしてたじろぐ魔物。
炎の中に人ともう一つ異形の影が浮かび上がる。
【召喚獣】を使役する彼の者は、【召喚術師】である!!
~~数分前~~
けたたましく召喚獣コール音が鳴った。
受付が召喚獣待機部屋にコールをつなぐ。
「イフリートさん、ラスト幻想世界から呼ばれるわよ!」