金色に照らす 8
天正十年(1582)三月一日の夜、高遠城を囲む山々には、城の内まで照らすかのように織田軍の篝火が焚かれていた。
金太夫は武田家臣、今福昌和らと共に、法幢院曲輪にて戦の仕度を整えていた。
夜が明けようとしている。
三峰川を挟んだ正面の勝間村に陣取る滝川軍に動きがあるのを、金太夫は確認した。
「来るぞ」
金太夫は、傍らにいる昌和に声をかけた。
「川を渡ってくるところを攻め立てましょう」
金太夫と昌和は配下に下知すると、門を出て物陰に潜み、敵を待ち伏せた。
(三峰川の流れは速い。敵はどこに浅瀬があるか知るまい。渡るのに手間取っているところへ奇襲をかければ、勝てる)
向こう岸にいる滝川軍を見ながら、金太夫は雑賀鉢の兜の緒を締め直した。
しかし、金太夫と昌和は敵の進軍を見て驚いた。
(おかしい、なぜだ。なぜ浅瀬を知っておる)
敵は川の浅いところを迷うことなく進んでくるのだ。
「どちらにせよ、渡ってくるところを一気に襲うぞ」
昌和に伝えると、金太夫は手槍を口に咥えた。
敵が川の中ほどまで来たときを見計らって、昌和は叫んだ。
「放て!」
その声を合図に今福隊の鉄砲が一斉に火を噴いた。
直後、隠れていた金太夫の部隊が鬨の声を挙げながら、敵に襲い掛かった。
金太夫はゆったりと川辺に出ると、唐傘をぱさりと広げ、宙でくるくると回転させた。金色の短冊がきらきらと光る。
唐傘を器用に背中に指すと、手槍を握り直し天に突き上げながら叫んだ。
「俺の名は渡辺金太夫照!日の本一の槍なり!」