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金色に照らす 10

 高遠城の攻防戦は、三峰川を挟んで向かい合った滝川軍と渡辺、今福軍の戦闘を皮切りに、各方面で開始された。


 城は、西の大手門、東の搦め手口、南の法幢院曲輪の三か所に攻め口がある。


 西の大手門は、絶壁の石垣と山本勘助が設計したという勘助曲輪が設けられており、諏訪頼清ら少数の武田軍がこれを守った。


 敵味方の主力争いは、東の搦め手口で展開された。

 開戦から半刻ほどたった頃には、城主仁科盛信が城から打って出る場面もあった。

 しかし、圧倒的な数の織田軍に武田軍は城内への撤退を余儀なくされる。

 時間が経過するとともに、どこの戦場の武田軍も城門を守備するので精一杯という状況へと追い込まれていった。

 信忠本隊は東の月蔵山に着陣し、城下は織田方の軍旗で埋め尽くされた。


 法幢院曲輪を守る金太夫も何度か城外に出て戦ったが、そのたびに配下の者が死んでいった。

 又兵衛の姿はどこにも見当たらなかった。


「大手門が破られ、敵が三の丸に乱入してきております!」


 三度目の突撃から戻ってきた金太夫に、配下の者が知らせた。


 法幢院曲輪は、南曲輪、二の丸へと繋がっており、その奥に本丸がある。

 北側に位置する三の丸内の敵が、次に向かうは二の丸であった。二の丸を敵に占領されてしまうと、法幢院曲輪にいる武田軍は孤立することとなる。

 二の丸では、負傷兵の治療が戦闘に参加しない女性たちによって行われていた。


「最後の突撃を仕掛けましょう。相手も織田軍きっての将、滝川一益です。申し分ない。渡辺殿、共に戦えたこと、誇りに思います」


 先ほどの報告を横で聞いていた昌和が、目をぎらつかせながら言った。


「ああ、そうだな」


 数度の戦闘で満身創痍となっていた金太夫は、緩んでいる兜の緒を締め直すこともしなかった。

 金太夫は昌和とともに門の外へ出た。

 金色の短冊がついた朱色の唐傘は、背に指したままである。

 槍を高く突き上げ叫ぼうとしたとき、敵兵に踏まれ萎れかけている水仙が金太夫の目に飛び込んできた。


「……やり残したことを、思い出した」


 金太夫はそう呟くと、身を翻して曲輪へと駆け戻って行った。


「逃げるかあ、卑怯者!」


 背に浴びせかけられた罵声も気に留めず、法幢院曲輪から南曲輪を通り抜け、二の丸へと続く橋を無我夢中で駆けた。

 この橋を渡った先に「なんのため」という問いかけの答えがあると、金太夫は確信していた。


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