”天才”じゃがいも警察官である先輩は私の書く夏祭りの「亡者踊り」にダメを出す
◆◆問題◆◆
部室でウンウン唸っていたら、入って来た先輩が創作ノートを覗き込み
「なろうラジオ大賞のプロットかい?」
と訊いて来た。眉目秀麗・頭脳明晰な人物だ。
「舞台が西馬音内盆踊りを模した架空の祭りみたいだから、踊り手の中に本物の亡者が混じっていたというシットリ系のホラーかな」
図星である。
秋田西馬音内の盆踊りでは、踊り子は編み笠か頭巾を被り顔は出さない。
亡者踊りと称される由縁だ。
「すると『なろうラジオ大賞4』のルール上、ジャンルはホラー、タイトルに含む心算のテーマ・ワードは『夏祭り』だね?」
これもアタリだ。
私はタイトルを『夏祭りに亡者は招く』に決めていた。
「だとしたら詐欺になっちゃうよ? 見逃してくれる人は見逃してくれるだろうけど、怒る人もいるかもしれない」
どういう事なのだろうか?
幽霊を模した踊り子が静かに舞っているなか、本物の幽霊が踊りに加わっていたとしたら――そう怖くはないかもしれないけれど――充分に怪談としての要素は含まれていると思うのだけど……。
「ああ、そうじゃない。ジャンル詐欺と言っているわけじゃないんだ」
先輩は私の表情を見て、そう微笑んだ。
「幽霊が僕で、それを見つける”私”がキミだとしても、恋愛ジャンルだろ? なんて言う気は全然無いんだ」
◆◆解答◆◆
「今年の立秋が何時なのか覚えている?」
先輩は急に話題を変えてきた。
今年の立秋は8月7日。
ここ福岡では36.4℃と、気温が体温なみに暑い日だったから覚えている。
「そう! 8月7日だ。だから、この日以降に暑中見舞いは出せない。残暑見舞いにしなくちゃね。不条理に思えても、8月7日以降は秋なんだよ」
……やられた。
盆踊りは夏祭りではなく、秋祭り……か。
「理解できたようだね。夏祭りをテーマ・ワードに据えるなら、舞台は博多祇園山笠か京都祇園祭あたりの時期にしなきゃ。そもそも盆踊りは盂蘭盆会に付随した行事だから、俳句でも秋の季語。ちなみに踊りだけでも季節は秋だ」
プロット、一から練り直しだな。
ためいきと共にノートを閉じた私に、先輩は「で、どういったラストシーンにする心算だったの?」と追い打ちをかけた。
「さぞ浪漫チックなエンディングを考えていたんだろうけど」
「お札を突き付けられて先輩は退散するんですが、先輩の断末魔が『ぎゃああ』なのか『ぐわああ』なのかが決まらなくて」
確信を持って断言するが、先輩は自分が考えているほどモテるタイプじゃない。