わたくしは今、
「アル様ぁ、レーネ、アル様のために昼食作りました~。食べてください」
「レーネ!走ったら危ないよ。気を付けて。一緒に食べるから落ち着いて。大地を司る神々に感謝を」
「•••ごめんなさい、アル様。レーネ、アル様を見るとアル様に早く会いたくて走っちゃうの」
「気を付けてくれれば良いんだよ、レーネ」
まただ。わたくし、セリア=トパーズの婚約者、アルノルト=ラピスラズリ王太子殿下とタンタル男爵の庶子であるレーネが馴れ合っている。婚約者であるわたくしの前で。
レーネはタンタル男爵が使用人に手を出して生ませた子だ。レーネとその母親は平民街で暮らしていたのだが、母であるカンナが亡くなったことと、レーネの属性に雷が入っていたことから引き取られたらしい。
そして貴族学園に急遽編入した。
入学したレーネは、高位貴族の嫡男に声をかけたりボディータッチをしたりと貴族にあるまじき行為を繰り返した。
それでもある程度受け入れられているのは、従来の貴族子女との違いが魅力的だから。
わたくしたちのような典型的な貴族とは全く違う彼女は、学園に新たな風を吹かせている。
「レーネ、いつもありがとう。君といると、問題が解決したような気がするよ」
「アル様ぁ•••」
アルノルト殿下がレーネに蕩けるような視線を向ける。
レーネが殿下に抱きついた。
「セリア=トパーズ!君とは婚約を破棄する!」
ついに恐れていた事態が起きた。
学園卒業パーティーでの婚約破棄。
レーネが歓声をあげる。
「本当ですかぁ、アル様ぁ。レーネ、嬉しい! だってこれでアル様とレーネ婚約でき、」
「何をいっているのだ、レーネ」
そう言いながら殿下がこちらに歩いてくる。
「セリア、さっきの言葉には続きがあるんだ。セリア。私と今すぐ結婚して、私のものになって。もう耐えられないんだ•••!」
「えっ?」
レーネとわたくしの声が重なった。
「ねえセリア。私がレーネと一緒にいたのはね、タンタル男爵の犯罪の証拠を探すため。レーネを油断させて、証拠を出させたんだ。セリア、怒ってる?セリアのことは誰よりも好きだよ。許して•••」
「そう言われたら、許すしかないではないですか•••」
彼が向日葵のように輝く笑顔を見せた。
「良かった。じゃあ、行こっか」
「えっ?どこにですか?」
「私の部屋。」
良いながら殿下がわたくしを抱き上げた。
耳元でささやく。
「ここ一年、セリアと仲良くできなかったからね。私の一年分の愛を受け取ってもらわないと」
「セリア、体調は?大丈夫?」
「大丈夫です。アルノルト、様」
「まだ慣れない? でも、子供が生まれる前に慣れてね」
そう、あの後結婚したわたくしは子供を授かった。後一ヶ月で生まれる予定だ。
アルノルト様は毎日わたくしのお腹に声をかけている。
もうあの頃のような不安はない。
過保護だけれどわたくしを愛してくれる夫と、新しい命に囲まれて、わたくしは今幸せです。
読んでいただきありがとうございました!
今後ともよろしくお願いします。