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1000文字以下の短編集

人生やりなおし交差点

作者: 中村くらら

「第3回小説家になろうラジオ大賞」用に1000文字以内で書いた掌編です。

※自死を思わせる描写があります。苦手な方はご注意下さい。

 初めてその交差点に立ったのは、入社五年目のある帰り道のことだった。

 残業続きで心も体も限界で、慣れない酒で泥酔し、もう何もかも投げ出したい気分で差しかかった交差点の歩道橋。

 手摺を乗り越えた体が宙を舞う。落下し、アスファルトに打ちつけられた瞬間、僕は人生やりなおし交差点の真ん中に立っていた。


 四方向に延びる道の一つを選んで進む。眩い光に包まれ、気づけば入社式の日に時間が巻き戻っていた。

 こんな会社うんざりだと思っていたのに、僕は辞めなかった。気になる人ができたからだ。

 紺野美琴さん。

 経理部の、二つ上の先輩。技術部の僕との接点は少なくて、一回目では面識があるという程度の関係だった。

 二回目で意識して見ると、美琴さんはとても素敵な人だった。真面目で気配りができて、一見地味だけど実は美人。誰に対しても柔らかな笑顔で接する彼女に恋人がいないのは奇跡に思えた。

 でも僕は一度だけ、美琴さんの涙を見たことがある。その理由を、僕は絶対に知らなきゃならない。

 どうにか美琴さんに近づきたかったけど、そううまくいくなら彼女いない歴=年齢なんてことにはなっていないわけで。

 僕の二回目は空回って終わった。


 三回目、僕は入社直後から経理部への異動願いを出し続けた。

 四年目に念願叶って経理部へ移った僕は、つぶさに美琴さんを観察し、彼女に秘密の恋人がいることを知ってしまった。相手は営業部のエース。もちろんイケメン。

 失意の内に三回目は終了した。


 四回目、今度は営業部に異動した。

 エースの弱味を握るために。その結果、奴に美琴さんとは別の婚約者がいるという事実を掴んだ。

 美琴さんの涙の原因はこの二股野郎に違いない。

 だが奴は狡猾だった。僕はまんまと嵌められ、不正の疑いをかけられて会社を追われた。

 四回目はこうして終わった。


 五回目。

 交差点から延びる四つの道の、最後の一つに進む。やり直しもこれが最後だという予感があった。

 僕は最も堅実な道を選ぶことにした。極力一回目と同じように過ごし、入社五年目のあの日あの時刻に、あの交差点に向かった。あの日と違うのは、気力体力共に充実していて酒も飲んでいないこと。

 歩道橋を駆け上がると、そこに彼女の姿があった。

 手摺を乗り越えようとする美琴さんの腕を掴み、強い力で引き戻す。

 間に合った。今度こそ。

 呆然と座り込む美琴さんに、四回分の想いを込める。

「やり直しましょう、ここから」

 応えるように、彼女の瞳から涙が溢れた。

お読み頂きありがとうございました。

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