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8.え? 何か言った?

「あの、政樹さん」

「ん?」

「宮崎さんって、……えーと。変わった人ですよね」

「うん、お前にだけは言う権利ないと思う」


 またどの面下げてどの口がと言いたくなるような台詞を口に上した岡田に、俺はため息をつく。

 いつもより幾分大人しいが、思考がおかしいのは普段と変わりないようだ。


「お前さ、やめろよ、マジで。現実と二次元とがごっちゃなのはこの際自由だけど、他人様に迷惑掛けるのはどうかと思うよ、ほんと」

「ガチ説教やめてください!」


 せっかく大人しかったのにぎゃんぎゃん吠えてきた。


「迷惑なんて掛けてませんよう。……怖くて掛けられたものじゃありません」


 岡田はふてくされた様子で何やらぶつくさ言っていたが、後半はよく聞き取れなかった。

 まぁ、どうせ妄言なので問題ないだろう。


「政樹さん。悪いことは言いません。宮崎さんは止めておきましょう」

「だから止めろって言ってるんだよ、俺は。最初から」

「キャラ立ちの枠に収まらない闇を見た気がします。その内『ぼく以外を見る目なんて、いらないよね?』とか言って眼球をくりぬいてきそうな幼なじみランキング殿堂入りです」

「お前から見たマモ、どうなっちゃってんの?」


 勝手に人の友達を変なランキングに入れるな。

 あんなに大人しくて無害なやつはそうそういないと思うのだが。


「お前のバイアス通したら犬でもゴジラに見えてそうだな」

「私の求めてる無自覚鈍感系じゃない……」


 岡田ががっくりと肩を落とした。

 いつも爛々と鬱陶しいほどに輝いている目が、今日はどんより淀んでいる。


「政樹さんが犬だと思って飼ってるの、チュパカブラなんですよ……」

「チュパ……何? 生き物?」

「無自覚鈍感系主人公は結構ですけど、方向性が違うんですよ。バンドだったら解散してます」

「解散していいんだけど。俺は。そのバンド」


 無自覚鈍感系って何だ。どんな系統だ。

 皆が皆自分と同じ認識を持っていると思ったら大間違いである。早く社会に出て大海を知ってほしい。


「恋愛面だけで良いんですよ、無自覚鈍感は。己の危機管理には人一倍敏感であって欲しいくらいですよ。たまに『え? 何か言った?』とかでちょっと都合のいいときだけ耳が遠くなってくれればそれで十分なんですよ」

「え? 何か言った?」

「ちょっと! ふざけないでください!」

「そっくりそのままお前に返すわ」


 ふざけているやつにふざけるなと言われるこの理不尽である。

 ブーメランとはこのことだろう。


「こっちは真剣なんですよ!」

「なお悪いわ」

「あれ? サキくん?」

「お。マモ」

「ヒェッ」


 四つ角でマモと出くわした。

 岡田は悲鳴を上げて俺の後ろに隠れる。失礼なやつだな、ほんとに。


「おはよ」

「おはよう」

「オハヨウゴザイマス……あの、違うんです、これは、誤解です……登校イベントとかじゃなくてですね……」


 怯えた様子で返事をする岡田。何やら必死で弁明していた。

 その後も口をつぐんでしまって、マモが話しかけても一言二言返事をするのがやっとという様子だ。

 なるほど。これは快適だ。


「マモ、明日から一緒に登校しないか?」

「え? どうして?」

「お前がいると岡田が大人しいから」

「ちょっと! 政樹さん!! 何故自らバドエンに突っ込もうとするんです!」


 バドエンって何だ。バトえんの親戚か?


「ふぅん? ぼくが来る前は、どんな話で盛り上がってたの?」


 ぎゃいぎゃい言い出した岡田だったが、にっこり笑ったマモに問いかけられて、またぴたりと停止した。

 そして、搾り出すように言う。


「…………チュパカブラの話、とかですか、ね?」


 だから、それはいったい何なんだ?


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