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5.現実の世界にはカットインもフェードインもない

「むむう。トランスな男の娘ときましたか……いきなり設定がハードですが、いやしかし、昨今この程度の設定ありふれていますし、何しろ幼なじみというキャラクターに必要な要素は一通り揃えているようですしねぇ」


 明くる日。

 そんなふうに「え? 誰に話し掛けてるんですか?」と聞きたくなるほど長くて明瞭な独り言を口にしながら、岡田にこはてくてくと廊下を歩いていた。


 周りの生徒たちは、ドン引きしきった表情で彼女を遠巻きに眺めている。

 その冷えきった視線を気にするふうもなく、岡田は廊下を突っ切り、階段に差し掛かった。


 さて、彼女が何故唐突に長くて明瞭な独り言をこぼすという奇行に走ったのかといえば――彼女が常に奇行に走っていると言ってしまえばそれはそれで正しいのだが――何のことはない、彼女は朝からずっとあの長くて明瞭な独り言を繰り返し続けているのだ。


 朝登校する時、登校した後、ホームルームの後、一限のあと、二限のあと、三限のあと、四限のあと、昼休み、五限のあと、六限のあと、そして放課後。

 ことあるごとに折に触れて、彼女はあの独り言を言ったかと思えば、脈絡もなくふらふらとあちらこちらに歩いて行くのだ。


 それはいつカットインフェードインが入ってもいいようにという、彼女からしてみれば製作側への気遣いだった。

 しかし現実の世界にはカットインもフェードインもないという事実に、彼女は気づいていなかった。


 彼女はてくぽく階段を下りる。

 先程までと違って、今回はきちんと目的があった。


 突如現れた政樹の幼なじみについて情報を集めるべく、つきまとうターゲットを高橋政樹から宮崎護へとシフトした彼女は、護の姿を探して今日一日駆けずり回っていたのである。

 彼女にとって、護の存在は暁光だった。待ちに待った幼馴染。

 そして、彼(?)が政樹の事を憎からず思っている事は間違いない。


 岡田は時折スキップをしながら、台詞とはうらはらにご機嫌な足取りでもって、踊り場でくるりとターンしてみせた。一体誰に見せたのかは分からないが。


 偶然にホイッと出会うのが彼女の中ではベストだったのだが、さまざまな場所を巡り歩いても、護の行方は杳として知れなかった。


 仕方なく、岡田は事前に調べておいた護の教室へと向かう。

 しかしそこにもターゲットの姿はなかった。


 もう帰ってしまったのだろうかと半ば肩を落しながら、たまたま近くにいた女生徒をつかまえて尋ねる。


「え? 宮崎さん?」


 いきなり見ず知らずの後輩に声をかけられ、面食らった様子だったその女生徒は、戸惑いながらも岡田の問いに答えた。


「宮崎さんなら保健室よ。体調悪かったのに無理してたみたいで、倒れちゃったの」


 その言葉を聞き終わらないうちに、岡田の姿はそこから掻き消えていた。


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