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3.ハーレムものの主人公として最も大切なこと

「……差し当たって、俺に何をしろと」


 根負けして、俺は聞いた。


 といっても、簡単に屈したわけではない。

 どこで調べたのか、俺の家から学校までつきまとい、さらに休み時間という休み時間にまでつきまとい、その上放課後の教室までまたつきまといに現れたので、致しかたなく、である。


 いつでも何が楽しいんだと聞きたくなるようなてかてか笑顔だった岡田は、俺が反応したのが余程嬉しかったのかなんなのか、さらにぱっと顔を輝かせ、結局まとわり付いてきた。


「やっとやる気になってくれましたね、政樹さん!!」

「いや、やる気とかじゃ」

「まずハーレムものの主人公として最も大切なことが、政樹さんには足りません!」

「聞けよ」

「それは観察力と表現力です! よいですか?」


 岡田は突如俺の前に背筋を伸ばして立って、くるくると回り始めた。


「政樹さん、今まで私のことを地の文でどのように表現なさいましたか?」

「地の文って、何」

「書籍化される際に大部分を占めるモノローグ、つまるところ政樹さんの心の声ですね」

「心の声ねぇ……」


 要は、俺が心の中で岡田をどう形容したか聞きたいらしい。

 急にそんなことを言われても、思い出せる単語といえば……


「後輩女子」

「なるほど、他には?」

「二次元と現実の区別がつかなくなっちゃった人」

「的確で泣きそうです!」


 そうじゃなくてですね、と、岡田は俺の机を勝手にばしんと叩く。


「外見上の特徴です、外見」

「ああ」


 そう言われて、俺は手を打った。


「中の中のちゅ」

「ちっがーう!!」


 ずだーん!!

 帰り支度のすっかり終わった机が、ごとごと揺れた。


「もっと具体的な特徴を述べて下さい! 活字で、モノローグで萌えさせられたならイラストがつけばもっと萌えるに決まっているのですよ!!」

「もえ……?」

「いいから!」


 急かされて、仕方なく岡田を上から下まで眺める。


 髪は濃い茶色、レンズが巨大なふちなしの丸眼鏡、短いのに無理矢理縛ったような二つくくり。

 あとはうちの学校の制服。ブレザーと、セーター。スカートは長くも短くもなく、まあ、普通の丈。

 靴下は紺で、一年生なので赤いスリッパ。


 うん、こんなもんだな。


「ダメダメですね……」

「俺何も言ってないですけど!?」

「最低でもこれくらいやって頂かないと」


 髪は優しい亜麻色で、その小さな顔の二分の一は覆うかと思われるふちなしの眼鏡をかけており、髪は低い位置でツインテイルに結ばれている。

 眼鏡のせいで表情は窺い知れないが、溌剌とした明るさの中にも、どこか知的な雰囲気を感じる。


 白の長袖シャツの上から、アイボリーのセーターを羽織り、赤いリボンと紺のプリーツスカートが相まって、初夏らしいマリンスタイルを思わせる着こなしである。

 長すぎず短すぎずの絶妙な丈のスカートからは色白で引き締まった脚が伸び、白い肌と紺のハイソックスのコントラストが瞳に眩しい。


 一つ後輩の一年生とあって、足元には真新しい赤色の上履きが輝いていた。


「ざっとこんな感じですかね」

「いらん尾鰭がつきまくっている!」


 何だこの華美な文章。

 ざっと二倍近く量が増えているのに全く的を射ていない上に情報量は変わらない。


 ああ、駄文というのはこういう文章のことを言うんだな。


「よいですか、ハーレムものにおいて女の子キャラの描写ほど重要なものはありません。主人公などただの語り部、おまけです。アニメ化の際に存在を抹消されるというのも一昔前はよく聞いた話です」

「はぁ……」

「つまり政樹さんにはうってつけ! いいえ、もっと個性をなくしても良いくらいです! 前髪を伸ばして目を隠してしまいましょう! キャラ設定も『普通の少年だがやるときはやる』くらいの薄っぺらなものにまとめてしまいましょう!!」

「それはまた果てしなく薄っぺらいな」


 言って、俺はかばんを持って歩き出す。

 さすがにいきなり乗り込んできた後輩女子に机をばんばん叩かれる先輩男子という構図は、周囲の目が痛かったのである。


 俺が歩くと、岡田も足元にうっちゃっていたかばんを拾って追い掛けてきた。


「とにかく観察力と表現力です! 間近に迫った体育大会までに、競技に挑戦する女の子の体操服姿を微に入り細を穿ち形容する能力を身につけなければ……」

「何、その社会不適合スキル」


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