24.こんな計画に乗る馬鹿が三人もいるとは
「そもそも政樹さん、『政樹さん』という名前が地味です。特に字面が地味です」
「とうとう生まれもったものにまでいちゃもんをつけはじめたか」
「これからは『鷹破刺魔鎖鬼』と名乗ってください」
「なんだその痛い名前。絶対初見で読めないだろ」
「かっこいいでしょう!!」
「お前のセンスおかしいんだよこの前の制服といい!」
「黒い流星と呼ばれてください」
「やだよ、誰にだよ」
字面すべてが痛々しいわ。
「鷹」はまだしも「破」と「刺」と「魔」と「鎖」と「鬼」が同居する名前ってどんなんだ。
せめてどれか一文字にしてくれないと収拾がつかない。
テストのとき名前だけで時間がかかって仕方がないじゃないか。
いつも通りの岡田の妄言を聞きながら、俺は家路を急ぐ。
夕方生徒会の仕事を終えてみるともう六時を回っていたため、少し遅めの帰宅である。
遅くなると母親がうるさいので、出来るだけ早く帰ってしまいたい。
薄暗くなった、人通りの少ない道路を歩く。
ふと、岡田のこうるさい話し声が聞こえなくなったのに気がついた。
振り向くと、岡田は五メートルほど後ろで立ち止まっている。
「どうした、岡田」
「政樹さん」
声をかけると、岡田はいつになく真剣な表情で俺の名前を呼ぶ。
そして、言った。
「ごめんなさい」
「え?」
意味がわからず首を傾げると、俺の肩が何者かに叩かれた。
振り向くと、そこには。
「お前、何道のど真ん中で突っ立ってんの?」
見たこともない、二十歳くらいのゴツいお兄さんが三人、立っていた。
俺はただ口を開け放し、見上げることしか出来ない。
「何だよ、その顔。謝れって」
「しかも女連れだぜ、こいつ」
「ふーん」
三人が、俺の周りを囲むように立ちながら、見下ろしてくる。
いや、ちょっと待て。
なんだこの展開。
おかしいだろ、ぶつかりもしてないのに、何でいきなりいちゃもんを付けられているんだ。
「ちょっと、調子に乗ってね?」
やばい。これは決定打だ。
ほんの一瞬立ち止まっていただけで、何故、金髪・坊主・ツンツン頭のいかにもな三人組に、絡まれなければならないのか。
「何とか言えよ」
どっと、肩を押され、そのまま尻餅をつく。
男たちの隙間から、岡田の姿が見えた。
相も変わらず、突っ立っているだけである。
「岡田……」
俺の呟きに、岡田は俯いて、小さく答えた。
「ごめんなさい」
「ごめんなさいだと、さ!!」
突如、腹部に激痛。
蹴り上げられたのだ。
「見捨てられてやんの」
「ださー」
男たちはげたげた笑うが、そんなことはどうでもよかった。
謝った。
謝りやがった。
それはつまり、この一連の有り得ない出来事が、自分の差し金であると認めたのと同じだった。
笑い声、そして時折加えられる暴力。
それがどこか、遠くの出来事のように感じられる。
全部全部、岡田のせいなのだ。
そうでなければ、今時こんなヤンキーが、肩もぶつけていないのにこんな絡み方をしてくるなんて非現実的的な出来事に説明がつかない。
どうせ、やつのテリトリーである二次元関連のお友達に――多分ネットとかで――助力を求めたのだろう。
こんな計画に乗る馬鹿が三人もいるとは、世も末だ。
「サンドイッチ公爵さん、ちーかまさん、ワードワールドワーストさん、じゃんじゃんやっちゃってください!」
名前ダサっ。
ていうかお前ごめんなさいどこ行ったんだ。
いつになくぺかぺか笑顔じゃないか。
いくらピンチになっても、俺にはスーパーパワーとか特殊能力とか、そんなものはない。
沸いて来るのは、岡田への怒りと諦め。
またかよ、もう。お前のせいでボコボコにされるのは、もう二度目だ。
何が悲しくて、同じ人間のせいで二回もボコボコにされなければならないのか。
そもそも何故俺は、自分のことをボコボコにしたやつと一月近くも行動を共にしてきたのだろうか。
もっと早く、しっかりと拒絶しておくんだった。
「いいぞもっとやれー!!」
叫ぶ岡田を横目で見、俺は諦めが怒りを通り越した。
過去の自分を責めても仕方ないし、どう考えても俺より岡田の方が悪いのは明確なので、俺はただため息と共に目を閉じる。
すべてが岡田の計画なら、逆らっても無駄だろう。
俺の不思議な力とやらが目覚めるか、もうそんな力は目覚めないと分かるか。
そうなるまでは、ただ耐えておくのが吉だ。
俺をピンチに追い込むのが目的のはずだ、それほど大それた真似はしないだろう。
「オイ、スカしてんじゃねーよ」
「っ!?」
思い切り蹴り上げられ、息が詰まる。
それと同時に、「ゴッ」と音がした。
腹部をかばっていた右腕から鈍い音がして、感覚がなくなる。
痛いというより、熱い。妙な感覚だ。それに、あの嫌な音。
「あ、ごっめーん。骨イッちゃったー?」
金髪の男が、俺を見下ろす。
俺の胸に、足を下ろした。
「ほんと、ごめん、ねっ!!」
「か、……はっ!?」
そのまま体重を載せて、踏み付けられる。
ぱき、ごき。
細くて固い何かが、折れた音。
思わず声が漏れた。だんだんと痛覚が追いついてきた。体中どこが痛いか分からないような激痛が走る。
おい、まさか、嘘だろ。
手加減とか、そういうのなしなのか。
くらりと意識を手放しかける。しかし断続的に加えられる痛みのせいで、それすらもままならない。
「寝ようとしてんじゃねーよ」
笑い声が脳内にガンガン響く。
頭が痛い。頭には何もされていないはずだが、ぐらぐらと脳みそが揺れる。
「あ、あの、もういいんじゃないですか!?」
「はぁ?」
見兼ねた様子で、岡田が口を挟んだ。
三人の視線が岡田に向く。
ああ、よかった。やっと終わるのか。
何もよくはないけど。終わったら普通に通報するからな、俺は。
「さすがにやりすぎですよ! もう、充分わかりましたから、だから」
「何言ってんだ、お前」
岡田の言葉に、三人は首を傾げ、代表してツンツン頭が言った。
「つか、お前誰だよ」
「え?」
え?




