22.それもこれも、政樹さんが普通だから
夜2話分更新しています。
この前にも1話ありますのでご注意ください。
「むーん、このままだと非常によろしくありません」
自宅でも明瞭な独り言を忘れない岡田にこは、ベッドの上でかわいいんだかかわいくないんだかよく分からないキャラクターの抱き枕を抱きしめながら、仰向けに寝転がっていた。
パジャマ姿で髪も解いて、完全にオフモードである。
そのままごろごろ転がり、寝転んだままベッドの脇の机の上に手を伸ばす。
そしてごちゃごちゃした机の上から、「高校二次元化計画」と書かれたノートを抜き出した。
俯せになり、ぺらぺらとページをめくる。あの制服の絵が書かれたページを幾分か過ぎた所で手を止めた。
ページの真ん中に、「高橋政樹」と大きく書いて丸で囲んであり、横にかろうじて人間の顔だと思われ、なんとなく男性だと分かるようなイラストが書かれていた。
察するに、政樹の似顔絵のようである。
政樹の名前の下には「地味」「普通」「平凡」「ことなかれ主義」と、彼女からしてみれば罵詈雑言に当たる言葉が書き連ねられている。
そして彼の名前の周りには、「宮崎護」「西條百合子」「高橋明」という三人の名前がそれぞれ、右上、左上、左下に置かれていた。
「宮崎護」の名前の下には、「幼なじみ」「同級生」「男の娘(本当は女の子)」などと書かれている。
そして彼女の名前から政樹の名前に矢印が伸びており、「♡?」と書いてあった。
「西條百合子」の名前の下には、「先輩」「お嬢様」「女王様」などと書かれあり、彼女の名前からも、やはり政樹へと「♡?」の矢印が伸びている。
「高橋明」の名前の下には、「年下」「妹」「お義母さん」などが書いてある。
矢印は政樹に向いていて、またも「♡?」の表記。
「皆さん、政樹さんのことは好きなんですよ」
「♡?」の矢印を指先でなぞりながら、岡田は呟く。
「ただ皆さん、アプローチというか、愛のかたちと言うか、何かこう、……違うんですよね。だから、政樹さんは……」
岡田は、「♡?」の矢印の隣にそれぞれ逆向きの矢印を一本ずつ書き、その横に文字を書いていく。
「宮崎護」には「男娘友達」、「西條百合子」には「女主人様」、「高橋明」には「母妹さん」と岡田の造語であるらしい単語を書き込んだ。
本人には自覚がないようだが、岡田は中二病を患って久しい。
造語を作ったり、読めないルビを振るのが大好きだった。
「……こんな感じですか。誰ひとり、恋愛に発展していないんですよね。女性の方々も、驚くことに今の関係に満足しているようですし。……思いを寄せているらしい女性が三人もいるのに、何でしょう、何でこんなに残念なんでしょう。こんなに羨ましくないハーレムものってあります?」
ぐるぐる転がりながら、岡田はため息をつく。
そして眉間にしわを寄せて、口を尖らせ言う。
「それもこれも、政樹さんが普通だからいけないんです。政樹さんに何か特筆すべき点があれば、皆さんもっと政樹さんに対してグイグイくるはずなんです」
自分の言っていることにどこか理不尽な点を感じながらも、岡田は独り言を続ける。
「三人もの女性に想われているのです、政樹さんには何か隠された、特別な力があるはずなんです……ここは、私が一肌脱ぐしかありません」
むくりと身体を起こすと、拳を握り、腕を力いっぱい振り上げた。
「政樹さんの力、私が呼び覚ましてみせましょう!!」




