14.生徒会長様のお通りですよー! どけどけぃ!!
「せっかくの先輩お嬢様キャラがー」
「まだ言ってんのか」
「だってあれほどの逸材が他にいますか!? いいえ、いません!!」
「お前反語法好きな」
相も変わらず岡田に包囲されながら、俺は学校へ向かっていた。
包囲しなくても、行き先は同じなのだから別に逃げたりしない。
「しかし政樹さん、全く生徒会長らしいことしませんねぇ」
「ほんと失礼だなお前! ちゃんと仕事やってるだろ!」
「そういうのじゃなくて、もっとこうドーンと」
「例えば?」
「決闘による生徒会戦挙を導入するとか」
「お前、さてはまどろっこしくなってきたな!?」
いつもどおりのくだらないやりとりをしながら校門に近づくと、何か人だかりが出来ていた。
不思議に思い、しかし首を突っ込む気にもなれなかったのでスルーしようとした。
……が。
「何我関せずみたいな顔してスルーしようとしてるんです、行きますよ政樹さん!!」
そういうのが大好きそうな岡田に腕を掴まれ、ぐいぐい人だかりに引っ張り込まれる。
「ちょ、やめろよ」
「ほうら、生徒会長様のお通りですよー! どけどけぃ!!」
「やめろマジで!!」
バーゲンセール時のおばちゃんに匹敵するパワーで人込みをがんがん掻き分け、俺たちはついに円の一番内側まで来た。
はたして中心にあったのは、こんな片田舎の公立高校にはどこまでも不釣り合いな、黒塗りの高級外車。
それもつやつやぴかぴかで、いかにも新車である。
そう。まるで、「お嬢様」が乗るような、そんな車だった。
「あっ」
岡田が息を飲んだ。
車の後部座席のドアが開いたのだ。
そこから、一人の女性が大地に降り立つ。
「ごきげんよう、高橋さん」
その女性は、にこりと俺に向かって微笑んだ。
その言葉に、俺より先に岡田が答る。
「さ、西條さん!! どうしたんですか、その車!!」
「ええ、実は」
女性……西條先輩は、決まり悪そうに苦笑する。
そう。運転手つきの高級外車から降りてきたのは、まごうことなく西條先輩だった。
心なしか、髪や肌のつやもいつもより良いように思える。
西條先輩は、ばつが悪そうに頬をかき、言う。
「当たりましたの、六億」
「え」
「高橋さんが下さった宝くじ。当選していましたの。それも一等、六億円が」
「え? ええ?」
「でも、そんな大金どうしたらいいかわからなくて。試しに少し使って見たら、こんなことになってしまったのですわ」
後ろを振り返る。つやつやぴかぴかの高級外車、白手袋に黒いスーツの運転手。
試しに使ってみるの方向性が、間違いなく間違っている。
あんぐり口を開け放していた岡田は、ぽつりと言った。
「お金って……使い慣れない人が無理に使うと、成り金くさくなるだけなんですね……」
「わたくしも後から気づきましたわ」
予鈴の鐘が鳴る。先輩は「では」と手を振り、校舎へと歩き出した。
人だかりを作っていた生徒たちも、次第にそれぞれの教室を目指して散っていく。
車も、どこかへ走り去っていった。
ぽつんと残された俺は、隣につくねんと立っている岡田に、言った。
「岡田。お前の望んでたお金持ちのお嬢様だぞ」
岡田は何とも言えない複雑な表情で俺を睨み、そして苦々しく答えた。
「少し、考えさせてください」
何やら葛藤している岡田に、まだ諦めないのかと感心しながら、俺は静かに登校することができる喜びを噛み締めた。




