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10.ツ・ン・デ・レ・キ・タ――……――?

「おい、何してんだ、岡田」

「お、おおおおお」

「お?」

「お嬢様ー!!」


 岡田は突如、逆転ゴールを決めたサッカー選手のように、西條先輩の目の前で膝をついて両手を振り上げた。

 俺と西條先輩、ぽかーん。


「何をしているんですか政樹さん! 一緒に崇め奉りましょう!!」

「嫌だよ!」

「だって政樹さん、お嬢様です! 見るからにお上品でツンツンな、絵に描いたような我が儘お嬢様です! 政樹さん、これが、これこそが生徒会長ってものですよ! お嬢生徒会ですよ! 生徒会長ってのはこう、こんな感じで華があって! カリスマ性があって! 何より美人! 政樹さん、自分の顔を鏡で見てご覧なさい! せいぜい会計庶務がいいところのお顔ですよ!! 何故こんな素晴らしいお方の後継者でありながら、あなたはそんな平々凡々なんですか! ふがいないと思いませんか!? いいえ、むしろ私は何故飛び級なり何なりしてあと一年早くこの高校に入学していなかったのだろうかと思うと自分が情けなくもふがいないです!!」

「……高橋さん。誰ですの、このはしたない女性は」

「……俺にもよくわかりません」


 西條先輩はゴマダラカミキリを見るような目で岡田を見、俺に向き直ってため息をついた。


「あなたの周りにはまともな人間がいないのかしら? 品位が疑われましてよ」

「はぁ」

「わたくしから生徒会長の職務を受け継いだのです、それなりの行いをしていただきませんと」

「そうですね。すみません、わざわざ資料持ってきていただいて」

「本当ですわ。まったく世話のやける」

「ありがとうございます。助かります」


 生徒会室の机に、先輩の綺麗で丸っこい字で「生徒会照復」と書かれたノートが積まれているのを見つけ、俺は頭を下げる。


「別に、前生徒会長としての職務を果たしただけではありませんわ」


 先輩はそっぽを向きながら僅かに頬を染め、俺をちらちら見て、言う。


「あなたに喜んで欲しくてやっただけなのですから」

「ツ・ン・デ・レ・キ・タ――――……――?」


 と。

 先輩の言葉に、岡田は雄叫びを上げ、そしてついでに語尾も上げた。

 文字に表すと「キタぁあああ(この辺まで雄叫び、ここから先疑問形)ああああ?」みたいな、とにかくなんとも言えない感じに無理矢理疑問符をくっつけてきた。


 かくん、と首を傾げ、西條先輩に目を向ける。


「『別に、あなたに喜んで欲しくてやったわけではありませんわ』?」

「いえ、逆です」

「『前生徒会長としての職務を果たしただけですから』?」

「いえ、だから、逆ですわ、逆」

「え、え。あ、あれ? ち、ちょっと待って下さい、あの、えっと」


 ロボットダンスみたいにかくかくとへんてこな動きをする岡田。

 目が白黒して目まぐるしくぐるぐる回っている。


「て、照れ隠しは? ツンデレ特有の、かわいらしくも面倒くさい、照れ隠しは?」

「いえ、わたくしの嘘偽りない素直な本音です」

「ほ、本音?」

「ええ。ですから、わたくしが高橋さんに喜んで欲しくて、引いては高橋さんによく思っていただきたくて、わざわざ去年の生徒会の手元資料をまとめてお持ちしたのです」

「そ、それは、いったい、なにゆえ、そんなことに」

「そんなもの、決まっているでしょう?」


 混乱し通しの岡田に、西條先輩はとどめの一撃をお見舞いした。


「わたくしは高橋さんのことが大好きですから」

「なっ……ばっ、だっ」


 岡田は先輩に人差し指を突き付け、口をぱくぱくさせて言葉にならない声を出す。

 それを三十秒ほど続けて、そして突如、俺に向き直った。


「∀≠○▼□☆!?」

「日本語で話せ」


 マジで理解不能な言語で話しかけるな。

 岡田は俺の胸倉を鷲掴みにすると、先輩から死角になるドアの影に引きずり込む。


「どういうことです!?」

「何だよ」

「モテないんじゃなかったんですか!?」

「モテてないよ」

「なんであなたみたいに平々凡々の擬人化のような人が、あんな才色兼備なお嬢様にデレられているんですか!? 政樹さんに彼女がいるなんて初耳ですよ!?」

「いや、だって、彼女じゃないから」

「彼女じゃないぃ!?」


 岡田は「ガッデム!!」と頭を抱え、ぶんぶんとヘッドバンキング。

 表情が鬼気迫っていて、怖い。


「あんな!! あんな美人に告白されて、まさかあなた、断ったんですか!? あ、あああ、あなた何様ですか!! 政樹さんなんか、『女ならなんでもいい』って心構えでいかないと一生彼女なんて出来ないような不自由な外見してるんですよ!? わかってますか!? 政樹さんち鏡ありますか!?」

「お前ほんとに言いたい放題だなぁ!!」


 もう俺泣いてもいいよね?

 後輩女子にこんな言い様されて、もうそろそろ耐え兼ねてもいいよね?


「あのなぁ、よく考えてみろよ」


 岡田の手を振り払い、俺はその肩を掴んで諭す。


「俺みたいな、こんな……平凡で、悪いところも大してない代わりに特にいいとこもないような男に、あーんな」


 言いながら、俺は親指で背後の先輩を示した。


「美人で頭もよくてお高くとまってて? お前の言うところの我が儘お嬢様? が、告るとか……おかしいだろ、どう考えても」

「……まあ……そうですよね」

「な? ……絶対なんかあるんだよ、罰ゲームとか、勘違いとか、うっかりとか、何かの病気とか。そうでもないと、あんな人が俺なんかに告るなんて、地球がひっくり返ったって有り得ないだろ」

「……そうですよね」


 目を見ながら言い聞かせると、岡田は案外あっさりと頷いた。


「そうでもないと、あんな人が政樹さんなんかに告るなんて、地球がひっくり返ったって有り得ないですよね」

「そ……そうだろう」


 あれ、自分から言っといて若干イラッときたのはなんでだろうか。

 納得して欲しいような、欲しくないような。

 ていうか病気って。


「あの。何をこそこそやってらっしゃるの?」

「ナンデモアリマセン」


 俺たちが中々出てこないのを不審に思ったのか、西條先輩がドアの向こうから覗き込んできた。

 俺と岡田は同時に声を上げて、さっと離れる。


「……ところで、高橋さん」

「な、何すか」


 西條先輩は、瞳を冷たく光らせながら、俺に問い掛けた。


「この方、どなた?」


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