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9.お決まりのお嬢様キャラ

「おはようございます、政樹さん!! よいスーパーパワー日和ですね!!」

「……ああ、おはよう」

「こんなスーパーパワー日和ですから、今朝こそは何かのスーパーパワーにお目覚めになったことでしょう!!」

「そういや、ずっと気になってたんだけど」

「政樹さんはスルースキルだけが身についてゆきますね……」


 朝。

 名前のごとくにこにこてかてか、苛立たしいほど楽しげに、岡田にこは俺を迎えに来た。

 護がいると大人しいんだが、今日は日直の仕事だとかで一緒にはいない。


 岡田の来訪は日常と化しているので、悲しいかなもう慣れっこになってしまっていた。

 対処法ぐらい考えている。ストーカーや嫌がらせへの対処法で一番良いのは、下手に騒がないこと。


「お前、毎日そのでっかいかばん背負ってるな。何? 剣道部なの?」

「政樹さん、おばかさんですねぇ。どこの運動部が一週間分の着替え飲み水食料その他生活用品一式をしょって毎日えっちらおっちら学校に通うというのです」

「どこのおばかさんが一週間分の着替え飲み水食料その他生活用品一式をしょって毎日えっちらおっちら学校に通うんだ!?」


 思わずそっくりそのまま聞き返した。

 たしかに前々から、まるで海外旅行にでも行くような荷物だとは思っていたが。


 俺が向けるフナムシを見るような目をさらりと無視して、岡田は胸を張る。


「いいですか、政樹さん。いつ何時、どのようなきっかけで異世界からお呼びがかからないとも知れません。故に常に、準備を怠ってはならないのです!」

「…………」

「そこがどんな世界であろうとも適応し、私はその世界を救って見せましょう!」

「そうだね、もういっそのことさっさと旅立ってくれたらいいのにね」


 諦めた。

 いかんいかん、まともに相手してたら調子に乗るし、こっちの身が持たない。


「政樹さんは異世界への準備がなさすぎですよぅ」

「そうだね」

「あ、まともに聞いてませんね? いいですか、異世界というのは、何もSFちっくだったりファンタジーだったりパラレルだったりするとは限らないのですよ?」

「そうだね」

「たとえ現実に存在していようと、政樹さんとは縁遠い世界であれば、それは異世界といえます。例えば芸能界、政治界、お金持ちの世界、オタクの世界」

「ああ、最後は間違いなく異世界だわ」

「ふふふ、そうでなくては。ハーレムものの主役は軽度のオタクと相場が決まっているのです」

「俺は軽度でも重度でもオタクでもない」


 衛星のごとく俺の周りを回る岡田を連れて通学路を歩きながら、俺は肩を落とす。

 異世界の住人と話すと疲れる。外国人と話している気分だ。


「政樹さん、他人事ではないのですよ?」

「だから俺はオタクじゃないし」

「そっちではなく。政樹さんの身近にだって、いつ異世界が流れ込んでこないとも限らないのですから」

「今まさに、異世界を身近に感じてるんだが」

「そうでもなく。ほら、ハーレムものにはお決まりの、お嬢様キャラがいるではないですか」

「そんな常識みたいに言われても、知らないから。ていうか普通、知らないから」

「普通とかそういう自分の価値観を押し付けるようなことは、あまり感心しませんね……」

「どっちがだよ!」


 他の誰に言われても大して腹は立たないだろうが、お前に言われると無性に腹が立つ。

 俺の抗議に、岡田はスルースキルで答える。


「お嬢様といえば、お金持ち! そして才色兼備と相場が決まっています。深窓の令嬢系と我が儘お嬢様系に大分されますが、身体が弱い系のキャラは護さんがいますから、きっと我が儘お嬢様系でしょう」

「日本語で喋ってくれ」

「才色兼備でお金持ちで我が儘、つまりはツンデレ! 政樹さんからしたらさぞ異世界の住人であることでしょう!!」

「もうお前の時点で手に負えてないんだけど!?」


 朝から元気な奴である。塩でも撒いたら萎びてくれないだろうか。


 だいたい、こんな片田舎の公立高校に通うお嬢様がどこにいるというのか。

 都会の私立に行け。


 なおもきゃんきゃん言い募る岡田と侃々諤々やりながら、校門をくぐった。

 今朝は生徒会室から資料を持って行かなくてはならないので、教室に行く前に生徒会室へ向かう。


 岡田も相変わらずついて来る。お前はさっさと自分の教室に行け。

 ひっきりなしに何かしら騒いでいる岡田を無視し、からりと生徒会室のドアを開けた。


「きゃ」

「おわ」


 やけに軽くドアが開いたと思ったら、ドアの向こうから人影が現れた。

 危うくぶつかりそうになって、たたらを踏む。


「すみませ……あら。高橋さん」

「すんませ……あ。西條先輩」


 謝りながら顔を見合わせ、俺たちはお互いの名前を呼んだ。

 目の前に立っていたのは、前生徒会長、西條百合子先輩だったのである。


「ま、政樹さん、政樹さん」

「ん?」

「ちゃんと外見を、みなさまにも分かるように!!」

「みなさまって誰だよ」


 お前には誰が見えてるんだ。

 息を荒くする岡田に呆れ返りながら、俺は西條先輩を見つめる。


 クオーターであるらしいので、髪は地毛で金髪。長さは、腰ぐらいだろうか、結構長い。

 瞳も、青というか緑というか灰色というか、黒とか茶色とは違った色。


 身長は俺と同じくらいで、海外のモデルのような、とにかく日本人離れした体型。制服のシャツとスカートが、正直似合わない外見だった。

 靴下の代わりに黒のストッキングを穿いているが、もう移行期間は終わっているので校則的にはギリギリアウトだ。

 前生徒会長なのに、いいのだろうか。


 一言でいうと、日本人ぽくない。そんな人だった。

 驚いた様子で目を見開いていた西條先輩は、やがて不機嫌そうに腕を組んで、言った。


「……退いてくださる?」

「あ、すんません」


 上目使いで睨まれ、俺は慌てて道を譲る。

 しかし俺の後ろに金魚のフンのごとくくっついていた岡田は、その場にぽかーんと突っ立ったままだった。


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