婚約者との初顔合わせ
「さあ、ここからは当人同士での話もあるだろうから僕は下がらせてもらうね」
そう一言言い残し父はどこかへと消えていった。そして応接室には俺と六道さんの2人だけが残された。俺が何か話題でもないだろうかと思案していると、意外にも先に声をかけてきたのは一見大人しそうな六道さんの方だった。
「三島さんはどうして今回婚約を決められたんですか?」
「ああ、この婚約はつい先程父から聞かされてな。俺としては寝耳に水だったんだ。まあ、父がさっき俺に言ったとおり俺は色恋沙汰には縁がないし興味もなかったからこういうことをされても仕方なくはあるんだが、まさかこんなにすぐに顔を合わせることになるとはといったところだな。そういう六道さんはなぜ?」
「私も実はさっき婚約の話を聞かされたばかりなのですが、お相手が天さん、貴方だと聞いたので快く引き受けさせていただいたのです」
俺はその言葉に疑問を覚えた。俺を知る要素などつい先日デビューしたばかりのアイドルグループ、スターズとしての活動以外にないはずだったからだ。そこで俺は、またそういう人なのかと落胆しかけていたのだが、続きの一言に、六道さんはそういう人ではないことを知った。
「貴方がよく京都で行っている慈善活動に私も時々参加させていただいていたのですが、その時の貴方の姿に一目惚れしていたのです。なので、いつかお話できる機会があればと思ってはいたのですが……まさかこんなことになるとは」
「なるほど。でもあの活動の時に貴女のような方は見かけませんでしたが……」
「それもそうだと思います!私基本的にメガネかけてましたし、慈善活動の時はジャージで活動していましたので」
「……そういえば、毎回参加してくれる女性の方がいましたが貴女だったんですね」
「覚えててくださったのですか?」
「まあ、ある意味インパクトが強かったので」
俺がそう言うと、六道さんは顔を紅くして俯いてしまったので、フォローを入れた。
「大丈夫ですよ。あの時も今も変わらず貴女は美しいですから」
俺はそう言ったのだが、変わらず六道さんは俯いたままなのでどうしたものかと考えていると、ふと顔を上げて俺に質問してきた。
「天さんは誰にでもそういう事を言うのですか?」
「そういう事……とは?」
「無自覚ですか……(私が天さんを虜にしないといけないのにこのままだと私が天さんの虜になってしまいます)」
「まあいいのですが、他の人からたらしだと思われてしまいますよ?」
俺はなんのことだかよくわかっていなかったが、とりあえず自分の発言には気をつけようと思いながら、その後も色々な話をした。そして、日も落ちてしばらくしてようやくと言うべきか、もうと言うべきか父がおそらく六道さんの母親であろう妙齢の女性を連れて戻ってきた。
「さあ、積もる話とかもまだまだあるとは思うけど、今日はそろそろ切り上げて終わりにしようかと思うんだけど2人はどうかな?」
「俺は大丈夫ですが」
「私も大丈夫です」
「じゃあ柚子、帰りますか」
そうして帰ろうとしていた六道さんだったが、ふとスマホを取り出した。
「そうだ!天さん、LIME交換しませんか?」
「そういえばそうだな。交換しておこうか」
こうして俺達は連絡先を交換し、初の顔合わせは幕を閉じた。
次回は顔合わせ後の2人のお話になります!