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ヒメリの意地




「――やります。やらせてください。わたしに」




「ヒメリちゃん、あなたどうしてそこまで……」


 頑ななヒメリに、アリスは悲哀に満ちた目で返してくる。


 その目の光の奥には、確かに今ここにいないヒメリではない誰かを思い起こしているような想いが見て取れた。


 もしかしたら過去に似たような決意を表した仲間がいたのかもしれない。


 そしてその人は、あるいは良い結末を得られなかったのかもしれない。


 会ってまだ間もない相手だが、自分を慮ってくれているという気持ちは容易に汲み取ることができた。


 ここにいる人たちは、ちょっと怖いけれど皆いい人たちだ。


 だからこそ、ヒメリは彼らに応えたかった。


「それは……」


 でも、自分の決意の源、過去を打ち明けるのには勇気が必要だった。


 口ごもっていると、助け船を出してくれたのはスピカだ。


「ヒメリが行くというのならわたしが共に行こう」


「スピカちゃん」


「いざとなったらわたしが盾になってでもヒメリを守ってみせる。ヒメリを無様に傷つけさせるような状況にはわたしがさせない。それに、ソウタもいるしな」


 得意気に言って顔を彼に向けるスピカ。応えるクロノは渋い顔だ。


「なんでそこで俺の名前が出てくるんだ」


「当然、行くだろう? まさかここでソウタが怖じ気づくわけがない。かのゴルドロン戦役で無双の活躍を見せた英雄の一人が、こんな案件で逃げ出すはずがないからな」


「おまっ、その話持ち出すのは卑怯だろ」


「ソウタの潜伏スキルがあれば、わたしとヒメリくらいはカバーしながら移動できる。オーグアイに曝されないように隠れて潜入し、万が一に備えつつヒメリのフォローに回る」


「ええ……まじで俺がやんの?」


「できないとは言わせないぞ? ブランキストの団長とわたし、そしてソウタの三人だけでハイモンスターが五百頭跋扈する戦場を無傷で突っ切った体験は後にも先にもあの時だけだ」


「うっわ、あんなの覚えてんなよ。思い出すだけで頭まで毛布被りたくなるわ」


「ふふふっ、忘れることの方が難しい。スキル発動限界域を超えて、最後にはソウタが叫びながら力尽きて倒れた姿は、今もずっと目に焼き付いている。もちろん、勇姿としてな」


「やーめーろって。恥ずいから!」


 二人の間にだけで通じる話で盛り上がっていてヒメリにはなんのことだかわからないが、どうやらクロノも手伝ってくれるようだ。


 自ら名乗りを上げたスピカたちに、アリスもベテランとして躊躇ってはいられないと悟ったのか、小さく溜息をついてから告げた。


「これは慎重になりすぎて私だけが縮こまってはいられないわね。正式に宣言します。ラトオリギルドリーグ長、アリス・エルカトールの名において、カリストの調査をクロノくん、スピカちゃん、そしてヒメリちゃんに依頼します。起きることの責任は、全て私が取る」


 アリスが腕を拡げて全体に行き渡るように大声を出す。


「ただし、あくまで調査よ。危険なことは私たちがやる。元はゲームの世界だからって油断して甘くみないで。私たちは元の世界よりも強い力を持ってしまっているんだから」


「わかってます。ごめんなさい、ワガママを言ったみたいで……」


 しゅんとするヒメリに、アリスは白髭が豊かな口元を歪めて優しく微笑んだ。


「いいえ。結局は誰かがやらないといけない役目。それを自ら買って出たあなたを私は誇りに思うわ。この仕事が無事に終わったら、リーグの皆にあなたを紹介させて頂戴。きっとそこからあなたの道が拓いていくと思うから」


「ありがとうございます。……がんばります」


「私たちも後から外堀を埋めながら合流するわ。まずは先に三人で現地調査に行ってね。くれぐれも危険なことはないようにね。無理だと思ったらすぐに引き返しなさい。誰もあなたを責めたりはしないから」


「――はい!」







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