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THE従者s




「「「させるかあああぁぁぁぁ!!」」」


 突如屋内に響き渡る男たちの声。


「な、なにごとっ!?」


 ヒメリも状況がわからずあちこち見渡した。重い足音を立てながら四方からカウンターの周囲に集まって来たのは、十数人の男たちだった。


 男たちはプロポーズ男を取り囲み、アリスとプロポーズ男を遮るように並んで壁を作る。


「クソ! おまえら何なんだ! 俺の邪魔をするな! 姫! 俺の手を取ってくれ!」


 手を必死に伸ばす男を見下ろし、アリスは目つきを強める。


「ハッ!」


 アリスは気合いの一息を吐くと、一足にカウンターを跳び越えて並ぶ男たちの背後に降り立った。


 それを確認すると、飛び出してきた男たちはアリスを囲うように密集した。


「姫を守れ!」


 特殊な盾を用いているのだろう。全員が同じ意匠の盾を身体の前方に構える。それと同時、表面に光り輝く紋様が浮かび上がった。


 アリスはその盾の壁の内側に立ったまま、静かに呼吸を整えはじめた。


「わ、すごい隊列ですね! ここ屋内ですけど……」


 ヒメリが感心して声を上げると、クロノが横で解説してくる。


「古代の集団戦術、ファランクスってやつだ。それをあいつらなりにアレンジして組み立てた得意陣形、その名も〈himechan防衛ファランクス〉」


「そですか……。一人相手にするもんじゃないと思いますけど」


「これのすごいところはな。従者どもの貢献度が平等ってとこなんだ。全員で真ん中のアリスを全方位守ってるから、誰かひとりが突出して活躍することがない」


「なんでそんなことをする必要が……?」


「誰かが目立ちすぎるとhimechanの贔屓になったりするだろ。そうすっと他の従者たちからの反感を買ってリーグが乱れるから、その防止だ。だからアリス以外の全員が盾役で、役割も同じ。従者の世界ってのは厳しいんだ」


「さいですか」


「ウルスラインの戦闘コンテンツは味方との連携が一番重要だからな。リーグごとに色んな戦術があるんだが、あれがあいつらの常套戦術だ。従者どもがあいつを囲んで、あいつの超火力スキルで槍のように前方に射出する」


「超火力?」


 聞き逃しちゃまずいような単語をしっかり聞き取って繰り返す。なんだか嫌な予感。


 目を再度アリスたちに向けると、プロポーズ男が叫びなら、クロノ曰く従者と呼ばれている盾男たちの上をよじ登ろうとしていた。


「なんで俺の邪魔をするんだ! 俺が用があるのはアリス姫だけだ!」


「不遜な輩を姫に近づけさせるわけにはいかん! みんな、姫の準備が整うまで持ちこたえろ!」


「応!」


 盾を殴りつけるプロポーズ男に抵抗するため、アリスの仲間たちはさらにわずかな隙間すら埋めるように盾を密集させる。


 その裏で、全身から揺蕩う青色のオーラを纏わせたアリスが静かに告げる。


「あんたの情熱は凄まじいわ。それは認めてあげる。でもね、私を独り占めしたければここにいる男の子たちを納得させられるだけの器量を持ちなさい」


「そんなっ、俺じゃ不十分だっていうのか!? 確かに俺には金はないが、レベルも高い高位職業だし何よりケツがでかい――」


「今よ!」


「盾隊、開!」


 アリスの合図と同時、熟練された身のこなしで男たちが散開し、アリスの前方を開く。そしてさながら人体砲台のように、従者たちが筒状に盾を並べ、短い砲身を作り出した。


 直後、裂帛の気合いを吐き出すように、アリスがスキルを叫ぶ。


「剛烈波動砲!」


 アリスの前方に向けた両の掌から射出された青白い光の奔流が、盾の砲身を通りほぼゼロ距離でプロポーズ男の腹に直撃する。


「ぐぅおおおおぉぉぉ!!」


 プロポーズ男もそれなりに強さを備えているのか、腕を顔の前で交叉して踏ん張って耐えていた。が、増大する光はついに男の全身を包み込むほどに膨らんでいた。


「すっげえ。あの威力、っぱ痺れるな……!」


 プロポーズ男が立ったまま灼かれているのを見て、クロノは戦慄しつつも嬉しそうに拳を握っていた。


「あの、えっと、あの」


 アリスのスキルによって容赦なく吹き飛ばされたテーブルや椅子が、瓦礫となって散らばっている光景を前に、ヒメリはどう反応していいかわからず右往左往するばかり。他の来客は慣れているのか静かに瓦礫を片付け始めていたが。


 アリスの放った光線が収まると、全身から煙を燻らせる男は静かに後ろに倒れこんだ。


「あの、大丈夫ですか――」


 さすがに手加減はしているのだろう。男はなんとか生きているようだ。さすがにヒメリも男が可哀想に見えてきて、つい声をかけた。そのとき、直撃し倒されたはずの男がなおゾンビのようにがばっと跳びかかる。


「ひっ」


「俺、この新世界で養ってもらえるならあんたに抱かれてもいいって――!」


「フンッ!」


 黒焦げになっても起き上がる男の脳天を、アリスの拳が真上から直撃する。


 さすがの男もそれで轟沈したらしい。床に倒れたまま手足をピクピクと痙攣させていた。


「ああ、姫が無事でよかった」


「皆、よくやったな」


「俺、こいつ許せねえよ。姫を危険な目に遭わせやがって。俺たちを出し抜いて一人だけ姫に近づけるとでも思ってんのか?」


「言うな。皆で守り切ったんだ。誇りに思おうぜ」


 アリスを囲み、男たちは互いに褒めあい始める。


「ありがとう、みんな。あなたたちが無事であったことに、今日も感謝を捧げましょう……」


「ああ、姫、なんて奥ゆかしい……」


 称え合うアリスと従者たち、その横で黒焦げになって痙攣している男を横目に、クロノがヒメリに確かめるように聞いてきた。


「な? himechanだろ?」


「わたしの想像してたのと違うんですけど」







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