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レベルを上げてマッチを売るマッチ売りの少女

作者: しいたけ

「マッチ……マッチは要りませんか?」


 寒空の中、ヨロヨロと足下の覚束無いか弱き少女が懸命にマッチを売り歩いていた。


 しかし街行く人々は彼女を気に留めるでもなくただただ通り過ぎるだけ。彼女は自身のセールス力の低さを嘆いた。



 ――少女 Lv.1――

職業:マッチ売り

力:最低

体力:皆無

美貌:最悪

お金:無一文



「これじゃ……マッチは……売れない……!!」


 少女はマッチ売りの前に己を鍛える事にしました。



「いいか良く聞け!! お前らは漏れなくクズでゴミでオタンコナスだ!!!!」


「サーイエッサー!!」


「ろくにマッチも売れない穀潰しだ!!!!」


「サーイエッサー!!」


「声が小さい!!!!」


「サーイエッサー!!!!」


 鬼軍曹の指導の下、少女は懸命に修行に励みました。


 そして一週間後…………




「マッチは要りませんか!?!?!?」


「マッチありますよ!!!!」


 マッチ売りの少女は懸命にマッチを売りました。しかし売れたのは一箱だけ。大声と気合のゴリ押しでは難しいと物売りの厳しさを痛感しました。



 ――少女 Lv.5――

職業:マッチ売り

力:激弱

体力:フナムシ

美貌:インスマス顔

お金:ナッシング



「これじゃ……マッチは……売れない……!!」


 少女は更に己を鍛える事にしました。



「えーっ、顧客の心を掴むには五つの『不』のバックグラウンドを―――」


「…………Zzz」


「であるからしてデザインスキルが―――」


「…………Zzz……!」



 鬼セールスマンの指導の下、少女は懸命に修行に励みました。


 そして一週間後…………




「さあ! 当店自慢のこのマッチ! 何と今なら三割引! しかも下取りでさらにお得意!!!!」


 少女は懸命にマッチをセールスしました。しかし売れたのは五箱だけ。少女は僅かに手に入れた小銭を握り締め、商売の厳しさを知りました。



 ――少女 Lv.5――

職業:マッチ売り

力:非力

体力:もやしっ子

美貌:下の下

お金:僅か



「ダメだわ。マッチが……売れない!!」


 マッチ売りの少女はマッチを売ることを諦めました。




「ライター……ライターは要りませんか?」


 少女は【ライター売りの少女】へとクラスチェンジしました。お金が無いので元となるライターは町工場の休憩室を駆け回り手に入れたスナックのライターです。


「お、丁度ライター切れてたんだ。一つくれよ」

「はい、ありがとうございます!!」


 ライターはマッチより売れました。ついでにライターに書かれていたスナックの名前を見て、スナックにお客さんが増えました。



 ――少女 Lv.10――

職業:ライター売り

力:箸がギリギリ

体力:赤ちゃん並

美貌:目を瞑れば何とか

お金:子どもの駄賃



「ライターが……売れた!!」


 少女は勤労の喜びに目覚めました。毎日ライターを売り歩き、少女は必至に小銭を稼ぎます。そして何故かスナックのママ達から店の残り物を貰えるようになりました。首を傾げながらも少女はありがたく受け取り毎日の糧としました。



 ――少女 Lv.15――

職業:ライター売り

力:匙が投げれる

体力:豆腐腹筋

美貌:スキンケアをしろ

お金:五円玉アート



「ライターが……無い!!」


 いつもお世話になっている仕入れ先の町工場が不況の煽りで次々と潰れ、少女はライターが手に入らなくなりました。


「……無ければ作るしか無いわ!!」


 少女は自社を立ち上げ製造業に乗り出しました!


「ついでにライターも改良よ!!」


 少女はチャッ〇マンを製造し販売しました。



 ――少女 Lv.23――

職業:チャッ〇マン売り

力:猫パンチ

体力:3分が限界

美貌:毛深い

お金:税金対策



「ジャンジャン作りなさーい!」


 従業員を25時間勤務させ、少女はブラック工場の社長となりましたが、直ぐに従業員に訴えられ工場は潰れました。


「…………」


 少女は深い悲しみを背負い、それを忘れるように悪事へと手を染めます。





「汚物は消毒だわ!!!!」



 ――少女 Lv.28――

職業:火炎放射器売り

力:普通以下

体力:しょぼい

美貌:世紀末

お金:宵越しの金は持たない



「ヒャッハー!!!!」


  ──ボボォォォォ!!


 少女は狂ったように、町に火を放ちました。町民は老人から子ども、北斗七星の傷を持つ男まで皆が避難を始めます。


「ヒャヒャヒャーー!!!! マッチなんぞに比べたらこの火力は最高だろぉ!?」


 少女は既に人として大事な何かが欠落してしまいました。



 ――少女 Lv.34――

職業:放火魔

力:ソフトマッチョ

体力:走れます

美貌:悪役令嬢

お金:2000円札


 少女はもうマッチ売りには戻れなくなりました。





「マッチ……マッチは要りませんか?」


 燃え盛る町の中、懸命にマッチを売り歩く一人の少女に目が留まりました。


「な、何故マッチを……マッチなんか一つも売れないのに…………」


 元マッチ売りの少女は昔の自分を見ているかのように悲しくなり、火炎放射器を落としてしまいました。



「バカな事は止めるんだよ!」


「!?」


 少女が振り向くと、そこにはかつてお世話になったスナックのママ達が立っていました。


「昔のようにがむしゃらに働くお前さんに戻ってくれよ……」


「マ、ママ……」


 少女は涙をこぼし、自らの過ちを悔い改めました…………








「ママ、水割りおかわり」


「…………」


「ママ?」


「あ、ゴメンゴメン。おかわりね?」


「どうしたの、ボーッとして」


「ううん、少し昔を思い出しちゃってさ……」


「ふ~ん。……あれ? ゴメンママ、ライターあるかな?」


「はい」


 スッと差し出されたのは古びたマッチの箱だった。


「何だか趣があって良いね、コレ」


「昔私が売っていた残り物よ」



 元少女は遠い目をして壁に飾られた写真を見つめると、そこにはスナックのママ達と笑顔で映るライター売りの少女が映っていました。



 ――少女 Lv.57――

職業:スナックのママ

力:二の腕プルプル

体力:ラストオーダー4:50

美貌:ほうれい線が気になる年頃

お金:思い出がいっぱい



「ふふ、本当に懐かしいわね」


 元少女は少しだけ寂しそうな顔で笑いました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これぞ!童話・・・。
[気になる点] レベル10でやっとギリギリ箸が持てるってそれまでその非力さでどうやって生きてきたんだろ?
[良い点] ゲームをしているような感覚で読めて面白かったです。内容も素敵でしたが、吸い込まれるようなワクワク感がありました。大切なことに気づかせてくれて温かい気持ちになりました。
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