申しわけありませんが、貴方は1年間元の世界には戻れません
-序-
喉が渇いた…
暗い部屋の中、布団から手を伸ばし、ペットボトルを探す。ティッシュ、リモコン、脱ぎっぱなしの服、何かのコード…。一通り周囲にあるものに触れながら僕の手は、ペットボトルを探し当てた。
ものぐさな僕は立ち上がろうとせず、半身だけ起こした状態で、ボトルの炭酸水を喉に流し込んだ。昨日から飲みかけで炭酸の刺激は弱まっていたが起きたばかりの身体を驚かせるには充分だ。腹の辺りが少しチクッとした。
喉は潤せたが、ボォーっと働かない頭。身体は依然として布団の中。生気のない状態で暗闇の部屋を見渡す。目の端でチラチラと光が見えた。カーテンの隙間から日の光が少しだけ射し込んでいた。ここで僕は、今が昼であることを知る。
スマホで時間を確認する。時刻は昼の十二時を過ぎていた。部屋の外ではとうに、多くの人が学校や仕事、様々な役割をこなしている時間。昨日と今日と明日がごちゃ混ぜになっている今の僕からすれば、昼間に活動をこなしている人たちはとてもすごい存在に思える。少し前に自分もその一人であったはずだったのだが、どうしてこうなってしまったのだろう。
思考の沈黙
また「今日」が来たことへの焦り
「昨日」と何一つも変化していない事実への焦り
「明日」も何も変わらないという焦り
それが死ぬまで続くことへの焦り、絶望
思考の沈黙
数刻して、これも変わりないことだが、何でもいいから「兆し」を、昨日とは何か違う、明日に良い変化を見出してくれる「兆し」のようなものをひねり出そうとする。それが最近の日課(?)になっている。「ひねり出そうとしている」だけで何もない事がほとんど。そうでないなら、事前に決まっていたことである。今日は幸い後者。事前に決まっていた。起きた後にはもう分かっていた。頭の中では、今日の予定は認識していながら、ルーテーィーンの様に焦りと絶望に囚われる。
僕はヌクっと半身を起こし、残りの炭酸水を飲み干すと、ゆっくりと立ち上がり、散らかった部屋の中、ズボンだけ外用に履き替え外出の準備をする。途中、汗が染みこんだシャツに気持ち悪さを覚え、別の長袖のTシャツを着た。財布の中身を確認し玄関へ向かう…、その前に薬を飲む。本当は朝、今より数時間前に飲むべき薬を。今度こそ玄関を出る。淡い期待などほとんど抱かずに。異世界の様な人たちがそこら中ににいる部屋の外へ。
僕は今日、二週間ぶりに心療内科に行く。