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闇路妖狐  作者: 狐禅
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七話 怖

 

 は?

 

 何を言っている。

 

 そんなこと

 

 「うそだ」

 

 「……やっぱり、気づいて無かったんだな」

 

 僕が、ずっと?

 

 「俺があそこに着いたのは、本当はお前に会うもう少し前だよ。

あの場についたら、ほら穴で物音がした。

……見てみると、お前はあの中の死体の一つを、無心に壊していた。

……無表情でな。さすがに俺も声をかけるのを躊躇ったよ。

……声をかければ、俺も殺されると思った」

 

 本当か…

 

 本当、なのか?

 

 まったく……覚えてない。

 

 それが本当ならば、それは、…いつもの僕の弱さだ。

 

 いやなことは全て忘れようとする。覚えてはいないが、そのとき僕が何を思ってその行為を行っていたかは容易に想像が出来る。

 

 きっと

 

 報復が、怖かったのだ。

 

 普通は首を潰せば終わりだ、息の根を止められる。報復などあろうはずがない。

 

 ただ、僕の場合は違う

 

 うでが残っていれば、腕だけでも報復に来るかもしれないと、そう思ってしまうのだ。


 冷静に考えれば絶対にそんなことは無い。

 ただ、恐怖が僕の冷静さを無くす

 

 足があれば足が報復に来ると恐怖する。

 

 上半身が残っていれば、這ってでも仕返しに来るかもしれない。

 

 恨みがましい顔が怖いのだ。


 なら腕を壊せ

 足を壊せ

 顔を潰せ

 耳をちぎれ

 鼻をもげ


 そうしている内に、


 全部壊してしまったのだと思う。


 確かに、人間のやることではない。

 けだものの所行、否、それ以上。

 そんなものは鬼の所行だ。


 己の恐怖のままに身を投じ、死体を殴っていたんだ。

 理性なんて欠片もあったもんじゃない。


 僕は。


 けだものに……


 「おい」


 其所まで考えたところで急に華梁に声をかけられた。


 「思い詰めるんじゃない。

お前のそれは今までの出来事がきっかけで起こった、単なる欠落でしかない。

何もお前が人の心を無くしてるとまでは言っていないさ」


 「……だが」


 「だが、も、何もないさ。さっきも言った通り、自分をどう評価しようが、死者は生き返らない。

……俺が見せたかったのはあれだ」


 見ると、洞窟の前にはたくさんの人だかりが出来ていた。


 ただその人達は、報復が目的で来た訳では無いことは一目瞭然だった。


 死体にすがる小さな女の子


 足のが動かないのに、死体の方へ這おうとする老婆


 必死に死体を抱き起こし、母の名を呼びかける男の子。


 死体を視て涙する老人


 父の死体を探し回る子供を抱えた母親


 およそ、僕を殺しに来たとは思えない。


 人々は一様に、瞳に涙をうかべていた。


「……分かるだろ、憂。いや、分かっていたはずだ。人を殺せば必ず悲しむ人がいる。

お前はそれに目を背け続けていたんだよ」


 じっと、僕はそれを見た。


「……所詮この世ってものは、我が身の外でしか起こらない。

だからお前は自分で自分の罪を、自分の中で悔いる事しかできない。

……知るんだ。目を背けるな。

お前のやったことは、ああいうことなんだよ」


 人々は一様に涙を浮かべている。


 僕は、顔を伏せた。


 悔いること


 罪は、感じていたのだ、何度も。僕の中で。


 ただ


 分からなかった。


 悲しくも思った、罪な事をしたとも思う。だけれど


 僕も殺されかけた……と。

 どうしても自分の中で、自分のやったことをごまかそうとする感情が起こる。


 やっぱり自分は、けだものなのだ、と。


 

 そう、思った。


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