第三十三話 闘草
娘を見下ろし、云う。
「小娘 今の貴様が何者かは知らんが、神を滅してなんとする? 貴様のその力、貴様のものではあるまい?
その力にして、我を滅ぼし、一体何の意味があるのだ?
娘、去れ。無益な戦はその方も好まざるところであろう?」
それを聞き、娘はまるで言質を得たかのように、にやりと笑い
「老爺、自らを神と申しますか?」
そう、云った。
「神に違いない、がそれがどうした」
云うと、娘はいっそう嗤った。
「なら、試させてもらいます」
闘草――草遊をいたしましょう
そう云って、
ふわり、と袖をはためかせ――袂に白い右手を入れる
「太刀、名、芒」
娘は、入れた袂から、一刀の太刀を取り想像した。
黄金色の刀身の太刀である
――あのような、刀は、知らぬ。
このわしが知らぬと言うことは、あれは、伝承や神話の類いの武器では無いということだ。
……――厄介な
そう、思った。
識る武具であれば、何かしらの対策は立てられそうなものであるが、
しかし、
禍々しさはあれども、神楽鈴のような力は感じられない。
――あれで己が倒されるとは思えぬ
そうつらつらと考えていると
娘は、跳んだ。
胡蝶のように、空を舞い、一気にこちらへと間合いを詰める
そして、
金色の太刀を、風を切るように横に払った。
黄金の光が、弓のようにひかり、闇を走り、己の四肢を狙い、襲いかかる。
しかし、
――神である己の目から見れば、その刀の疾走は――ひどく、とろい動きであった。
避けようと思えばいくらでも避けられる、やろうと思えば、目を瞑っていても、太刀が己の体に触れるまでに娘を三度は「切れる」だろう。
――しかし、それをしなかったのは、娘の真意を確かめたかったから……というのもあるが、何より、
――この娘、例え百、千遍切りつけようようも、死なぬ。
そう直感したからである。
それに、
――まず、この金色の太刀の正体がわからぬ。
先ほどの神楽鈴よりは遙かに力が微弱に感ぜられるが、
むやみに体に触れれば、何が起こるか分からない
――もし、この太刀、あの神楽鈴のように紙一重に避けるだけでは効果が無いとすれば――むやみに避けるのも危険である。
刀に触れる刹那にそう考え、右手の直刀でそれを受けることにした。
この刀、見た目は身の丈の数倍はあろうかと思える巨大な直刀であるが、これは、自らが化身とする刀だ。故に重さも感じぬ、この刀を扱うことは、己の手足を動かすように容易であった。
薙ぎ終える前に「止める」それが、一番安全な選択だろう。
この直刀も、「思い」で形作られた、いわば概念である。
直に刀を受けても、こちらの心が折れぬ限り、刀が傷つくことは無い。
そんな考えに至り、
己の体を守るようにして直刀を構え、太刀を受けた。
――がいいん
そんな鈍い音とともに、娘の太刀が、「砕けた」
――もろすぎる。
普通に考えれば、思念である刀が砕けた、ということは、娘の「刀を信ずる心」より、こちらの心が勝った、ということだろう。
娘は砕けた太刀をつまらなそうに見つめ
「この太刀、私の持ち得る武具の中で、「世で一番、強固な武具」として想像られたものだったんですけどね、
――でも、これじゃあ、だめです」
そう言って、
娘は、何の未練も無く、刀を放り投げた。
芒と呼ばれた金色の刀は、夜気へと無散する。
娘のその仕草は、己の武具が折れたというのに、落胆した様子も無く、まるで始めから分かっていた結末を見ている――そのような様子であった。
むしろ、それが、かえって不気味であった。
まるで、三歳の童子が刃物を取り出し、危険な物とは知らずに、自慢の玩具を見せつけるような仕草でそれを振り回し遊んでいるような――そんな不気味さである。
そして、察した
娘にとって、これは、本当に
遊び
――ただの草相撲、なのだろう。




