第三十話 意志を持つ天災
今まで形を持っていた者達は、砂とも灰ともつかぬものとなり、風に舞うように、その場から跡形も無く消え去っていった。
兵達も――そして、己自身も、その光景を、ただ呆然と見つめていた。
あれは、なんだ?
あれは、なんだ?
まさか、あれが――
理が使わした――使者だとでもいうのだろうか?
『均衡が崩れれば、いずれ理がそのものを殺す』
『世の網の目から外れたものは、いずれ理がそのものを抹消する』
それは「天の理法」や「万物の理」などとも呼ばれた「世の真理」であった。
それは、確かに――以前から幾度とも伝え聞いてきた。それを思わせる出来事にも遭遇してきた。
そのことを、心に留めていない訳では無かった。
人の世に関われば、世の均衡が崩れること位は承知していた。
しかし――理の所業はいずれも、間接的で、偶然としか思えぬようなものばかりであった――それ故に、理が、それほど驚異なものと危惧していなかったのだ。
理の所業は、天災として現れた。
あるときそれは台風であった。
あるときそれは飢饉であった
あるときそれは地震であった
あるときそれは嵐であった
あるときそれは津波であった
あるときそれは戦であった。
そうやって「神を信じる者」「思いを強くする者」を減らし、殺してきた。
「信じる者」「思う者」がいなくなれば、自然と「神」も「思い」も消滅する。
――いままでは、そうやって、世の均衡は守られてきたのだ。
しかし、
あまりにもそれが、偶然じみていて――
神である己自身、理の意志など「迷信」だと思い込んでしまっていたのだ。
思えば、随分と滑稽な話である。
――己自身の存在が、一番の「迷信」であるというのに……
しかし、あれは、違う
天災などという、意志の感じぬものではない。
あれは明確に――、神を殺そうとする、意志がある。
あれは――何だ?
まるで
神を殺すことを、始めから望まれて生まれてきたような――
娘が口を開く
前髪で隠れて、表情は分からない
分からないが
娘は――嗤っているように見えた
そして、娘は――独り言のように、つぶやいた。
「志半ばで空しく散った哀れで弱い人の子よ」
「神は、汝の思いを聞き入れた」
――神よ、どうか
我が国を滅ぼした兵どもに
我が国を滅ぼした軍神に
天の制裁を与えたまえ。
「――汝の望み、かなえませう」
今宵は、まつりじゃ
こよいはまつりじゃ
こよいはまつりじゃあ――
のぞみをかなえようぞ――
のぞみをかなえようぞ――
ほほふふふふふはははははふふふはははひひははふふはははははふははははふふふ――
嗤う
意志を持った天災が、可笑しそうに嗤う
そして、
まるで、
そうして、娘はまるで神楽舞を舞うが如くに、鈴を持った右手を上げ
――鈴を振り下ろした。
しゃん
大きく、鈴の音が、鳴った