第二十七話 むかしがたり
「俺の――せい?」
「そう言うと、少し語弊があるがな、お前は少しも間違った事をしていない、ただ、己に素直な選択をし、それを全うしただけだ」
だがな――と、方千は続ける。
「本来、暴走し、夜に干渉しすぎた神、霊元を粛正する荒涼神はお前がなるはずだった、しかし、お前は拒絶した。
自ら神を殺す神になることを拒絶し、人として生きることを選んだ。
この選択は――決して間違ってはいない、お前はお前の自己を確立したまでのことだ。
しかしな――そうなると、霊元という神を殺し、均衡を保つための、「別の荒涼神」が必要になってくるのだ」
「別の、荒涼神?」
「ああ――お前が、神を拒み人として生きることを決意した時、世の理は、霊元を殺すため、お前の代わりとなる別の荒涼神を目覚めさせた」
「――じゃあ、何が、誰が――別の荒涼神に――」
そう問うた。
しかし、僕には――
何となく、それが、その人物が、分かっていたような気がした。
「一つ、昔話をしよう」
唐突に――方千が、そう言った。
「ほんの十年程度であるから、わしにとっては全く昔話とはいえんがの」
そう言って――方千が語り出した。
わしは、百年ほど前は、ここから遠く離れた国の、大きな社の中に住んでおった。
その土地の「神」としての。
当時は経津主神とも呼ばれていたが――まぁ、名前はどうだってよい、戦神としてあがめられていたために、故事に示された、それに近い名前をなぞって呼ばれていただけなのだからな。
その土地は戦の多い土地での、地納めていた者が、数々の国へと、自ら戦を仕掛けておったからだ。
何しろ、わが国は戦神のわしがおったからの
――もっとも、わしは、何もしなかった。
ただ、そこに神としていただけなのだが、奴らにはそれが、心の支えにでもなっておったのだろう、国は、次々と領土を広げておった。
しかしな――
十年ほど前、
――とある国を相手にしていたとき――、思わぬ事態が起こった。
国に、疫病が、はやりだしたのだ。
今から思えば、おそらく、戦に次ぐ戦で、そのまま捨て置かれた死体が原因であろうとおもうのだが――それは、今はどうでもよい。
疫病が瞬く間にはやり――やがて、戦での死者の数を上回るほどになった。
しかし――主君は戦神の後ろだてがあるという、傲慢からか
――国は、一向に白旗をあげようとはしなかった。
彼らは、負け戦を知らなかったせいで――負け時を見極めることが出来なくなっていたのだ。
国はどんどん追い込まれていった。
そこで――
民衆は、わしに、願ったのだ。
――どうか、我々のために、戦ってくれ
――いまこそ、戦神の力をみせてくれ
勝手な話ではあるのだが――わしは、所詮人の「信仰」という思いで出来た存在だ。
人の信仰が無くなれば、わしは簡単に消えてしまう。
もとより、わしには、それを断る理由が無かった。
戦にはどちらも善悪は無い。どちらに味方し、どういう結果に終わろうとも、所詮は人間どもの世であったからな――わしには、結果など関係無い。
わしにとって、それはただの退屈な日々のささやかな一興でしか無かったのだ。
その程度のことだと思い
初めて、わしは
己の力を使うことにした。