表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇路妖狐  作者: 狐禅
52/64

第二十六話 決意の代償

ようやく、林の中を、飛ぶように逃げ帰り、香泉寺の山門が見えたときには僕の体は木々の枝に引き裂かれ、顔には無数の切り傷が血を流し、足には打撲のような跡があった。


奴に捕まれた所は黒く変色し濁った、墨のような色になっている。


僕は枝で傷ついた右目を閉じ、はあはあと、血の混じった息を吐きながら、這いつくばるように香泉寺の山門をくぐり抜けた。


そこで


異変に、気が付いた。




僕の目に写った光景――香泉寺のあった場所には、空虚な空間が広がっているだけあったのだ。




「香泉寺が――無い」


山門を抜けた先には本来あるはずの香泉寺の庫裏が――あとかたもなく消えていた。


まるでえぐり取られたように、地面ごと、香泉寺が消失している。


この――傷跡は、どこかで。


そう――あの、洞窟と、同じ。


夜季がやった、あれと――いやそれ以上だ。


その光景は――まさに荒涼としていた。


しかし、


馬鹿な。


あり得ない。


だって、夜季とは、今の今まで、戦っていたじゃないか。


この傷跡は。


夜季のやったそれに似すぎている――


しかし……


――そうだ、涼美。


建物の中には――涼美がいたはずだ。


「おい!……涼美、どこだ!?」


僕がそう声を上げたとき、山門の上から、しわがれた声が聞こえた。


「むだだ、涼美はここにはおらん」


見ると、山門の屋根の上から、キセルをくゆらしながら、つまらなそうに片足をぶらつかせた方千――仙人じいさんが、そこに座して、哀れむような目で僕を見つめていた。


「――仙人……じいさん…」


僕は、今にも泣き出しそうな情けない声で――方千に――吐露した。


「華梁は――混沌に……夜季に喰われた――涼美も――香泉寺も消えた、一体どうなってるんだよ……」


僕がそう言うと、方千は、ふう、とキセルの煙を燻らし


「分かっておるわ、すべて、見ていたからな」


そう、言った。


「見ていたのなら――なぜ!!」


いまにも飛びかかりそうな勢いで、方千を問い詰める。


「わしが動けば――さらに取り返しの付かぬ事態をまねくことになるからな」


――そう、言った。


「……どういうことだ、じいさん」


なおも、僕は、このしわがれた神に、問い詰める。


「一つだけ言っておこう」


そして、ゆっくりと、方千は僕を、射るような瞳で見つめ……


――この事態を招いたのは――ほかならぬ、お前自信だ。


そう、しずかに、無慈悲に――


方千は、そう言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ