第十五話 混沌
ざわ――と全身の毛が逆立つ。
なんだ・・・・・・あれは?
人?
いや
生き物なのかすら分からない。ただの黒い固まりである。
全身が影のように真っ黒だ。
目をこらす
なんだ、あれは
かすかに人の形をしているような気がする。
つかみどころのないゆらゆらとした影、だが、確かに手足がある、そして、頭も。
その・・・・・・顔に当たる部分の半分が、白い、髑髏の様な仮面で覆われている。
人・・・・・・か?
いや
いや
いや
あれは
人じゃない。
人にしては禍々しすぎる
あまりにも・・・・・・人とかけ離れ過ぎている。
――なんだあれは?
なんだあれは
なんだあれは
なんだあれは
なんだあれは
まずい
まずい
まずい
にげろ
にげろ
にげろ
僕の本能が、直感が、先ほどからうるさい位にそう告げていた。
どうする
どうする
理性が、その僕の逃げようとする本能を、かろうじて押さえている
そのとき、
ぐいっと、華梁に腕を捕まれた。
「・・・華梁?」
「――逃げるぞ、憂」
僕の気持ちを代弁したかのように、華梁がそう言った。
しかし
しかし、夜季が
「夜季はどうする・・・・・・!」
「・・・・・・」
「おい!華梁」
「頼む」
「な・・・・・・!?」
「ここは、私に従ってくれ」
「従うって、なぜだ!あれは・・・・・・・あれは何なんだよ」
「――早くしろ!憂!!!」
ぐいっと、
華梁に無理矢理腕を引っ張られる
そのとき、
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーー・・・・・・・・・」
甲高く夜の闇を引き裂くように「それ」咆哮した。
思わずひれ伏してしまいそうな、禍々しくも神々しい叫びだった。
およそ人の叫びではない、
獣の叫び声ですら無い。
人とも
獣ともつかぬ――「なにか」
あれは
あれは
そのとき。
その黒い者が僕の方を見て
にたり、と嗤った気がした。
そして、僕に向かって
心の底からうれしそうに―――言った。
「―――みいぃつけた。」
その瞬間に直感する。
「あれは」
あれが
夜季、だ。