第八話 荒涼神
「神とは、人の思い込みの産物なのだよ。人が望んだから、俺はここに生まれる事が出来た。人が「神」という「呪い」を俺にかけたのだ。――神という呪いをかけられ生まれて来たものであるから、俺は人々が「神」という考えから連想されたものと、同等の力を使う事が出来る……例えば、憂は「神」から何を想像する?」
神。
神か。
神とは……
信仰の対象だ。
信仰する者に対し、幸福をもたらす者。
……望みを叶えるものである。
「そうだの……神とは望みを叶えるものだ、いや、叶えるものだと言われておる。言われておるからこそ――俺も、――人の望みを叶えることが出来るのだ。」
この国は、「神」が信仰の対象だ。その他の宗教は、多少例外があれども――無い、ことになっている。暦縁さんや華梁が言っているような「仏の教え」というものは、わずかな人にしか伝わっていない。悪く言えば――邪教と呼ばれても良いようなものである。暦縁さんや華梁のおかげで、知っている者が増えた事は確かであろうが、未だ宗教として認められてすらいないものなのだ。
この国は、ただ「神」の存在が信じられているだけである。おそらくは、ほとんどの国民が神と言う存在が実在するのを信じているのではないだろうか。だから、年の初め、年の終わりは必ず神に祈りに行く、願い事が有れば、わずかな浄財をささげ、願い事をつげにゆく。――信仰者が多いが故に、それによる「御利益」があったと言う者も多く出てくる。――それにより、また信仰者が増えてゆく。
疑いを持つ者も減ってゆく――
「この国は、思いが強すぎるのだ。人の思いは、時として実在しない物までこの世に生まれ出でさせることがあるのだよ。」
――それが、方千と、霊元。
そして、この僕の顔もまた、気が影響しているらしい。
――神もまた
人の、思いだと言うのか。
「――荒涼神と言うものを知っているかの?」
方千が、唐突に尋ねた。
――荒涼神。
――聞いたことが有る。
確か。
何年か前に起こった厄災につけられた名だったと思う。
「ごく最近の話だよ。ほんの十年前くらいだ。その年、ある村を原因不明の厄災が襲ったのだ。津波でもない、地震でもない、竜巻が起こった訳でも無いのだが……村が一つ、一晩のうちに跡形もなく消えさった事が有った」
「消えた?」
「ああ。まさしく、「消えた」のだよ。……その厄災が襲った後は、村には、建物どこ
ろか草木の一本も残っていなかったのだからな。――もとあった村は、まるでそこには始めから何も無かったかのように……一晩の内に只の平地になっていたのだ。」
草木の一本も無く――
それは、
あり得るのか?
少なくとも、天災ではあり得ない。地震だの津波だの竜巻だの、起こった後には必ず大きな爪痕を残す。
しかし、天災があり得ないとすれば、一体何なら可能なのだろうか?
――……。
ああ、なるほど。
だから、荒涼「神」なのか。
人の望みを叶えられる、神ならば――可能だ。
「そうだ、こんな事が出来るのは、俺や霊元と同じ人の思いで作られた神でしかあり得ない。――しかし、だ。そう考えれば、一つの疑問が起こる。」