第六話 ありのまま
――それならば、呪いとは我々の心をかき乱して、自らの思いこみで自らを傷つけさせるだけのものということか。
「では、――この傷は、俺があの子供に「刺された」と思った事によって生まれたものなのか?」
「そういうことになるの。」
「……いや、まさか。」
しかし、事実、僕の手には水ぶくれが出来ている。
思いは……体にまで影響するのか。
方千は、これを教える為にわざとこのようなやり方をしたのか。
確かに言葉で説明されただけでは、信用できないようなことである。
「わかった、信じる。では、その事実を知ったからには、もう一度あの子供と対峙しても俺に勝ち目があるということか?」
「たわけ。人の思いは理屈ではどうにもならん。奴の呪はお前の心に直接訴えてくる物だ。お前の心がかき乱れたときに、落ち着こうと頭で考えてもどうしようもならんだろ。それと同じだ。理で解したところで、どうにもならんのだ。そんなことをすれば逆に相手の思う壺だぞ。」
「……では、どうすればいい。」
「簡単だ。ありのままをみればいい。」
「ありのまま?」
「そうだ。お前が眼で見、耳で聞き、鼻で香り、舌で味わい、身で感じたことをそのまま受け入れればよいのだ。」
「どういう事だ?」
「呪は、人の思いをだます。思いに惑わされる事がなければ、どんなに強い呪にもかかることはないのだ。」
「……そんなことが、できるのか。」
「実は、お前は気づいていないだけでもう出来ているのだよ。」
「……は?」
方千も……暦縁さんと同じようなことを言う。
「……そんなこと、どうすれば出来るようになるんだ?」
「どうすればいいか、ではない。何もしなくていいのだ。」
「……そんなことを言われても納得は……
ばん!
僕が言葉を言いかけた時に、いきなり方千が思い切り床を叩いた。
「なんだ!いきなり!」
思わず言葉を荒げる。
「……どうだ?」
「なにがだ?」
「お前は、今の音を理で解したか?床で叩いた音を頭で「聞こう」と思ったか?」
「……いや。」
「ほら、聞こうと思わずとも聞くことは出来るのだよ。特別何かしようと思わなくとも、お前はいつもありのままなのだ。」