第四話 崩れゆく意識の中で
――お前さんは、ここでくたばるのは、ちと早すぎるんじゃないかの?
不意に……誰かの声が聞こえた。
「お前さんにはまだ役目がある」
――聞き覚えがある。
「本来なら、生身の人に関わるとわしも危ないのだがな、仕方ないの」
この声は――
「――方……千!」
「ほお、覚えておったか」
崩れ去ろうとする僕の体を、方千が支えた。
「よく狐を出さずに理性を保てたな」
そう言って、未だ手を僕の中から抜き出さない子をにらみつけた。
「褒美じゃ、後は任せておけ」
子の、動きが止まった。
「だれ……だ」
僕の体から手を抜き、後ずさる。
「お前と同じものだ、が、お前とはちと格が違うがの」
そう言って、口で小さく呪を唱えた。
とたんに、がくりと子の膝がくずれ、地面に倒れ込んだ。
「さて、どこかで聞いとるのだろう? 霊元よ」
子に向かい、楽しそうに方千がそう言った
「わしと力比べでもしてみるか」
ふぉ
ふぉ
ふぉ
方千が、高笑いをする。
と、子が唐突に口を開いた。
「あなたと、力比べをする気は毛頭ありません」
先ほどまでとはうって変わった口調でそう言った。
「仕方がありませんね、今回は私が下がりましょう、しかしあなたも、自らが理に消されたく無いのであれば、むやみと人に関わらぬことですよ」
「は、わかっておるわ」
そう言って、方千はにんまりと笑った。
「……ふ、では、またいずれ」
不敵な笑みを浮かべ、子は次第に姿が薄くなり、消えていった。
「ほっ、青二才が生意気な口を聞きおって」
笑みを浮かべたまま、方千がそう言い放った。
「さて、大丈夫か? 憂」
「……ああ」
血はまだ止まっていないが、急所は外れたらしい。
「とにかく、安静にしておれ。近くにわしの住まいがある、とりあえずそこで手当をしよう」
そう言って、方千は僕を背負い、森の方へと歩き出した。