第一話 道の始まり
山門をくぐり抜けた時にふと立ち止まり、仰ぎ見た。
古ぼけた荒れ寺の山門には、真新しい字で香泉寺と書かれていた。
僕がこの寺に来たときに華梁が書いた物だった。
香泉寺、と言う名には、由来が有ると華梁が言っていたのを覚えている。
この信仰が盛んな国では、教えを香に例えられるらしい。
香という存在自体が、教えの本質に似ているから、なのだそうだ。
――例えば香の香りを衣服にしみこませれば、香から離れてもその香りは衣服に残るだろう?修行者は教えを一度聞けば、例え寺の中じゃなくても教えを実行できる。そんな意味合いを込めたものだ。
そう、華梁は言っていた。
香が、泉の様にわき出る寺。
「俺は、暦縁さんの教えを広めたい。だから香が泉の様にわき出る寺と、暦縁さんの教えをたくさんの人に広めたいと思ってこの寺をそう名付けたんだ。」
「今は、涼美と憂だけだ。だけど、いずれ。たくさんの人でにぎわう寺にしたい」
――先は、長いけどな。
そう言って華梁は笑った。
僕も、出来ればその夢を叶えてあげたい。
そのためには、僕自身が救われていなければならない。救いとはどういう物かと言うことを分かっていなければ、人は救えない。
そして、
人を救う事が出来れば、僕の手によって苦しめられた人を救うことが出来る。
都合のいい話かもしれない。彼らを苦しめた僕が、彼らを救いたいだなんて。
・・・しかし、僕がたとえ罪の報いを受け不幸になったとしても、僕の手にかかり死んだ人は生き返らない。不幸になった人は、幸せになれる訳じゃ無い。僕の行った罪は過去のものだからだ。
だから、僕は。
精一杯努力して、救われる。
そして、僕が得たものを他の人にも伝える。
僕の話を聞き救われた人がまた人に話せば、その次の人も救われる。次の人も話せばその次の人も救われる。
そうすれば、たくさんの数の人が救われる。
この一生を、他を救う事に捧げたい。
そう、思ったのだ。