月夜の会合
暗い森の中に一人の男が立っている
男は、月を背に飛ぶ、鳥の様なものを、じっと眺めていた。
やがて、二人の男が現れる。
僧形の姿の男と、奇妙な狐面。
狐の面をかぶったものが、鳥の様なものを空から打ち落とした。
にたりと嗤う。
――やはり、楽しませてくれる。
そうつぶやいた。
二人の男が去った後、
静かに、男が鳥の様なものの前に、歩み寄った。
じっとうずくまったその姿を眺めながら。
…お前は失敗作だなあ。
そう、言った。
―お前くらいに奴を恨んでいるのなら、ひょっとするといけるかと思ったんだがね。
―いやはや、期待はずれだったよ。
そう言って、男は鳥の様なもの…子を蹴り飛ばした。
「ぐ、」
短くうなり、子は動かなくなった。
男の口元が、つう、とつり上がる。
嗤っているのだ。
「おもしろいな。恐怖という感情は、あそこまで狐の理性を無くすことが出来るのか。」
く
く
く。
心底可笑しそうに、声を押し殺して男が嗤った。
黒い、水干を着た男だった。
「多少は、面白くなりそうだ。」
子は、いつの間にか消えていた。
その虚空を見つめ、男は言った。
…なあ、暦縁?
お前は、奴をどうするつもりだ?
華梁とか言う、若造に任せ、お前は奴に何を学ばせるつもりだ?
―無駄だ
―無駄だ。
なあ暦縁?
お前も、退屈なのだろう?
所詮、生とは暇つぶし。
生きるというのは退屈そのものだ。
お前も奴を使い暇を潰したいだけなのだろう?
なあ、暦縁?
お前はあの狐に何を求める?
何を見いだす?
無駄だ。奴は何も出来ない。人は単独では生きて行く事は出来ない。
奴は、獣でも、人でもない。
いずれ何もかもに絶望し、落ちて行くだけだ。
巨大な、憎しみと力を持ちながらな。
見てみたいとは、思わぬか?
か
か
か。
嗤う。闇の中に男の嗤いが、こだまする。
そのとき、
…ざり。
背後で音が鳴った。