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闇路妖狐  作者: 狐禅
19/64

初話  夢の追憶と物語の始まり

――――これは、夢か。





記憶は曖昧。


僕は、竹林を駆けていた。

手で、足で、獣のように地を蹴り上げながら。


これは、どれほど前の記憶だろうか。


いや、


僕の手にはもう、地を駆ける感触と、人の首を効率よくかき切る技術しか持ち合わせてはいない。となると、いつの記憶かということを探るのは問題じゃないのかもしれない。


ただ、地を蹴り、前へと進んでいた。


追っ手に追われていたのかもしれない。


それも、いつもの事だ。


ただ必死に地を蹴り走っている。


不意に、視界が開けた。


目の前にはこじんまりとした庵が立っていた。


濡縁に一人の男が座っている。


黒い、法衣を着た男。整えてあるのか無いのか分からないぼさぼさ頭。


「なんだ?狐か。 ……いや人だな」


のんびりとした口調でそう言った。


「そんな所で、なにをしてるんだ」


男は濡縁から立ち上がり、ゆっくりと歩み寄ってきた。


人の言葉など忘れてしまった頃だ。


僕はうなりながら、男を威嚇した。


「ほら、ここに来たのなら客人だ。上がって茶でも飲まないか」


そう言った。


はじめ、男が何を言ったのか分からなかった。


客人?


上がってこい?


けだものの僕に向かって?


何を考えてるんだ、こいつは。


僕が、怖くないのか。


「ほら」


男が手を伸ばす。


危害が加えられると思い、僕はその手にかみついた。


男は少しだけ顔をゆがめたが、すぐにさっきの飄々とした表情に戻った。


「……おいおい、何をしてる。お前はれっきとした人間だろう?それはけだもののやることだよ」


「……!」


人、と


男は、僕のことをそう言った。


人として、接してくれた。


僕は人と認められた。


僕は噛みついていた男の手を離した。


「お……れは」


久しく忘れていた人の言葉。


「人……なのか?」


僕は男にそう尋ねた。


「当たり前だろう」


男は即答した。


「さ、人となれば客人だ。

客人を外に放っておくのは気が引ける。

入ってくれ。丁度いい、今日は、うまい茶と菓子があるぞ」


にっこりと笑って男がそう言った。


子供のような無邪気な笑顔だ。


思わず頷いてしまった。


そのとき、僕の来た方向から、一人の男がゆっくりとした足取りで現れた。


追ってきた、という様子ではない、



この場所は、来ようと思って来れる場所ではない。


人里から離れすぎているのだ。


しかも、


僕はこの男にも見覚えがあった。

否――見覚え、ではない。

僕はこの男を、生まれた時から、知っていた。


何度も、幾度とも、この男と僕は、「合っていた」


そして――ずっと、僕を、「見ていた」


とっさに僕は近くの物陰に姿を隠した。


男のことを、僕は、知っている。


この男には、関わってはいけない。


――しかし、すでに僕はどうしようもなく、この男と、縁を結んでいる。


この男は、


僕にとって、とても恐ろしい、嫌な存在だ。

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