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闇路妖狐  作者: 狐禅
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十六話 一筋の光明

村に、着いた。


まだ、村人のすすり泣く声は途絶えることはない。


この声が無くなる事は、あるのだろうか。


まるで、止まってしまった物語を繰り返し見ているような……そんな気分になる。


物語が止まれば……当たり前のことだが、何度見てもその場面から先に進む事はない。


それでも、物語が進むことを望み、見続ける。


その行為意味は無いことは分かっている。


物語を進める事が出来ないのならば……僕らはただただそれを見続ける事しかできないのだ。


以前の僕もそうだった。


十の時、僕は先へ進むことをあきらめてしまった。


その場に……止まった場所にとどまることが精一杯だったからだ。



前進するのが怖かった。


 だから僕の内側の「時」を進めようとするもの達を殺し続けた。


後退するのが怖かった。


 だから僕の内側の「時」を乱そうとするもの達を殺し続けた。


臆病で、今の自分を守り続けるために人を殺した。


――現実の時間は常に流れつづけている。


……が、


僕の中の「時間」はあの時から止まったままだ。


僕自身が「変わってしまった」あのときのままなのだ。


自ら、「時間」が進むのを拒んでいたのだ。


進めば、取り返しのつかない場所まで行ってしまう、と根拠もなくそんな不安を抱えていた。


でも、それは間違っていた。


ようやくわかった。


今の自分に固執したところで……残るのはただのむなしさだけ。

それならば、死んでいるのと一緒だ。



 進まなければ、何も始まらないのだ。



だから、僕は


拳を、握りしめ、


大きな声で、


自分の出せる精一杯の声で、


        ――叫んだ。


           

――僕の行った行為に対しての

    謝罪の、言葉だった――




声がかれるまで、あやまり続けた。


嗚咽のように叫び続けた。



やがて、人が集まって来る。


――なんだ?お前は……


――……おい。


――こいつだ。


――この化け物だ。


――こいつが、息子を殺したんだ。


――こいつが、お父さんを殺したんだ!


――ゆるさねぇぞ。


――よくも、のこのこと、出てきやがったな。


殺してやる

殺してやる

殺してやる

殺してやる

ころしてやる

コロシテヤル



殴りつけられた。

その拍子に狐の面が外れる。


――見て、あの顔……


――……怖い!!


――化け物だ!


――化け物!!


――化け物!


化け物だ


化け物だ化け物だ


化け物だ化け物だ化け物だ化け物だ


化け物だ化け物だ化け物だ化け物だ化け物だ化け物だ化け物だ化


化け物だ化け物だ化け物だ化け物だ化け物だ化け物だばけものだばけものだばけものだばけも

のだバケモノダバケモノダバケモノダ―――――……………!!


なじる


泣き叫ぶ声が聞こえる。


誰かが僕を殴りつけ、


そしてそれは次々と波紋のように広がり。


気づけば村中の人々が僕を殴っていた。


棒で叩く人も現れた。


石を投げつける人も現れた。


それでも……僕は、あやまり続けた。


やがて枯れた声も出なくなり、口を動かすだけとなっていた。


それでも

僕は、それを止めなかった。


止めたくなかった。


止めれば、自分がくじけてしまいそうだったからだ。


せっかく進み始めた時が、再び止まってしまいそうだったからだ。




――気がつけば、もう夜になっていた。


やがて、僕を殴る人も減り。

周りには、人がいなくなっていた。


体はもう動かない

骨という骨が折れ、

体はもう、もとの衣の色が分からぬほど、血みどろだった


意識が……ぼやける。


しかし


ぼやけた中でも、はっきりと



――がんばったな。



そんな、人の声が、聞こえた。


もう目は腫れ上がり、声の主の顔が見えない。


――よく、耐えたな。


僕は、ずっと悩んでいた。


だけど、自分自身が罪を認めるのが怖くて、ずっと目を背け続けていた。


でも、それは、ただ逃げていただけだった。


まず、自分の罪は自分自身で悔いなければならない。



――なぁ


ぼくは」



声の主に向かって、そう尋ねた。


それは、初めて口に出した、素直な言葉。


僕は、……救われるために努力しても良いのだろうか。


「……ああ。」


――救ってやる。


――だから。


――だから、お前は。



    誰よりも、幸せになれ。



僕の頬に一筋の涙が流れた。


手を、さしのべられる。

    

僕はその手を強く握りしめた。


  ――永い、闇の路のりだったけど。

   ようやく目の前に、一筋の光が差し込んだ気がする――


ふわりとした浮遊感。


暖かい、手の平の感触。


僕は声の主に抱きかかえられた。




「香泉寺へ、帰ろう」




それは、暖かい、華梁の声だった。


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