十五話 「時」
僕たちは、村を出て、元来た道を戻り始めた。
「なぁ、華梁」
「なんだ?」
「さっきの言っていたことは、本当なのか?」
悪人でも罪人でも、
つらい人でも悲しい人でも
足が動かない人でも、目が見えない人でも、
自分に自信がない人でも、
生まれつき人より能力が劣った人でも、
体の全てを失ってしまった人でも、
過去に大罪を犯してしまった人でも、
全ての人に等しく救いはある――
――過去に大罪を犯してしまった人でも――
それならば…
――僕も……
「俺も、救われたいと思っても良いのだろうか?」
ずっと、暦縁の元でもずっと……
僕には罪悪感があった。
――人を、たくさん殺したのだ。
幸せだった人もいただろう。
生きるのが楽しかった人もいただろう。
つらかった人もいただろう。
そしてそのつらさを乗り越えようと必死でもがいた人もいただろう。
僕は、その人達を、そんな人達をこの手で殺めてしまったのだ。
そんな僕が……そんな僕など、救いを求めるという行為すらおこがましい。
でも、それもまた、幸せになる事から目を背けた事。
自分自身で、幸せになる事を放棄している。
逃げていた、と言うことだ。
全ての人に救いが有るのなら。
僕の目の前にも、救いの道があるのかもしれない。
「こんな俺でも……救いを求めても良いのだろうか?」
――救われても、良いんだろうか。
「もちろんだ」
迷うそぶりを見せずに、力強く華梁がそう言った。
「本当か?」
「本当だよ」
「ならば……」
――僕も、救いを求めたい。
静かに、時が流れ始める。
それは十の頃、自ら、進むことをあきらめてしまった時間だった。
どうやら、
こんな僕でも救われてもいい世界があったらしい。
「華梁」
「なんだ?」
「少しだけ……ここで待っていてくれないか」
「どこへ行くんだ?」
「また、あの村へ戻ってくる」
――救われてもいいのなら。
――僕のやった行為に、けじめをつけねばなるまい。
「そうか」
華梁は、僕の意図を読み取ったのか、にこりと笑った。
「行ってこい。憂」
僕は、力強くうなずいた。