表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇路妖狐  作者: 狐禅
15/64

十三話 自嘲

村では、どの家からもすすり泣く声が聞こえていた。

外を歩く者いない。


ただただ古びた家屋の中から、故人を思う泣き声が聞こえてくるだけである。


僕の記憶では村はこんな所では無かった。


貧乏ながら活気にあふれ、威勢の良いかけ声や、子供達の笑い声が聞こえる、そんな村だったはずである。


……ここは僕が、少しだけ住んでいた村だ。一月くらいの間だったろうか。


素顔を見せることが、僕の日常を壊す原因だと知っていた僕は、ひたすらそれを隠し、平穏な日々を過ごしていた。


だが、ある日、簡単に崩れたのだ。


……今考えてみれば、軽い冗談だったのだと思う。


良くしてくれた酒屋の主人が、僕の隙を突いて面をとったのだ。


きっと僕の顔に傷ややけどの痕があって、それを隠すために面をつけてるとでも思ったのだろう。


あまり心を開かない僕を思って…そんなもの恥ずかしがる必要は無い、と、そう言いたかったのかもしれない。


……今となってはもう分からない。


結局、素顔を見られた僕は化け物扱いされた。





華梁は、家族の亡くなった家に入り経をあげている。

きっと、あの子の家を探すためだ。


――通りがかりの僧です。この村でたくさんの人が亡くなったと聞きました。供養のため経を上げさせていただきたいのですが―


聞き慣れない「僧」と言う言葉に、村人は首をかしげたが、華梁に悪意が無いことと、亡き人の供養をしてくれる事に感謝され、たいていの家では中に上げてもらえていた。


やはり、聞かない言葉なのだろう。僕も暦縁さんから聞き、初めて知った言葉だったから。


――僧か。


―暦縁さんに聞いた話だ、海を渡った別の国で、日本とは全く別の考え方が説かれた(おしえ)があるらしい。


「ほとけ」…とか「しゃかむにぶつ」と言われた人が説いた考え方らしいが(暦縁さん(いわ)く、考え方ではないらしいのだが、僕はよく分からなかった。)こちらの国では、あまり聞かない(おしえ)だった。


ここの国で信じられている(おしえ)は、もっぱら「神」が中心で、(おしえ)とは「神を崇め奉る」というのが常識だった。


それ以外の(おしえ)というようなものはあまり伝わっていない。神を信じるか、信じないか、という二種類の人に分かれているだけである。(一応は、伝わっているらしいがひどく一部の人が知っているくらいなのだだそうだ)


実際に僕も、「神社」という建物は知っているが、寺という建物は暦縁さんに出会って始めて見た建造物だった。


暦縁さんからその「(おしえ)」を聞いていたが、僕にはなかなか理解することが出来なかった。結局最後まで曖昧なまま、暦縁さんのもとを離れてしまった。


首をかしげている所を見ると、村の人々も僕と同じだったらしい。


今、華梁が家に入れてもらっているのも、人柄のおかげなのだろう。


僕はというと、もっぱら家の陰に隠れて行動していた。


村人に見つからないよう……慎重に……


   ――すすり泣く声を聞きたくなくて、ずっと耳をふさいでいた。

     ――僕はまだ……自分の罪と、向き合う事が出来ないでいるのだ。


華梁は二、三軒の家を周り、「あの子供の家が分かった」と言った。






「あそこの家だ」


華梁の視線の先には、小さな茅葺きの家が建っていた。



華梁は入り口に立ち、扉を開けた。



   ――ひどく……空気が薄く感じた

   この家のだけ何かが禍々しく淀んでいる気がする――


――中には膝を抱えた浅黄色の子供がうずくまっていた。


「……だれ、ですか?」


心底、現れた人間に興味がなさそうに、それはそう(さえず)った


「お前を、救いに来た」


おもむろに、華梁が言った。


「救い、に?」


「そうだ」


……。


「どこに、救いが有るというのですか?」



「救いは、いつもお前のそばに有る」



ふふふ

子は自らを(あざけ)(わら)った。


     ――気休めなど、必要有りません。


     ――僕の救いは、ただこのまま眠ったように死ぬ事だけです。


       ―――望みは、ただそれだけ。


か細い声で、そう言った。


「救いがそばに有る……その通りかもしれません。」


華梁に向かい、立ち上がる。


「死は、ここにある。

あなたが僕をこの場で殺してくれれば僕は救われるのです」


         ――さあ。


両手を、広げた。


         ――救えるのなら、僕を救ってください。



子は瞳をゆっくりと閉じた。


「だが、今のお前を救うことは無理だな」


ぴくり、と、肩をふるわせた。


「……どうしてですか?」


「簡単だ。お前は、救われることをあきらめているからだ」


「――何ですって?」


「死が本当に救いだと思うのなら、なぜお前はさっさと死なないんだ?なぜうじうじと今まで膝を抱えていたんだ?」


 それは、


「お前自身が、死を本当の救いだとは思っていないからろう?」


「……」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ