十二話 ほんの少しの前進
――おい、憂!
華梁の叫び声で、理性を取り戻した。
目の前には、気を失った子供の姿。
「え、あ……?」
僕は、今
何をしていた?
僕は、右手を振り上げるような形で止まっていた。
これを振り下ろせば、目の前の子供は確実に死ぬ。経験で分かる。
じゃあ、僕は
この子を、殺そうとしていたのか?
「やめろ、もう」
華梁がその少年の前に立はだかった。
「こいつを傷つけても何の解決にもならん。これはこいつの意思だ、実体がない。
……普通なら触れることも出来ないはずなんだがな……
まあそれはいい。
とにかく、お前はもう手を出すな」
冷たい視線。
僕は、目をそらした。
僕は
僕は、
何をやっているのだ。
もう、殺したくないのに。
せっかく、暦縁さんが諭してくれたのに。
これじゃあ、何にも変わっちゃいない。
昔と同じ、……ただの獣だ。
体の力が抜け、よろよろと近くの木に寄りかかる。
華梁は、そんな僕を一瞥し、少年の方へ向き直った。
「……問題は、こいつか。
……ああこりゃ洞穴の前にいた子供だな。
それなら話は早い」
そう言って、華梁は立ち上がった。
「お前は、ここで待ってろ。少し寄るところが出来た」
「……何処に、行くんだ?」
「こいつの実体の所へだ」
と言うことは、
……あの村か。
「俺も……」
「だめだ」
即答だった。
「お前は面が割れているだろう? 見つかると面倒だ、寺で待ってろ」
冷たく……華梁はそう言い放った。
でも、僕はここで引き下がるわけにはいかない。
ここで引き下がれば、僕は只の人殺しなのだ。
……こいつの母親を殺したのは僕なのだ。
ならば、
ならば、せめて僕がこいつを救いたい。
「……絶対に見つからない、だから連れて行ってくれ」
「…………」
華梁が僕の目をじっと見る。僕の考えをはかりかねているようだ。
「……俺が、こいつの母親を殺した」
だから、
「俺は、こいつを救う義務がある。華梁にだってそれは任せたくなはい。……俺の責任なんだ」
僕がそう言うと、華梁は少しだけ驚いた顔をした。
――そして…心なしか表情を緩めた。
「……しょうがないな。」
ため息まじりにそう言った後、華梁は僕に背を向けた。
「……見つかるなよ。まぁ、さっきの戦い方を見てると足手まといにはならんだろうがな」
一緒に行ってもかまわないということだろう。
僕は、歩き出した華梁の後を追った。
「……やっぱり、お前はけだものなんかじゃないさ。」
ぽつりと、華梁がそう言ったのが聞こえた。